第2話 上京

 アズサが帰ってきた後、両親祖父母をはじめとする家族は驚いた。娘が暗くなってから泥だらけになって帰ってきたからだけではない。中等部に上がってからというもの全く無気力になり、3年の1月になっても進路を決めかねていた娘が急に遠く離れた都の、しかも設立目的が全く分からない学校に進学すると言い出したからである。


 当然ながら同居する母方の祖父母は断固反対であった。彼らはなぜにそのような考えに至ったのか何度も問いただした。祖父は何か悪い人間に騙されているに違いないと説得した。いままで手塩にかけてかわいがってきたのにどうしてそんなことを言うのかと祖母は泣き出した。




 ところが父母は幾日も悩んだ末に娘の考えに賛成した。もちろん娘がどうなっても良いと思ったわけではない。むしろ世の親と同じかそれ以上に心配していた。娘の行く末をおもんばかっての苦渋の決断である。


 母は最近何に対しても意欲を見せず、日に日にやつれていく娘をいたく気にかけていてどうしたらよいのかと苦悩していた。


 その娘が首都に行きたいと言い出してからは細くなる一方だった食が戻り表情も豊かになっていて何か娘に良い変化が起こったのだと信じていた。


 高校進学に首都の学校を選ぶこと自体は何の問題もないと考えていたこともその理由の1つである。彼らの住む東部の辺境が連邦に併合されてから200年余りが過ぎ、異民族の彼らもおおよそ連邦本国の習俗に慣れ親しみつつあった。母の世代からは高等教育を受けるために本国に移住する若者も当たり前になっていた。


 父もまた娘に起こった変化を好ましく感じていた。彼は娘の目に自身の若いころの目を重ねていた。彼は進学を言い出した頃から娘の目に不屈の熱情と溢れんばかりの希望が灯ったのに気づいた。それはかつて父が大志を抱いて故郷を出た時の目と同じであった。彼にはアズサを加えて3女と2男があったが、かつての熱情の目を2男のそれよりもアズサのそれに感じ取った。昔の自分と同じ夢を持つ娘の希望をどうしても叶えてやりたかった。


 父は、うちは小さいながらも地主であるから進学の費用はどうにでもなると言いアズサに賛成した。


 父母が賛意を示した後でも祖父母は未だに反対の立場を崩していなかったが、これに20になる長女と17になる次女の賛成が加わり渋々アズサの進学を認めた。




 中等部の進路希望の教員に話を通したり旅立つための荷物の整理を行った後の連邦暦1307年2月8日、アズサ ヨウミョウは故郷から汽車で3日かかる連邦首都へ発った。

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