第4話 俺にもいる…

ある日結は、藤ヶ崎 竜から相談を受けた。


「実はずっと前から気になる奴がいるんだ…」

「ほぉ、それは一体どちら様です?」


いつになく真剣な藤ヶ崎に、結も真剣に聞く。

そして、すっと人差し指をとある方向へと向ける。


「あいつ…」


結は指された方向に目を向けた。

そこには、目元まで伸びた真っ白な髪に、白い肌、大きな猫背の男が、スマホを見て座っていた。


(どこかで見たような…)


結はその男を見たことがあるような気がしたが、思い出していると竜が喋り出した。


「あいつ、藤條涙とうじょうるいって名前なんだけど、喋ったことはそんなにないんだ。でも、何故か気になって仕方なくて…」

「喋ったことないんですか!?」

「そう、ないんだ。でも気のせいかもしれないんだが、毎日目線の先にいるような気がしてて…それで気になってるのかも…?」


結は竜の気になっているに含まれる気持ちがどういったものか、とても気になった。ただの興味であるのか、一欠片でも恋情を秘めているのか。

ただ、あの男を見つめる横顔は真剣そのもので、聞くことはできなかった。


               ○


竜から相談を受けて数日後、結は大変困ったことになっていた。


最近、結は叔父の喫茶店でバイトを始めた。姉を待つのが暇だと叔父に相談したところ、手伝って欲しいと言われたからだ。


そのバイト先に、数日前に見た男がやってきたのだ。ただ、店に客としてやってきただけだったら、特に問題はなかったのだが、絶賛脅されている。


「お前、最近竜と一緒にいるけど、竜の何?(…中略…)俺のものだから近づくなよ。次一緒にいるのを見かけたら、街中を歩けないようにしてやる。わかったな?…」


かなり抜粋したが、もっと長々と脅されていた。結は最初こそ怖がっていたが、話を聞くうちに、竜さんのこと好きなんだなこの人、と勝手に完結させて、最後の方は頷きながら聞いていた。


「あの、話は分かったのですが、そもそも藤ヶ崎さんは私のことを頷きマシーンくらいにしか思ってませんよ?」

「は?頷き…何?」

「頷きマシーンです。SNSに書き込んでいいな!を押される感じと言えば伝わるでしょうか?藤ヶ崎さんは、ただ自分の気持ちを肯定してほしいだけなんです」


あまり理解できていないといった表情でこちらを見る。


「ふーん、だからって許容できないな」

「では、先輩が話し相手になってあげてはいかがです?藤ヶ崎さんは喋ったことないって言ってましたから。それに、進展させたいのであれば、せめて喋る相手くらいでないと」


涙は無言でそのまま窓際の席に座り、何かを考え出したようだった。その姿を見た結は、あ!と思った。いつも窓際に座っているお兄さんが、藤條だったからだ。見たことがあると思った結の記憶は正しかったのだ。


                ○


あれから結は、時たま二人でいる姿を目撃するようになった。何かしらの進展があったのだろうと、自分の身を守れたことにほっとする。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私の周りは恋うつつ 月白藤祕 @himaisan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ