7話 突然の別れ、敗北、そして撤退

「ハァッ!ハァッ!」


リンはランのいる居城の最奥を走っていた。


─数分前


「リン隊長!ここは僕達に任せてラン隊長の元へ向かって下さい!」


そう言ったのは、Ⅱ討伐隊隊長補佐のユウだった。


「え?」


リンは予想外のことを言われて思わず聞き返した。


「ここまでの道中でテンソの数が増えていること、力が増幅していることがすごく気になるんです。嫌な予感がします。ラン隊長が強いのは知っています。ザワザワするんです。それを助けられるのはリン隊長だけです!」


ユウはリンに力強く言った。


「でも、この数っ─」

「くらえ!!!グローリー!!」


ユウはリンが話しているのを遮り、テンソにグローリーを放った。


「ユウ!?その技……」


リンは驚いた。なぜならグローリーを使えるのは昔から隊長のみであったからだ。


「リン隊長はいつも優しくて僕達のことを守ってくれましたね。でも、僕達はもう守られるだけじゃダメなんです!今度は僕達がリン隊長を守る番です!だから行ってください!お願いします!」 


「「「「お願いします!」」」」


ユウや他の隊員はリンに懇願した。


「わかったわ!ただし、戻ってくるまで生きててね!そして倒したら安全なところで休んでて!」


リンはユウに指示し、ランの元へ向かったのであった。





─時は戻り、現在


「ここね………」


リンは扉をあけた。


「え?」


そこにはⅠ討伐隊全員が倒れていた。


「お兄ちゃん!?お兄ちゃん!?」


瞬時に状況を理解したリンはランを探した。


「リ………ン………」


ランはかろうじて生きていた。


「お兄ちゃん!!!何があったの!?」


リンは見つけるとすぐにかけよった。


「に………げ………ろ………!」


ランは最期の力をふりしぼり、リンに伝えた。

そして息絶えた。


「お兄ちゃん?お兄ちゃん!?ねぇ、目を開けて!お兄ちゃん!!!」


リンは涙をためてランに呼びかけた。


「あーあ。もう死んじゃったぁ。やっぱり人間って弱いねー。」


エムは飄々とリンの背後に現れポツリと呟いた。


「あなたがヴァンパイアエムね!?よくもお兄ちゃんを!!!」


リンは杖を構えて魔法を練った。


「へー!君、さっきの死んだ魔法使いの恋人?それとも妹?まぁ、どっちでもいいかぁ。ことあとすぐ死ぬから♪」


そう言って、エムはリンに魔法を放った。


「あああぁ!!」


エムの放った魔法はリンの右肩に当たり、リンは数メートル先まで飛んだ。


「さて、死んだかな?♪」


エムは楽しみながらリンに近づき様子をみにいった。倒れているリンの顔をのぞきこんだとたん─



「くらえ。ホーリーランチャー。」


リンはエムの顔の間近に魔法を放った。


「うわっ─!」


リンの放った魔法はエムの右目を貫いた。


「僕の攻撃をうけて一発で死なないとは。君、なかなかやるね。興味が出てきた。だから聞く。君、さっき死んだ魔法使いの恋人?それとも妹?」


エムはワクワクしながらリンに聞いた。


「妹よ。」


リンは淡々と答えた。


「ふーん。さっきは油断した。でも次は確実に殺す!」


エムは口を吊り上げて、また変身し始めた。


「ヴッヴッ………─シュン」

「あれぇ?」


エムは変身できないことに気づいた。


「まさかっ!?」


エムは右目を触った。再生されていなかった。


「ククッ。ハーハッハ!初めてだ。人間の攻撃をうけて再生されないの。これは楽しい。楽しいよ!ありがとう、女の魔法使いさん!君、名前は?」


「リン」


「リンかぁー。かわいい名前だねぇ。変身できなくても君を殺すことはできるけど、かわいい名前と僕を楽しませてくれたお礼に今日はお開きにしよう」


エムはニコニコしながら言ったあと、指を鳴らした。するとリンの体は浮き、フロアの扉が開いた。


「待て!!エム!どういうつもりだ!?決着はついてない!!」


リンはエムに必死に問い詰める。


「言ったでしょう?かわいい名前と僕を楽しませてくれたお礼だって。今の状態のリンでは僕を倒せないよ。ここまで来るのにテンソとの戦い大変だったでしょう?あれ、僕の瘴気にあてられてテンソが進化してるんだぁー。いくらリンが強くても無理はダメだよぉ?」


エムは笑顔でリンに言った。


「貴様っ!なめやがって……!」


リンは奥歯を噛み締めながら言った。


「安心してリン!さっき僕がリンの右肩に放った魔法。通常の人間は当たったら死ぬけど、稀に死なない人間がいる。魔法が当たって死ななかった場合、それは呪いになる。呪いの内容は呪いを受けた年から怪我したら再生される。

そして老けないし死なない。つまり、ほぼ僕と同じからだになったってこと!おめでとうリン!君はその姿のまま死なないってこと!解除方法は僕を倒したら解かれる。またねっ!リン!」


エムは指をフロアの扉へさした。リンはそのまま居城の入り口へ飛んでいった。













「リン隊長!!!!」


居城から飛んできたユウはびっくりしてリンにかけよった。


「…ユウ、Ⅰ討伐隊はラン隊長も含め全滅だった。」


リンは冷静に言い、続けた。


「命令します!ヴァンパイアエムの討伐は失敗。よって撤退し態勢を立て直します!」




こうしてリン達はエムの居城を去ったのであった。













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