第十節:乗船

「半券は後で割りましょう、船に乗ってから目の前で割れば無くすことはありません。それまでは『ゲルハート』さんが持っていてください」と私はいった。


 こうすれば確実に、皆の手に渡るしと思ったわけである。


 『ウィーゼル』もうなづいている。


「とりあえず、まだ時間もありますし、お茶飲みませんか?」と私がいった。


「少しは落ち着くと思いますが」と私が『セリア』を見ながら追加した。


「まあまずは落ち着くところからいこう、あせっても始まらんぜ」と『ゲルハート』はいった。


「気持ちを落ち着かすのも、大事なことじゃないかな?」と『ウィーゼル』も同意した。


「ハーブティーで気持ちの落ち着くものを四人分」といいながら、一シルズを出した。


 お釣りが八十ブロス(十ブロス青銅硬貨×八枚)戻ってきた。


 現財産額が四百九十一ゴルト八十五シルズ八十ブロスとなったわけである。


 旅行財布の中身[1.005kg]

 五十G×九[0.54kg]、十G×四[0.12kg]、一G×二[0.030kg]、

 五十S×一[0.05kg]、十S×三[0.105kg]、五S×二[0.05kg]、一S×五[0.10kg]


 旅行小銭入れの中身[0.16kg]

 五十B×零[0.00kg]、十B×八[0.16kg]、一B×零[0.00kg]、

 五十Ca×零[0.00kg]


  貨幣全重量一.一七五キログラム、


 体重を除く全備重量が六十三.七九五キログラムとなったのである。



 そして、皆で蒼いハーブティーを飲むのであった。


「少し落ち着いたかも」と『セリア』はいった。


「やっぱり船旅は浪漫ろまんよねー」ともつぶやいた。


 まだ完全に鎮静化はしてないようであった。


 薬のように効くハーブティーは無いから仕方がない。


 仮にあるとしたらそれはヤバい薬であってハーブティーなどではない。


 とまあ、色々あったがパーティーがこうやって落ち着と言うのも悪くは無いなあ。


 と思った時であった。


 丁度ちょうど船が一隻、白くて大きい四本マストを広げた船が汽笛を鳴らして入港してきたのであった。


 あれが……、とじっくり眺めていた。


 とても白くて綺麗な船だったのは確かであり、半木半鋼船であったのである。


「アレがサラトガ・マーメイディアと言う船だぜ」と『ゲルハート』が指さす方向を皆が見た。


汽笛きてきを鳴らしているということは、魔導蒸気機関を積んでいるのですか?」と私が聞いた。


「どうやらその様だな」と『ウィーゼル』が反応した。


「最新鋭じゃないですか。良い船に巡り合えましたね」と『セリア』にいった。


 しかもスマートで、外輪船では無かったのだ。


 実家で弟が読んでもらっていた絵本に載っていたので、船のことはある程度知っていた。


 実家は内陸部に位置したので、大きな船に乗ったことは無かったが小さい釣り船や小さなヨットには同乗したことがあるので、私に船酔いという言葉は存在しなかった。


 昔から、お転婆てんばだったことの証明でもあるわけだ。


 『セリア』は感動のあまり、あまり言葉にならないようだった。


 実際近付いてくるとかなりのクルーがおり、操舵手の腕もかなり良いことが分った。


 大きな外輪船やそれに該当する大船は大抵、接岸する際に引き船や押し船という力のある魔導機関を積んだ小型船にお世話になるのだが、それが発生せず単独で接岸に成功していたからでもあった。


 周囲に船が全く停泊していないようなガラガラの状態では無くかなり舟が停泊している密度の高い状態でそれをやってのけたからである。


 帆は生えてはいるが、多分予備加速に使うものであると考えられた。


 その昔、サラト湖沿岸に来たことはあったが、このような大きい船は走っていなかったように思うのだ。


 新造船であることの表れでもあった、チトーという街に大きな造船場があるんだと父から教わっていたので、船は創れるものだというのは知識的に知ってはいたが、まさかここまで大きな船とは思わなかったのだ。


 その昔、父と少しの工程の旅をディオーネと呼ばれるエフェメリスと同型の都市の父と仲の良い貴族でディオーネ伯爵という方に会うために、小旅行をしたことがあった。


 その時は、湖には寄らなかったが、標高の高い高原都市でもある。ディオーネの高台にあったその貴族の家から、遠見の魔鏡を使わせてもらって、湖を見たことがあったのを思い出していた。


「『ウィオラ』も船は初めてか?」と『ゲルハート』に聞かれた。


「いいえ、初めてでは無いけど、小さい船になら何度か乗ったことはあるから。大きな船は初めてかな?」と私は答えた。


「なら船酔いは大丈夫だな」と『ゲルハート』がいった。


 着岸しているので客の降りが始まっていた、乗船できるのは十一時五十分以降らしかった。


 部屋掃除のエキスパートが今頃、船内掃除を凄まじいスピードで行っているはずだったからであり、直ぐに乗れないことは絵本で見た通りであったからである。


 また、船から中型クレーンで大荷物が運び出され、そして新しい大荷物が運び入れられていてクルーがキビキビと働くそのさまは見ていて好感が持てるものだった。


 帆のほうもセイラーたちが一旦綺麗にまとめ折りたたんで行く、離れ業を見せる余興のようなことも、やってくれていたためさらに受けが良かった。


 そしてクルーとセイラーの連携がまた素晴らしく遅滞ちたいなくことは運んでいるということもあって、ラウンジの半分くらいの客は皆見惚みほれていたのである。


 そしてあっという間に時が過ぎ、乗船の時間がやってきた。


 私達も『ゲルハート』からチケットを『セリア』が一枚受け取った。


 『ウィーゼル』も心なしか楽しんでいるように見えた。


 『セリア』は多少緊張していたが少しの緊張があるくらいのほうが物は落としにくい、と踏んだのでそのままにしておいた。


 乗船者は皆、列を作っていたので、その列の後ろに私達四人も並ぶことになった。


 乗船者としての並び順は『ゲルハート』、『ウィーゼル』、『セリア』、私の順で並んでいた。


 私達も十一時五十五分には乗船が決定し、左舷側に降ろされたタラップを上り『ゲルハート』がそこで半券を割り後ろの『ウィーゼル』にその別れた半券を渡し、その自身のチケットをクルーに渡しすと同時にハンドタッチを魔導認証機材に行い乗船して行った。


 『ウィーゼル』も同様にそれに習い、クルーにチケットを渡し同時にハンドタッチを行うと乗船して行った。


 『セリア』の順番になった、『セリア』もそこで初めて半券を割り、片側の半券を私に渡すと、クルーにチケットを渡しハンドタッチを行い乗船して行った。


 私もクルーにチケットを渡すとハンドタッチを実施し乗船して行ったのである。


 皆、乗船の儀式は無事済んだのである。


 船内ガイドブックは乗船したらもらえるようで、配っていたので私もそれをいただいた。



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