幼馴染VS恋人
最近、幼馴染の亜希ちゃんに恋人が出来た。
嬉しい。
実際、とても嬉しいはずなのにこのもやもやは一体何だろう。
「亜希ちゃん。今日一緒に帰ろ」
「ごめん。今日も優ちゃんと帰るんだ」
「そ、そっか……」
今日、私の誕生日なんだけどな……。
忘れてしまったのかな。
小さい頃から一緒にいるのは私なのに。
一ヶ月付き合っている恋人よりも、幼稚園の頃からずっと一緒にいる私の方が亜希ちゃんのことを沢山知っているし。
「亜希ー。帰ろ」
「うん」
声の主の方へ振り返ると、亜希ちゃんと一ヶ月前から付き合っている優子が立っていた。
まただ。また、私の知らない顔。
亜希ちゃんはこいつといると、私といる時とは違う顔をする。幼馴染の私といる時には絶対にしない、本当に愛している恋人の顔。
またこの女が私と亜希ちゃんの邪魔をする。
「だ、だめ……!!!!」
教室から出ようとする彼女の手首を掴む。
ああ、もう、何してんだろ私。
それでも、胸から湧き上がる情動は止まらない。
「ちょ、ちょっと……!!」
亜希ちゃんの手首を掴んだまま教室から抜け出した。
ああ、なんて自分勝手で我儘何だろう私。
ドス黒い感情がふつふつと胸の奥から顔を出す。
階段を一気に駆け上がり、屋上へ辿り着く。
「いきなりどうしたの。遥」
なんて事をしてしまったんだと後悔をするけれど、もう遅い。
私としたことがとんでもないことをしてしまった。
亜希ちゃんの顔を見るのが怖い。
「だ、だって……。最近、あいつにばかり一緒にいて私に全然構ってくれないじゃん!!」
もう、止めることは出来ない。
「ちょっ……。遥」
「亜希ちゃんのことを1番知っているのは私なのに。亜希ちゃんはあいつと一緒にいる時、私の知らない亜希ちゃんなんだもん。私、もっと亜希ちゃんのこと知りたいよ…!!」
ああ、絶対に「面倒臭いなこの女」って思われてる。
それでもイライラが。マシンガンワードが止まらない。
「この一ヶ月とても寂しかったんだよ。今までずっといた幼馴染が別の人のところに行って。急にいなくなったら私怖いよ!! ご飯の時はあいつのことばっかりだし。とても好きなんだっていうのは分かる。分かるよ。でもさ、もっと私のことも考えてよ!!」
「ごめん。私、自分のことに夢中で遥のこと置き去りにしてた」
「そ、そんな素直に謝られても困るよ」
「ごめんね。二人とも大切だよ。でも、遥は許してくれるって、認めてくれるって思ってた。ほら、私たちってさ、女の子同士だから。でも、違ったんだね」
違う……。
拒否しているんじゃない。女の子同士だからとかそういうのじゃない。
分かってる。
私はいきなり出てきた恋人に亜希ちゃんを取られるのが怖いんだ。
今までの亜希ちゃんとの関係が崩れそうで、壊れそうで。それが嫌で寂しくて切なくて。
「違う。違うの」
「え?」
「女の子同士だからとかそんなのじゃない。私はただ、あの子に嫉妬してるだけ。だって、亜希ちゃん今まで私としか仲良くなかったじゃん。だから、他の人と仲良くしていると、見放されているみたいで私……嫌われちゃったのかなって…………」
「もう。バカだなぁ。私が遥のこと嫌いになるわけないじゃん」
「で、でも————」
振り向こうとした瞬間、ぎゅっと柔らかい圧迫感と微かな熱が身体中に伝わってきた。
「嫌いになんかならないよ。遥のこと。ずっと、ずっと大切な友達だよ」
「ほんとう?」
「うん。本当。だからほら。これ」
「なに……んぐっ」
ぽん、と口の中になにか放り込まれたかと思うと、口内に甘い香りがふわりと広がる。
「これ…………チョコ?」
「そ。私の手作りチョコ。今日はあんたの誕生日なんだから。これでも食べて落ち着きなさい」
「覚えててくれたんだ……」
「あ、当たり前じゃない。何年一緒にいると思っているのよ!!!! 全く。後で家に行って渡そうと思っていたのに。しょうがないから今日は一緒に帰ってあげる。優子には電話で『今日は親友と帰る』って言っておくから」
「ほ、ほんと!?」
「ほんとほんと。今日は思いっきり私に甘えて良いわ」
「週に一度じゃダメ……かな?」
「もう、しょうがないなぁ。良いよ。週に一回ね」
そうして、私たちは二人で灼熱地獄の中自宅に帰った。
私の幸せはまだまだ続く。
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