第20話姫は軍人じゃないのよ。
「じゃあ私から行くわ。私はリーゼ。王都から来たのよ」
にっこりとアディリィに笑いかけながらリゼルが紹介する。王都、という言葉を聞いてアディリィは目を輝かせた。
「王都ってとっても素敵なところなんでしょう? 私、ずっと行ってみたいと思ってたんです!」
「そうね、素敵なところよ。大通りから見上げる城は格別なんだから」
リゼルは、ずっと王宮に住んでいて外から城を見上げるという行為をめったにしたことがなかった。だから、このセルゼデート王国に来て王都から城を見上げて、その美しさと荘厳さに息を呑んだのだ。
「私はリアというの。リーゼちゃんと一緒に住んでるのよ。あなたとは随分年が離れているけれど、よろしくね」
アディリィとリアは、親子ほど年が離れている。だって彼女の本来いたはずの息子が、ちょうどオスローやリゼルぐらいの年齢だと言ってたのだから。きっとアディリィの親もこのぐらいの年齢なのだろう。
「では次はわたくしかしら。わたくしはニノン。隣の国のエルミュール王国の出身ですわ。今はこの国に遊びに来ておりますの。そこの無愛想な男のいとこですわ」
「ニノン」
「事実を述べたまででしてよ?」
反撃できなかったので、オスローは黙った。それをしっかり見ていたアディリィがくすくすと笑う。
「とっても仲がいいんですね!」
「あなたもしかして聖人ですわね?」
つられてニノンも笑った。さあ、残るはそこの無愛想な男、ことオスローのみだ。この中の唯一の男性なので少々気まずくなりつつ、重い口を開く。
「私はオスロー。セルゼデートの王都の方に住んでいる」
小さい子をできるだけ怖がらせないようにと配慮しているらしいが、あまり表情は変わっていない。ぎこちなさがにじみ出ているので、リゼルが思い切り彼の頬をつかんだ。
「表情が硬いわよ。こんな小さな子を怖がらせたらどうするの」
「これでも精一杯なんだ。小さな子供の相手などしたことがない」
また、いつものように言い合いが始まる。いつもなら終わるまで微笑ましくニノンとリアが見守っているのだが、今日は一人、いつもとは違う少女がいるのだ。
「あ、あの、怖くないですよ。とっても素敵です!」
「「やはり聖人か……」」
どうやら四人の中でのアディリィの位置づけは、聖人になったらしい。
「そろそろ夜も遅いわ。もう寝ましょうか」
しばらくアディリィとだらだら話していた三人は、確かにそうだと窓の外をみる。もうかなり暗いし、火を灯さないとあたりが見えない。
「アディリィ、あなたどこで眠りますの?」
それぞれこの屋敷の中で個室はあるのだが、突然やってきたアディリィの分はあいにく用意していない。それに、こんな小さな子を部屋に一人で寝かせるというのも心配だ。そう思って、リゼルは名乗りを上げた。
「ならアディリィ、私の部屋で一緒に寝ましょうよ! ベッドは広いし問題ないわ」
「な、抜け駆けはいけませんわリーゼ! わたくしだってアディリィとともに眠りたくてよ」
言い争いが始まろうとしたところで、普段一歩下がったところで見守っているだけのリアがそっと二人の方を叩く。
「私もアディリィちゃんと一緒がいい、わ?」
アディリィをめぐった戦いに、リアが参戦した。
「もう四人でここに毛布を持ってきて寝ればいいんじゃないか……」
ということで三人で静かに争っていたところに、オスローが入ってくる。確かにこの部屋の床にはふかふかの敷物が敷いてあり、ここで寝たって全く問題ない。だが彼女たちは床で寝る、なんて概念がないわけで……
「なんてことおっしゃいますの!? 床に寝転がるなど野蛮人のすることですわ!」
「いくら軍人だからって女性に言っていいことと悪いことがあるのよ、オスロー!」
「床で寝るのは、ちょっと……」
全員から猛反撃を食らった。当たり前だ。何ならリゼルは王女なのだ。王女は流石に床で寝れない。論外だし、言われるまでちらとも彼女の頭に浮かんでいなかった。
「ときにオスロー。あなたのお部屋はわたくし達の部屋よりも大きかったですわね?」
「まあ……私の屋敷だからな……」
ふわふわの白い羽根で自身を扇ぎ、ニノンはオスローに圧をかけるように笑いかけた。
「でしたらわたくしたち四人はあなたの部屋の大きな部屋のベッドで眠りますから、あなたはこの部屋の床でお眠りになられたらどうでして?」
ニノンは勝った。ので、勝ち誇った笑みを浮かべた。
「アディリィのためを思えば、軍人のあなたが床で眠るぐらい造作もないでしょう?」
「……わかった……」
かくしてリーゼ、リア、ニノン、アディリィの四人はオスローの部屋の大きなベッドでみんなで眠ることになり、その部屋の主であるはずのオスローはこの部屋の敷物の上に毛布を引いて寝ることになった。
「ほら、真ん中に入りなさいアディリィちゃん。ちゃんと毛布をかぶって寝るのよ?」
「ふふ、私のお家の毛布も柔らかいけれど、このお屋敷の毛布は断然ふかふかだわ! ありがとうございます!」
きゃらきゃらと話しながら四人は眠りにつく。一方その頃オスローは、なぜ自分が追い出されなければいけなかったのだと真剣に床の上に寝転んで考えていた。明日の敷物の掃除はオスローで決定である。
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きゃっきゃさせました。
次の更新予定日は十一月二十五日です!
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