第2話 窓居圭太、榛原ミミコに兄失踪の経緯をたずねる
ぼくの隣りには
このままでは
「ミミちゃん、とにかくその話はきみの家で、詳しく聞かせてくれないか。
これからそちらに行っても、大丈夫かな?」
ミミコはようやく泣きじゃくるのをやめて、答えた。
「はい……大丈夫です。待ってます、
ぼくは取るものもとりあえず、パーカだけ羽織って家を出たのだった。
電話から10数分後、ぼくは榛原の家に着いてソファに座り、顔を派手に泣き腫らしたミミコと向き合っていた。が……。
ぼくの隣りには、お姉ちゃんと明里も身体を小さくして遠慮がちに座っている。ぼくの後を尾行して、
「どーしてここにいるのかな、きみたちまで(怒)」
ぼくが詰問すると、お姉ちゃんが答えた。
「だってぇー、第2章以降、わたしたちの出番ってほとんどなくってぇ、たまには出番が欲しかったのぉー❤️」
「メタ発言、すんなっ!」
「それに、けーくんとふたりきりやと、ミミコちゃんも緊張してうまく喋れんかもしれんしな。
ここはうちら、お姉ちゃんズが一緒におれば、ミミコちゃんも安心して話せるやろ」
ベタな関西弁で、明里が答えた。誰がお姉ちゃんズだっての!
そんなぼくたちのやりとりを見ていて、ミミコがクスッと笑った。
「ミミコはぜんぜん、かまいませんよ。『三人よれば
一番年下のミミコが、一番大人な対応をしたのだった。
「ええこと言うなぁ、ミミコちゃん」「そうよ、お姉ちゃんズがついてれば、百人力よ。任せなさい!」と喜ぶふたり。
これにはぼくも文句が言えず、姉と従妹の同席を認めざるを得なくなった。やれやれ。
「それでさっそくだけど、榛原と最後に顔を合わせたのはいつなんだい、ミミちゃん」
ぼくはようやくふだんの笑顔を取り戻したミミコに尋ねた。
「そうですね、昨日は夜7時ごろマー
「ん? 『ふたりで』ということは……もしかして、ご両親は一緒じゃなかったということなの?
そう言えばさっき、玄関に出迎えてくれたのはミミちゃんひとりだったよな。
ご両親はいま、いらっしゃらないってこと?」
「そうなんです。つい言いそびれちゃったんですけど、パパとママは昨日の午後から『
2泊3日の予定だと言っていました。行き先はこれからクルマの中で決めて、宿は現地に着いてから確保するんだとも。気ままでフリーハンドな旅が最高なんだって、夫婦して言ってました」
「そうなのかー。そいつは間が悪いというか、なんというかだな。
旅行に出かけた昨日のきょう、榛原が姿を見せなくなったという理由だけで、ご両親を東京に呼び戻すのもどうかということだよね。せっかくの旧婚旅行だし」
「はい、その通りです。パパやママには、さすがに旅行を中止して帰ってきてくれと言うわけには行きません。
マー兄の件はミミコが自分の力で解決しないと、ふたりのせっかくの思い出が台無しです。
電話も、かけるだけでふたりを不安な気持ちにさせてしまうので、かけていません」
「そうだよな。ご両親には、よほどそのお力を借りしなくてはならない状況になるまでは、何も連絡しない方がいい。
それにもしかしたら榛原だって、たまには家族のことを完全に忘れて、ぶらりとひとり旅をしたくなることもあるかもしれないしね。解決しようとする前に、問題は自然に解消するって可能性がある。
あまり、悪い可能性ばかり考えないほうがいいよ」
「最初はミミコも、そう思いました。7時台に目覚めてすぐ、ミミコはマー兄がいないことに気づいたのですが、ああ朝の散歩に出かけたのかなと考えました。
でも、いつになっても戻ってこないので、どうやら散歩ではないことに気づきました。どこか目的地があっての外出だろうと。
マー兄はこれまで黙ってどこかに外出したことは一度もなかったのですが、今回はたまたま例外で、ちょっとしたきまぐれで出かけたんだと。そう、自分に言い聞かせたんです。
それでも何時間も経っても帰ってこないとなると、不安感、イヤな胸騒ぎが募ってきました。
その気持ちを静めるために、せめてマー兄の居場所だけでも確認しようと、1時間ほど前に携帯にかけてみました。マー兄は
しかし、何も応答はありませんでした。時間をおいて何回かけても結果は同じです。
黙って外出、そこまでは百歩譲ってありだとしても、音信不通にするなんて、マー兄の性格ではありえません。
果たしてマー兄は、意図的に電話に出ることを控えているのだろうか?
だとしたら、その理由はなんだろうか?
そうではなく、本人の意思とは無関係に携帯を取ることが出来ない状況にあるのだとしたら、その理由は?
マー兄はもしかして、とんでもない危険にさらされているのでは?
そう考えるとミミコの心は、乱れに乱れてしまいました。そして、昨日の夜、夕食の時にマー兄が口にした言葉をふと思い出したのです」
「榛原は、なんて言ったんだい?」
「こう、言っていました。
『ミミコ、もし俺が突然姿を消したら、どうする?』
内容が内容だったので、ミミコは思わずそんなことを言ったマー兄の顔をまじまじと見つめたのですが、とてもリラックスして冗談っぽい表情でした。
だから、その時は不安感など覚えずに、こう返したんです。
『なぁにマー兄、藪から棒に。そんなことって普通ありえないでしょ。
でも、万が一そんなことが起きたとしたら、そうだな、ミミコはマー兄と一番仲のいい窓居さんに相談すると思うよ』
そう答えると、マー兄は満足そうな表情でこう言ったんです。
『それが最適解だな、ミミコ。何も言うことはないよ』
変なこと言うマー兄だなぁと思いながらも、夕食後、ミミコはすぐにそのことを忘れてしまいました。
そして、いましがた思い出したのです。
マー兄が言っていた『もし』がなんと現実になってしまった。こうなると圭兄に相談するしかない、そう思って矢も盾もたまらず電話をしたのです」
「そういうことで、ぼくにあわてて連絡してきたのかぁ。なるほどねぇ。
昨日、榛原がなぜそんなことを言ったのか、とても気にかかるところだな」
ミミコはぼくのその言葉に、無言でうなずいた。
「榛原は、なんの気なしに言ったのかもしれない。が、こういう状況になってしまった以上、そこになんらかの『意図』があったと見るほうが正しいのだろう。
こういう状況になることを、昨夕の時点で榛原は予想していた。あるいはもしかすると、こういう状況になるよう、自ら企てていた。そのどちらかなんだろう」
お姉ちゃんズ、もといわが姉と従妹もいつになくマジな表情でぼくとミミコの対話を聞いていた。
全員から、自然とため息が流れ出た。
ぼくはそこでひと息入れてから、ミミコに向かってこう言った。
「何にせよ、手をこまねいて待っているばかりじゃ、いたずらに時間が流れるだけだと思うよ。
事件、と言い切っていいのかはよくわからないが、この件を解く上で何か手ががりになるものがぼくは欲しいんだ。
出来れば、榛原の過去、ぼくが彼とまだ知り合っていない頃を知る材料があると助かる。たとえば、写真のアルバムとか」
ぼくは、今まで話をしているうちに、きょうのきょうまで何も知らなかったことに気づいたのだ。
中学で同級になるまでの榛原が、どんなヤツだったのかを。どんな幼少時代を送ってきたのかを。
ミミコは、ぼくにこう答えた。真剣な表情で。
「分かりました。昔のアルバムが押し入れの奥にしまってあるはずです。それをお見せしましょう」(続く)
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