第2話深夜のカミングアウト
「私のメッセージ読んでもいないわ」
「奴は何て?」
「鉄之助からは何も」
「部屋で Netflix でも見てるんじゃねぇ〜の」
麻美は下着姿にパーカーを羽織って、、スマホで鉄之助の動向をチャックしている。今、麻美がすわっているベッドの上では数時間前まで、俺たちは裸で絡み合っていたのに。
俺は冷蔵庫からジャーマンポテトを取り出し、電子レンジでチンした。近所のスーパーマーケットの惣菜コーナーで買っておいたやつだ。コーヒーが出来たので
麻美に、そしてもう一つのマグカップに俺の分を。
俺は食卓テーブルで軽く食事。
「あ、分かった分かった」
「おう、どうした?」
「鉄之助、月ヶ丘小学校へ行くって」
「小学校、こんな深夜になぜ?」
麻美が深刻な顔をしている。
「お願い、車出して」
起きている人間が少ない街を俺たちを乗せた車が走る。国道は人気がない。LEDライトの街灯が根雪を照らす。
舞い上がった雪片が走る車の底に当たる。俺と麻美は今どき珍しいセダンの前部シートに体を埋めている。
「寒くない?」
「大丈夫」
車のエアコンがなかなか効かない。肺が冷たい水で濡れていているよう。お互いしゃべると口から白い息が漏れる。
「私、小学生のとき陰で担任の先生にセクハラされてたの」
車の電気モーターが静かに唸る。気まずい沈黙がしばらく続いたあと、突然、麻美が告白を始めた。
「不気味な先生だった。放課後、教室に呼び出されて、二人きりになって。笑いながらくすぐられたの、『こちょこちょこちょ』って。私は誰にも言えなかった。皆にバレると私まで汚てるんじゃないかと……それを鉄之助が気付いてくれて……当時まだみんながスマホ持ってたわけじゃないんだけど、鉄之助は持ってたから」
麻美のトラウマを知って俺は戸惑った。しかし、麻美は話を続けた。
「鉄之助が担任教師のセクハラ行為をスマホで隠し撮りして、市の教育委員会に送信したの」
暗闇の中、運転席の光るデジタル計器が、孤独な麻美の顔を照らしている。
「それ以来、私は鉄之助と……」
「一回助けられたくらいで奴に義理立てすることないよ」
「ところが……そんな単純な話じゃないのよ」
助手席にいる麻美の呼吸が浅いように聞こえる。焦っているのだろうか。
鉄之助がいる深夜の月ヶ丘小学校へと向かっている。
決して、不吉な冬にしてはいけない。
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