第6話 わがまま
母の記憶がないわたしに
父がその人を連れてきた
その人は兄をふたり連れていた
わたしの新しいお母さん
新しいお兄ちゃんたちだと
父が言った
その人たちは幼いわたしに
いつも優しかった
お母さん……ってこんななんだ
お兄ちゃん……ってこんななんだ
突然できた家族を
わたしは嬉しいと思った
小さかった頃の初夏
一緒に暮らし始めて幾年月
父は変わらずわたしに優しかった
でも新しい母にも兄たちにも
みんなに優しかった
本当の家族にならないかと
父と母が言った
わたしと兄たちに
そう言った
結婚したいのだと聞かせてくれた
本当の母に……なってくれる
本当の兄に……なってくれる
血の繋がらない家族だけど
わたしは嬉しいと思った
兄たちも嬉しいはずだと思ってた
それなのに……
兄たちが揃って反対した
本当のお父さんとの
記憶と繋がりを絶ちたくないと
わたしの中に
嫉妬と羨望が芽生えた
わたしには
母の記憶もないのに……と
それなら父をかえしてと
もっとも残酷なわがままが
わたしの口から
涙の雫も
言ってはならない言葉だった
あれから結婚話はなくなって
父の背中は淋しげで
わたしは甘えたフリしかできなくて
世界で一番
いけない子になった……
あの時のわがままを
謝ったなら甘えられるのかな……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます