第3話 第一章 風薫る③

 あ、まだいたんだ。

 そう思った時あろうことかバチッと音が聞こえそうな程綺麗に視線が交わった。うわ。キョドリつつその人から視線を逸らせないでいれば、

「え、」

「なに。どした?」

「あ。いやなんでもないです」

「そう?」

 思わず間の抜けた声が出た。それに反応するボランティアさん。リカちゃんも不思議そうに私を覗き込んだ。

 金髪っぽい髪。Tシャツからのびる白い腕。少しだけ首を傾けて、その人はなぜかひらりこちらに向かって手を振った。

「……ボランティアさんボランティアさん」

「なに。つか、そのボランティアさんってオレ?」

「違うんですか」

「いや確かにボランティアだけど。で、なに。」

「あの人参加者ですか?」

 微妙な顔のボランティアさんに後でちゃんと名前聞こうと思いつつ、さっきの金髪っぽい人を視線で指した。

「―――ああ、あいつ?うん、参加者」

「へえー、高校生ですか?」

「……じゃない? よく知らない。参加者っつっても、こっちの参加者じゃないけど」

「え」

「特別支援学校の方の参加者」

 事もなげにそう言って、それがどうかしたかと首を傾けるボランティアさんに、こっちが首を傾けた。

 ……あのひとが?

「そうは、見えませんね」

「なに? 気になる?」

「気になるというかさっき目があったんで」

「話しかけてくれば。お互い暇そうだし」

「……うーん」

 それは何となく緊張する。私に手を振ったんじゃないかもしれない。でもボランティアさんもよく知らないって言ってるし。誰かと間違えたのかな。

 悩んでいると、ほらリカ返して。と言われてリカちゃんを引き渡す。と、呂律の回らない声で「やだあ」と言われた。

「おねーちゃんとあーそーぶう!」

「……なに。リカ、オレとその人どっちがいいの」

「どっちも!」

「オレって言えよ」

「おねえちゃんお名前はー?」

「話聞いてリカ」

 見事なスルー技術を発揮したリカちゃんは笑顔で私を振り返った。ボランティアさんの睨みが突き刺さる。怖い怖いこの人怖いってば。

「あ! なふだ、ついてるー。……ようこ? ようこ……ヨーコ!」

「呼び捨てか」

「ヨーコ!」

「あ、はい」

 ヨーコ! と繰り返して嬉しそうにえへへ、と笑うリカちゃんの可愛いこと可愛いこと。そしてボランティアさんの視線の痛いこと痛いこと。ぶすっとしながら「リカー」とリカちゃんの手を引くボランティアさんにリカちゃんは笑ってその腕に飛び込んでいった。

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