第5話仲良し家族

「……まだ、かしら……」


昨日リアに遊びに行こうと言われオスローも誘うことになったリゼル。なんとなく市場の近くの木の下で休みながら独り言のようにそう呟く。だが少ししてから彼女ははっとしたような表情になった。


「なっ、なによ、別に待ってるわけじゃ……いや待ってるのかな……? べ、別に私が用があるわけじゃないし……いや私もか……?」


反対の意見がぶつかり合い、彼女の頭はさらに混乱する。


「い、いやちがっ……え……?」


「リーゼ」


「ふあ!?」


いきなり後ろから声をかけられたリゼルはびくっと大きく体をはねさせ驚きの声を上げた。彼女はそのままゆっくりと後ろを振り向く。


「またあなたなの……」


はあっとため息をついたリゼルにオスロ―は笑った。


「待っていたんじゃないのか?」


「待ってなんかないわ! たまたまよ、たまたま!」


あくまでたまたまを強調するリゼル。彼女は彼の横をすり抜け、家の方に向かいながら後ろのオスローに言った。


「あなたに用事があるの。ついてきてくれる?」


「もちろんだ」


彼は、満更でもなさそうな面持ちである。



「あら~、やっぱり今日も来てくれたのね。嬉しいわ」


満面の笑みでリゼルとオスローを迎えたリア。優しい笑みにリゼルはぼーっと見惚れている。それを見たオスローが僅かに苦笑しているような。


「それで用事は?」


彼がリゼルに尋ねた。はっと我に返ったリゼルが慌てて緩んでいた口元を引き締める。


「お母さんがあなたも一緒に遊びに行かないかって言ってるのよ。忙しいのならいいけど」


それを聞いた彼は、予定を思い出しているのか腕を組み壁に寄りかかって考え事をしだした。数十秒ほど悩んでから彼は壁から離れる。


「せっかくだ。行こう。話はつけておく」


リアの顔がぱっと輝いた。リゼルも嬉しそうに少しだけ微笑む。笑顔が絶えないこの家にオスローもつられてぎこちなく微笑んだ。


「お仕事の都合もあると思うし、いつがいいかしら? 一週間後ぐらい?」


平静を装っているが若干はしゃぎながらリアが言った。あまりにも楽しみだという雰囲気が漂っているのでオスローは少し呆れながらも首を横に振る。


「その様子だと待ちきれないのだろう? 明後日でどうだろうか」


「まあいいの!?」


どっちが子供なのか分からなくなっているが、リアが母でリゼルとオスローが子供世代である。それでもこの様子は誰が見ても微笑ましいと思うに違いない。


「楽しみにしておこう」


オスローが二人にくるりと背を向ける。


「もう帰っちゃうの?」


さみしそうな顔でリアが言った。リゼルもなんとなく気落ちしたような顔をしている。二人を見た彼は笑いながら答えた。


「早く帰って仕事をせねば明後日あまり時間が取れないだろう?」


静かに音を立てて玄関の扉が閉まる。完全に閉まりきったところでリアはリゼルに抱き着いた。


「リーゼちゃん、あの子も来てくれるんですって。嬉しいわ!」


「そうね、それに騎士だから万が一の時もどうにかしてくれるでしょうし」


騎士が、それも国王に最も近い近衛騎士が一緒にいるというのなら安全は確約されたも同然だろう。まるで幼子のようなはしゃぎ方でそれはそれは嬉しそうにしているリアにリゼルは苦笑する。


「お母さんいつまでも若々しいね。きれい」


「あら、そう? ありがとう、リーゼちゃんに褒められちゃったわ」


彼女は軽い足取りで走り出す。


「リーゼちゃんとあの子とお出かけ出来るだなんて夢のようね、明後日に向けて準備しなきゃ!」


「それは早すぎるんじゃない!?」



「あ、リーゼちゃんおはよう!」


「おはよー!」


「二人ともおはよう!」


今日も朝早くから市場に来ていたリゼル。二人は彼女の友達だろうか。リゼルと同じくかごを抱えて元気よく笑っている。


「今日はあの近衛騎士さんいないんだね」


「いつの間にかあんなにかっこいい人と仲良くなって~。怖いし私はお断りだけど」


他の人たちから見ると、オスローはかっこいいのにとても怖いらしい。当たり前である。あまりそう思ったことのないリゼルと全く思っていないリアが特殊なのだ。


「仲良くなんてないわ。声をかけられてお母さんが気に入っちゃっただけだもの」


「で、仲良し家族に一人追加されたんでしょ? それでも仲良し家族でしょ? 問題ない!」


「問題大ありよ!」


大声でそう言ったリゼルに二人はくすくす笑う。事実、周りはリアとリゼルとオスローは仲のいい家族とも言っているし仲のいい親子と未来の夫だとも言っている。本人たちは知らない。全員全くの他人だったのにたった数日でここまで仲が良くなるだなんて誰が想像しただろうか。

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