第3話 僕はデートに行きたい2

天野 尊は約束の場所に向かうために電車に乗っていた 。道中、尊は結の提案を思い出していた。


「天野さんは相手にデートだと意識させたいのですよね?ならば、簡単ですよ!無理やり約束場所と時間を指定すればいいんです」

「それだけでいいの?でも変じゃないかな?」

「どうしたんだろう?と違和感を持ってもらうことが大事なので!」

「そ、そうなの?」


そんな会話をした夕方、恋人の成宮 有なるみや ゆうをデートに誘った。ただ、デートがしたいとは言えないので、空いている日を聞いて、その日は駅前で会おうねと言った。さすがに朝からだと家が近所なので会うかもしれないと思い、昼に会うことにした。



その約束をした週の土曜日、目的の駅に着いた。約束の時間まで30分程あるが、早めの方が安心だ。


尊は恋人ができてから初めての待ち合わせなので、どのようにして待とうかや、相手が来た時にどうすれば気づいてもらえるかなどを考え、心が踊った。


改札を抜けると、時計台のある広い広場に出る。そこは恋人達の待ち合わせスポットとなっており、人が多かった。辺りを見渡して、見つけてもらえそうな場所を探した。すると、見覚えのある服を着た男を見つけた。驚いて駆け寄り、声をかける。


「有くん!もう来てたの!?」

「お、尊じゃん!朝から用事があって近くまで来てたからさ。それにその用事も思ったより早く終わったから早めに待ってたんだわ〜」

「そうだったんだ!僕と同じで早く来ちゃったのかと思ったよ」

「あはは!尊が早く来てくれて嬉しいぜ」


有は立ち上がり、尊の頭を豪快に撫でた。尊は主人に褒められた犬のようで、少し照れていた。


「ところで、今日はどこに行く予定なんだ?」

「今日は水族館に行こうと思います」

「おぉそれは楽しみだ」


二人は水族館に向け歩き出した。尊は待ち合わせしたことについて聞かれるかと思ったが、特に気にした様子はないようで困ってしまった。


(結ちゃん……駄目かもしれない!)


水族館は土曜日なので、かなり混雑していた。事前にチケットを買っていてよかったと尊はほっとした。二人は人の多い水族館に入っていった。


「小さい時以来かもしれないな。あの時は尊のとこの家族も一緒だったよな」

「そうだよ!僕もすごくお久しぶりだから楽しみなんだ」


有はそうだなというと、優しい顔で笑った。尊はその顔がとても好きで、尊も同じように笑った。


尊は、海のいろんな生物を見ることに夢中になり、途中から本来の目的を忘れていた。有は海の生物を見て、楽しそうな尊ばかり見ていた。その顔はとても幸せそうで、そこには二人だけしか存在しないかのようだ。


海の生き物を見てまわり、イルカショーを堪能し、最後にはお揃いのキーホルダーを買った。尊はデートをしていると感じられるほどで、とても満足げだった。


「有くん!今日はありがとう!とっても楽しかったよ!」

「俺も楽しかった。誘ってくれてありがとうな」

「また行こうね」


そんな会話を帰り道にした。家の近くの公園まで来た時、有は立ち止まり言った。


「尊…今日の水族館は、デート…ってことでいいんだよな?」

「え…」


有は少し恥ずかしそうに、でも意地の悪い笑みを浮かべて尊を見る。尊は、あまりの驚きで、頭が真っ白になってしまった。


「いつもよりも恋人らしくて嬉しかったんだけど…違った?」


尊の沈黙に耐えられずに、顔を背け、照れながらもう一度聞く。尊は顔を真っ赤にしながら、首を振った。


「そっか…勘違いだったら恥ずかしいなって思ってたんだけど…よかった」


ニカっと笑うその顔はとても嬉しそうで、尊もつられて笑顔になった。


その日、二人の初めてのデート記念となった。



後日、結達にデートが成功したことを報告した。結は手帳に初デートおめでとうと書き、次の日にケーキを渡した。竜も祝ってくれて、尊は無事に第一歩踏み出せたのでした。



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