9.思春期の妄想
「……」
それに狛が気付いたのはいつも通りに湯船につかる前だった。毎日体を洗ってから髪を洗う。その時ついでに耳を洗う。彼のいつもの習慣。それで気付いてしまったのだ。
――ライト、浸かったのかな。
狛はあの時ライトに弄ばれた感触を思い出しながら、自分の耳を軽くつまんだ。狛の顔はじわじわと朱に染まって、体から立ち昇る湯気は彼の熱をますます上げた。
なんだかイケないことな気がして、狛は湯船の前で立ち尽くしている。やがてそーっと手を近づけて、パチャパチャと音を立て始めた。
狛は、そうやって少しずつ慣らして入浴した。
「ふぃー」
緩ませた頬から声が漏れる。
――なんてことねー、いつものお風呂だ。
そう心に呟くものの、彼の心臓は回り出したモーターのように着実に速度を上げ始めていた。
顔は真っ赤に熱くなり、耳はピンと張っている。いや、耳はよく見れば少し震えていた。分かりやすく言うと彼は上がりきっていた。
少しずつ慣らしても、わざとらしく寛いだ声を出しても、心の中で言い聞かせても、
――ダメだ!出よう!
狛が立ち上がると湯船のお湯が勢い良く溢れて、そばにあった桶を流していった。
脱衣所で狛はすぐに着替えた。服を脱ぐ時に意識しなかったものが今は気になって仕方なかったからだ。
「……」
何千年も昔から洗濯機というものは大して進化していない。
いまの宇宙人はシャワータイプの洗濯機を使うこともあるらしい。それは服を着たままルーム内に入り煙を浴びて殺菌消毒するというもの。シミ汚れもきれいサッパリ落ちるスグレモノらしい。外着のまま寝てしまう忙しい人には大ウケらしい。
――ウチには要らないよなぁ。なんかちゃんと洗濯しないとキレイなった感じないし。
狛はそんなことを考えながら何気なしに洗濯機を覗いた。横歩きでコソコソと近づいて、横目でチラリと。
そこには狛の脱いだ服があった。
――うん。だよなー。
そしてその下に見知らぬピンクの紐が見えた。
狛の耳にドクンドクンと心音が鳴り響く。彼はそんな激しい動悸を深呼吸で収めようと試みた。どうやらそれは功を成して、狛は目を逸らすことができた。
「……ふぅ、落ち着け俺。ハカセの感触を思い出すんだ」
「おぉ……それでホントに落ち着くのかい?」
「ッハァ!!」
背後からいきなりハカセに話しかけられ、狛が飛び上がった。彼が振り返ると脱衣所の入り口にハカセが座っていた。
「い、いつから見てた?」
「……。大丈夫、誰にも言わないから。そうだ、なんなら今僕に直に触りたまえ。思い出すだけでは苦しいだろう」
「その反応かなり最初から見てたやつじゃん!言えよ!いつから見てたんだよ!カニ歩きしてた辺りか!?」
「狛少年が服を着て黙り込んだ辺りからだ」
「ッハァ!」
「まぁそんなことより、ちょっと来てもらいたいんだけどいいかな」
「そんなことっ!?」
狛が耳を立ててショックを示すと、ハカセはため息を吐いて四つ足を伏せた。
「ほら、抱きながらでいいから行こう。そして落ち着きたまえ。――心配するな狛少年、君の行動は12才の少年としては健康的で、むしろ褒められるべきものだ」
「フォローされても嬉しくねーよ!」
そう言いながらも狛は素早くハカセを抱き上げる。そのホカホカモフモフの感触に少し癒されたようだ。アワアワと慌ただしかった彼は落ち着き、いまは和んだ顔をしている。
「さっきより毛並みが良いなハカセ」
「やれやれ。君もなかなか単純というかなんというか。――とにかく行こう。ライトが待ってる」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます