夢出会うなら

春嵐

夢、出会うなら

知っている。この感覚。浮いているようで、それでいて沈んでいく。


「夢だ」


浮遊感と沈下感が同時に優しく包んでくる。


そしてこういう夢のとき、私には記憶がない。記憶の整理をしているので、記憶がない。なんか不思議。


「思い出せない。自分の名前も、どこにいたかも」


それでも、不安じゃない。どこか安心する。

ここは、どこだろう。


「夢の中だよ」


「誰」


「ふふ。教えない」


姿。見えないし掴めないけど、分かる。そこにいる。笑ってる。


「ここは夢の中。あなたとわたしだけの」


やわらかで、暖かい。


「あ、やわらかくて暖かいのはわたしじゃないよ。たぶんあなたがいまかぶっているお布団のせい」


「そこは現実なんだ」


手を伸ばした。


「くすぐったいね」


掴めないけど、掴める。


「ねえ。あなたのことをおしえて」


「ごめん。記憶がないの」


「そっか」


「あなたは?」


「教えられることが、ないの」


「え?」


「あなたが、忘れてしまうから。おはなししたのに、わすれてしまうのが、かなしいから。おしえない」


「そっか」


繋がれた手の先。


「手じゃないよ?」


じゃあ、どこなんだろう。この感覚は。


「どこでもない。あなたとわたしだけの場所」


そこで、起きた。


「あ、起きた?」


「ねえ。なんで私の寝言で遊んでるのよ」


「そこはわたしのおっぱいです」


「どうりで暖かいわね。えいっ」


「やめて。ねじらないで」

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夢出会うなら 春嵐 @aiot3110

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