第2話
失われるのは一瞬である。
それが生まれ落ち成長するあるいは積み上げられていく。長い長い年月をかけて積み上げていく。
膨大な時間を積み上げていく。
ゆ
しかし失われるのは一瞬である。
どんなに身分ぐ高かろうと、どんなに貧しかろうとも、男であれ女であれ、うしなわれるのは一瞬である。
だから失わないために、これ以上奪われないために、私はきめたのだ。
すべての理不尽に争うと。
自分のすべてをかけて。
生命が尽きるその瞬間まで抗い続けると。
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空はどこまでも蒼く、太陽はどこまでも輝く。そしてアスファルトは太陽光を吸収反射する。
冷房の効いていない場所で動くものなら、たちまち皮膚から汗が吹き出し、シャツが吸いべっとりとまとわりつく。
この前短く切り揃えた黒髪も額にまとわりつく有り様である
10月になり季節的にはもう秋なのに、まだまだ夏が居座り続けている。
それにくわえて僕こと滝本譲(たきもとゆずる)には頭を悩ませる事態に陥っていた。
『放課後、くるように』
このメールに気づいたのは丁度、SHRが終わったころだった。
夏休み明けのテストが終わりしばらく。暦的には秋にも関わらず、まだまだ無駄に暑い10月の中頃。
校内ではもう文化祭の準備が慌ただしく始まっていた。
昔はどこの学校でも10月は体育祭をやっていたらしいが、一昔前の『ゆとり教育』に伴う学力低下が起こった反動からか、『詰め込み型教育』が復活&主流となり、授業時間が大幅に増えた。更に昨今の気象異常のせいで体育祭は6月頃にワープ。結果季節の行事予定がいろいろとかわったことが原因である。
それは僕の通う私立汐凪高校も例外ではなかった。
僕の通ってる汐凪高校は県内随一の優良校ってわけでもなく、だからといって底辺にあるというわけでもない。
いってみれば中の上、もしくは上の下ぐらいといったところである。
とはいえこの学校もそこそこはやるのだ。なにせ少子高齢化による新生児の減少する現代。廃校や統合などさまざまな出来事。学校の生き残りをかけた戦国時代を生き残ってきた学校なのだから。
さて、そんな 私立汐凪(しりつしおなぎ)高校に通う新入生として早くも10ヵ月も経過したわけである。
そんなことをぼんやりと現実逃避な考えをしながら、僕こと滝本譲(たきもとゆずる)はさっきのメールのことを考えていた。
嫌な予感しかしない。絶対に面倒なことに巻き込まれる。もしくは押し付けられる気しかしないからだ。
はっきりいって憂鬱である。
あぁ、時間が止まってくれたらいいのに。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ある人はいった。
時間のいいところは過ぎていくことだと。
どんなに悪いことがあっても時間は必ず過ぎていくのだと。
またある人はいう。
時間の悪いところは必ずくることだと。
どんなに逃げたくてもその時間は必ずやってくるのだと。
つまりなにが言いたいかというと、自分はまさにその悪いところにいるのである。
放課後、とある場所へと歩をすすめる。
踏み出す一歩一歩がこころなしか重く感じるのは気のせいなのだろうか。
そうこうしているうちに目的の部屋へと着く。
トントンとノックして挨拶しながら中へとはいる。
「おっ、待ってたよ」
そういって部屋の主は僕を招き入れた。
年の頃は30後半で(本人に歳のことをいうと殴られる)、アイロン仕立てのようなビシッとしたスーツを身にまとい決算待ちの書類やらと格闘していた。
きりっとした目鼻だちはいかにも仕事が出来そうなかんじである。
実際に彼女は仕事が出来る人である。
「メールで呼び出すなんて、なにかようですか叔母さん」
「叔母さんじゃない。学校では理事長って言いなさいっていつもいってるでしょう」
牧村渚(まきむらなぎさ)こと旧姓滝本渚はまごうことなき僕の叔母にあたる。
とはいえ僕自身も叔母が理事長であることを知ったのは、入学してからなのだが。
忘れもしない、入学式。新入生に対して祝辞を述べる叔母をみたときは我が目を疑った。
思わず大声を上げそうになってしまったことは今でも忘れられない。
そもそも自分には両親がいない。僕が幼い時、事故にあって2人とも他界している。
その後僕の親権で親戚は揉めたようなのだ。
どうやら両親は駆け落ち同然で結婚したようで、そのため僕は厄介者あるいは腫れ物扱いされていたのだ。
そんなときに自分を引き取ってくれたのが、叔母である渚さんである。
その時まであったことすらなかった叔母であるが、何故かこの人は大丈夫っと思ったのを、子供ながらにぼんやりと覚えている。
ちなみにここの教師で、僕と理事長の関係を知っている人間はごく一部である。
知られると、いろいろとあらぬ誤解を生みそうだから仕方ない。
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