第8話 第一章 風薫る⑧

 長期休み前の考査の二日目が終わり、高校の最寄り駅にほど近いハンバーガー屋に制服のまま集団でなだれ込んだ。店内に入った瞬間外の蒸されるような暑さから解放されて息をつく。

「いやもうL一択でしょ」

「クーポンある」

「ヨーコは?」

「んー、取りあえずコーヒー。百円の」

「そんなんでいいの?」

 じゃあついでに買っとくわ、と言いながらスマホを操作してクーポン画面を表示させた同級生にお礼を言って席に行くと、すでにクラスメイトが問題集を広げていた。

「あ、ヨーコ来た! ねえ物理取ってたよね」

「うん」

 今回めっちゃ難しくなかった? と顔をしかめながら隣を空けてくれる。

「ここ答え何にした?」

「なんだっけ、たぶん3」

「まじかよ」

 終わった……とテーブルに伏してしまったクラスメイトに笑う。隣に座りながらもう一度その問題をじっくり見たけどやっぱり3にした気がした。

「私のが間違ってるかもしれんよ」

「ヨーコ頭めっちゃいいからそれはない」

「いやいやないから」

 否定するのに、式書いて……と力なく頼まれる。ここがこうなってああなるんだと言い合いながら学校で一度解いた問題を再び解いていると、理数系の同級生のほとんどが集まって顔を寄せ合い復習する光景が生まれた。

「ポテトが来たよーって、なに、そんな真面目な感じ?」

 大量のポテトと飲み物をトレーに載せて戻ってきてびっくりされる。そりゃそうだ。

「息抜きに来たんじゃねえの?」

「だってヨーコが教えてくれるから」

「まじ? それは仕方ない。入れて」

 席をつめて席の真ん中にトレーを置く。仕方ないってなにそれ。別に教えてるわけじゃないと笑うと「いいから続き」と最初に聞いて来た同級生に急かされた。

「カナちゃん物理選択したの?」

「入試で使うんだもん……。でも間違ってた。化学にしときゃよかった」

「生物と化学って人多いよね確かに」

「ヨーコ物理使うの?」

「ううん」

 就職試験に物理はない。内申書と面接と論文なので、正直普段の考査さえしっかりやれば、普段の選択教科はなんでもいい。

「ていうかヨーコ就職すんだっけ」

「うん」

「頭いいのにもったいねー」

「ギャルのくせに頭いいし物理取ってるのに就職するとか意味分かんなくない?」

「いやギャルじゃないし、頭よくないし」

「指導入ってんでしょうが」

 確かにパーマして赤茶に染めてある髪は生活指導対象になっている。ピアスもカッターシャツの代わりに着ているTシャツも短く切ったスカートも校則違反だけど、成績さえそれなりに保っていれば先生たちもあまり強く言わない。

 周りは暗い髪色が多い中で、目立つのでギャル呼ばわりされて理不尽だと笑う。髪色だけで言えば、ミズキだって校則違反なんじゃないだろうか。あっちにそんな校則があるのかは分からないけど。

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