第24話あなたのも選んで

「これ、とっても素敵ね!」


「あーらリーゼ? あなたにはこちらの色のほうがよく似合いますわ」


「それを言えばあなたにはこっちの方がいいと思うわよ」


わいわい。店内に客は彼らだけなのに、ずいぶんにぎわっているように見える。アディリィに次いでニノンとリゼルも店の女性からいくつか選んでもらったのだが、最終的にどれにするかもめているのだ。けなし合いではない。褒め合いである。


「うう、やけに食い下がりますわね……」


「ニノンこそ」


彼女たちはしばらく片手に自分が選んだ自分用の首飾り、もう片方に自分が選んだ相手用の首飾りを持って、ゆずらないとばかりに見つめ合っていたが、そんな様子を見て思わずアディリィが笑ったことで終了となった。アディリィは強い。


「し、仕方ありませんわね。アディリィの前で大人げないところなんて見せたくありませんもの。あなたが選んでくださったものにしますわ」


「ええ、別に……ニノンのセンスがいい事なんて知ってるんだから」


お互い相手に進めていた首飾りを渡す。それから顔を見合わせ、ふっと笑った。


「よかったわ、二人とも相手のこと随分しっかり見てるのね」


「「え?」」


ずっと傍観していたリアが、くすくすと笑う。


「だってまずリーゼちゃん、あなたが選んだ首飾り。二ノンちゃんの眼の色に合わせてその色に、言い回しや振る舞いからその装飾にしたんでしょう? 二ノンちゃんの緑色はとってもきれいだもの」


「まあ、そうでしたの?」


図星、というように顔を赤くするリゼルに、ニノンが目を丸くする。


「それから二ノンちゃん。あなたが選んだのは、その真っ白な貝殻が、明るくて元気なリーゼちゃんにぴったりだからじゃなあい?」


今度はニノンの方がかあっと赤面した。


「お母さんたらどうしてそんなことがわかるの?」


不思議そうに、リゼルがリアに尋ねる。すると彼女は、柔らかい微笑みを浮かべた。


「それはあなたたちを見ていて、なんとなく、かしら」


その目はリゼルを見ている。でも、見ていない。変なことを言っているわけではないのに、その事実がどこか引っ掛かる。大体いつもそうだ。リアはあまり自分のことを教えてくれない。もちろん、リゼルに教える必要もないし、教える場面がないからなのだろうけれど。


「さ、続きしましょう?」


ぱん、と一つ手を叩いて、彼女は場の空気を変えた。そして今度はオスローを前に出す。


「わ、私は、」


「いいの。次はあなたの番よ」


やや強引に彼を座らせ、リアは店の女性に話しかけた。


「この子にはどんなのがいいかしら?」


「はい、こちらはいかがですか?」


箱の中からいくつか出された腕飾り。確かにどれも、彼に似合いそうだ。


「あ、これ、少し薄いけどオスローの眼の色ね!」


「素敵ですわ」


ニノンとリゼルが目を付けたのは、薄い色の青ばかりでつくられたもの。確かに彼の眼の色は青だから、そうといえないこともない。


「私もこれ、素敵だと思うわ」


「きれいです!」


満場一致でみんながそれを推したので、オスローの分はこれということに決まった。即決すぎる。それだけこれが彼に似合う色だと思ったのだろう。オスロー自身はなんだかよく分からないという顔をしていたが。そもそも軍人なので大して装飾品に興味はないのだろう。仕方がない。


「さあ、じゃあ最後はお母さんのね!」


わっとみんながリアを取り囲んで、嬉しそうな顔を見せた。リア大好きである。なんならオスローも若干参加している。


「えーっと、これはどうですか?」


同様に店の女性がリアに似合いそうんものを次々とつけていく。そのたび似合うとか綺麗だとかいうものの、これだと決定するには至らなかった。


「ふふ、皆さん仲がよろしいんですね」


そんな様子を見て女性が笑う。そりゃあそうだ。会話からおそらく一家、というわけではないのがわかるが、本物の家族のように和気藹々としたやり取り。全員が全員のことを大好きなのだろうとたやすく判断できてしまう。あのリア、という女性とリーゼ、という少女が親子で、そのほかはその友人だろうか? ずいぶん年齢差のある友達の輪だな、と思いながら、手を進めた。


「ではこちらは?」


それを見て、なんとなくリアの表情が変わった気がした。


「これ……」


とろけるような、キャラメル色。無意識にその手を伸ばし、リアは首飾りに触れる。その表情は、どこか、寂しそうな。


「お母さん?」


心配になってリゼルは彼女を覗き込んだが、慌てて離れた。その顔がどうにも触れてはいけないもののように感じて。


「これで、お願いできる?」


なのに、あんな顔していたのに、リアが選んだのはその首飾りだった。キャラメル色をした大きな貝殻の首飾り。似合うとは思う。でもこれを見るたび悲しげな表情をされたくない。その心配が顔に出ていたのだろうか? リアがそっとリゼルの頬に触れる。


「リーゼちゃん、そんなに心配そうな顔をしないで? これを見てね、今日の思い出にできたらって思っただけだもの」


「そ、そう……」


たぶん、違うんだろうけど。その言葉はリゼルからは出てこなかった。


――――――――――――――――――


前回はなかった情緒ジェットコースター復活(((

次の更新予定日は一月二十日です!

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