第13話いとこ同士なら結婚できる

「ともかく、見たいだけなら窓から覗くだけで十分だろう」


そう言ってオスローは家の窓を指さした。


「仕方ありませんわね」


ニノンが歩き出す。とほぼ同時に、後ろからがさっと音が聞こえた。二人とも後ろを振り返る。


「オ、オスロー……?」


そこにいたのは、不安げな表情をしたリゼル。ニノンが一目見たかった少女だった。


「リーゼ」


オスローの返答を聞いて、彼女は確信した。この少女こそがオスローの想い人であると。そして少し驚いてもいた。


「あの、その、オスローの隣にいる人って……」


リゼルはそうオスローに聞いた。リゼルとオスローは両片思い。リゼルはニノンとオスローが恋仲だと思っている。その場は割と大混乱である。そんな場に、少し上の方から声が降ってきた。


「あら、リーゼちゃんおかえりなさい!」


「お母さん! ただいま!」


片手に箒を持って髪を軽く結った、掃除中であったことが完璧にわかる格好。そこにいたのは、リアだった。ちょうど掃除が終わったところらしい。


「近衛騎士くんもいたのね、その子はあなたのお友達? そんなところで話してないで遠慮なくお家に入ってくれていいのよ?」


遠慮なくと言われても自分の家では無いのだから、入りにくいに決まって……


「ではお邪魔させて頂こう」


少しは遠慮しろ。何故かこの家に住むリゼルではなくオスローを先頭にリゼルの家に入った三人は、ごく自然にリアに案内されてそのままテーブルにつき、そして彼女が出した手作りのお菓子を食べだした。


「って何馴染んでんのよ!」


「それはお前の母親に言え」


表情一つ変えずに、でも美味しそうにお菓子を口に運びながらオスローはリゼルに返す。どうやらそれには言い返せないらしい。仕方がない。リアのお菓子が美味しいからだ。


「そういえばお友達ちゃん、お名前はなんて言うの?」


優雅な仕草でお茶を飲んでいるニノンに、リアは問いかけた。彼らが家に来てもうだいぶ時間が経っている。聞くのが遅い。


「わたくし? わたくしの名前はニノンですわ。そこのオスローのいとこですの」


いとこ、と聞いてリゼルはほっと息をついた。そしてそのあとはっとした。ほっとしている場合ではない。いとこ同士なら結婚できるではないか。そのことに気がついたからだ。


「ニノンちゃんっていうのね! 素敵。ニノンちゃんは貴族なの?」


話し方がこれだから、リアも気がついたのだろう。だが彼女は首を横に振った。


「貴族ではありませんわ」


「あら、そうなの」


リアが驚いたような顔をした。こんなに気品溢れる少女なのに、貴族ではないとは思わなかったのだろう。まあお金持ちの商家なら有り得る。納得したのか彼女はお茶を飲み出した。


「そ、その、どうして今日は一緒に……?」


今度はリゼルがオスローに問う。その気品に圧倒されたのか、いつもより大人しい。別にリゼルは王女なのだから、そんなに圧倒される必要は無いと思うが。


「それは……」


「それはわたくしがあなたを一目でいいから見たかったからですの。何せこの終始無愛想な顔をしているオスローが毎日のように会いに行っているというのですもの。興味が湧くに決まっておりますわ」


ニノンはオスローの言葉を遮って返答した。オスローが若干彼女のことを睨んでいるような気がする。


「リーゼという名前でしたわね。素敵ですわ。わたくしとお友達になって頂けませんこと?」


「は?」


突然の申し出に、リゼルは思わず素で聞き返してしまった。それもそうだ。今のままではこのニノンという少女がオスローと恋仲なのかそう出ないのか判断できない。そんな相手に、友達になって欲しいと言われたのだ。


「私がニノンさんと……?」


「ニノンですわ」


「あ、はい」


さん付けで呼んだらぴしゃりとそう返されたので、リゼルは彼女が何を言いたいのか察してもう一度言い直した。


「ではその、私とニノンが?」


「ええ、そうですわ。といってもわたくしは少ししたら国に帰らなくてはなりませんけれど」


国に帰らなくてはならない。その言葉にリゼルは首を傾げる。彼女はニノンが他国の出身であることを知らないのだ。


「国に帰る?」


「わたくしはセルゼデートの出ではありませんの。この国は母の故郷ですわ。 久しく訪れておりませんでしたから、父にお願いしてわたくし一人で訪れたのですわ」


ふうん、とリゼルは相槌を打った。だいぶ警戒心が薄れたらしい。


「そうですわ、リーゼ。わたくし二階の窓際にあった花が見たくってよ。よろしくて?」


「え、ああ、もちろん」


彼女はニノンを引き連れて二階へ向かった。その場に残されたオスローは、少しため息をついてティーカップに口をつけた。



「単刀直入に言わせていただきますわ。あなた、オスローに好意を寄せているのではなくて?」


案内した先で言われたその言葉に、リゼルは一瞬こけそうになった。咄嗟にそばにあった棚に掴まったので、大丈夫だったが。


「いや、別にその……」


「いいえ、隠しても無駄でしてよ。あなたの瞳が物語っておりますもの」


ニノンは相当人の心を見抜くのが得意らしい。だがリゼルは気が気でなかった。もしニノンがオスローの恋人であるのなら、何か言われると思ったのだ。だが、その後に続いた文に彼女は目を見開いた。


「わたくしはあなたの味方ですわ。ぜひわたくしに応援させてくださいませ!」


――――――――――――――――――


タイトルは適当につけました。以上です。

長いこと更新できてなくてすいませんでした。今日から更新頑張るよ。


次回の更新は明日です!

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