第19話


 投稿頻度落ちてます、すみませぬ!

 私は元気です。RFAとかやってますのでむしろ以前より元気です。

 執筆も問題なく進んでおります。投稿頻度が落ちているのは……ストック貯蓄ですはい。


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 用意された新たな馬車は、先程まで乗っていたものに比べると酷く簡素な見た目をしていた。そしてその馬車を引くのは、アストラルホース。

 またお前達か。


 「それはもう、私が乗る馬車を引くのはこの子達と決まっていますから。またよろしくお願いしますね」

 

 俺の僅かな驚愕を見て取ったクリスはそう言いながらアストラルホースの首筋を撫でる。相変わらず気持ちよさそうに撫でられているな。

 俺もこの数日間で過度に警戒されることはなくなったが、それでもまだトゲトゲしている。触ろうとすればガンを飛ばされるだろう。

 ツンデレだと思えば可愛くも……思えてくる、のではないか。


 「またよろしく頼むな」

 

 それだけ言って馬車に乗り込む。中はどうやら先程までのものとはそう変わらないようで、外見は恐らく一般の馬車に紛れるためのものなのだろう。

 王族と分かる馬車は、周囲に護衛をつけておけば威圧となるが、護衛も誰も居ない状態では野盗に狙われてもおかしくない。


 俺が座ると、クリスは俺の正面ではなく隣に座った。後から俺が来て座ったので、クリスは改めて場所を変え座り直したという意味だ。

 わざわざ指摘したりはしないが、既にルリが居た時とは違う動きを見せていて困る。


 馬車が動き始めると、合わせたようにクリスは澄んだ高い声でこの後の予定を話し始めた。


 「この後は夕方から夜頃に会合に使われる建物へ到着し、今日は宿泊。明日に元首会合を行い、終わり次第帰ってくると言った感じです」

 「なら大体明日には帰って来れるんだな、それは良かった。にしても改めて聞くんだが、本当にクリスで良いのか? やっぱり国王陛下が直接行った方が……」

 「他国からは既に私が行くことに関して許可を貰っています。本来であれば私のような交渉に不慣れな若輩者が会合の席に座ることは、自国の不利を招くこと。むしろ他国からすれば、そんな人間が席に着いてくれるのを歓迎しているのではないでしょうか?」


 クリスは交渉や舌戦に強みがあることを自負しているが、確かに経験は浅いところもあるはずだ。他国はもちろん経験が浅いこと以外はクリスに関しての情報を表面上でしか知らないはずで、どんな秘策があろうとも、初めて重要な場に出るクリスに対してはそこまで警戒しない。


 国王が実際交渉や国政にどれだけ長けているのか俺は知らないが、見たところルサイア神聖国は王族自身の裁量がかなり大きく、国政に関しても直接手を下している部分が多いはずだ。

 加えてクリスの才媛さや、父から受け取ったであろう知識を嬉々として語っていることろも含めると、国王の手腕は中々のものはず。他国からすれば、そんな国王よりも子供であるクリスに出てもらった方が有難いのか。


 「それに……父は現在、別件に当たっています」

 「別件?」

 「お恥ずかしい話ですが、我が国も少々厄介な問題事を抱えているのです。そちらに関しては私よりも父の方が良いでしょう」

 「勇者関係か」

 「それもありますし、そうじゃないのもあります」


 この話しぶり、以前は俺に合わせる顔がないからなどと言っていたが、元々国王が行かなかったのはそれが理由か。しかも二つ以上のもの……勇者に関するものがあるとなると、確かに他国にばかり目は向けていられない。


 それにしても、どうにも厄介そうなことが多い。クリスの言う別件といい、先日の尾行者といい、今回の会合も厄介事だ。


 恐らくヴァルンバの勇者は、みき、だったか、彼が来るような気がする。出来れば戦闘などがなければ良いが……クリスの話では、戦力を確かめるために勇者同士で試合を行う可能性は十分にあるという。

 その可能性もあってか、到着までに時間はあるが、既に胸騒ぎがしている。ということは、俺の今までの経験からするに何かしら厄介事か、面倒くさいことが待っているということだ。


 「……どうかいたしました?」

 「いや、今は勇者なんかやってるが、元はただの学生だから、元首会合とか胃が痛くなるなと思って」

 「大丈夫ですよ。私だって初めてなんです。お互い初めてですから、一緒に頑張りましょう」


 その不安に関しては声に出さず当たり障りのないことを返せば、クリスが元気づけてくれる。クリスと俺では経験してきた物事に差がありすぎるのだがな……とはいえ、緊張はほぼしていない。

 緊張とは無縁だと言い切ることは出来ずとも、かなりの耐性があるのは事実だ。嫌なものは嫌だが、例えば頭が真っ白になったり、緊張で鼓動が早鐘を打つようなことはそれこそ無い。


 「そうだな、一緒に頑張ろう」

 「はい。対策としてまず、予想される質問や会話の内容とその応答に関する打ち合わせなどをしておきましょうか。トウヤ様もきっと発言を求められるでしょうし」

 「目立たないように終わりたいが、流石に無理か」

 「無理ですよ。トウヤ様は目立たないようにしていても目立ってしまう人でしょう?」


 そこまで溶け込むのが下手だとは思わないが。そもそも俺が無理だと言ったのは、あくまで今回の会合の目的は勇者のお披露目という側面があるからどうしても目立つという意味だったのだが、クリスには違う意味で捉えられたようだ。


 「初めて見た頃からトウヤ様は一目置かれているような方でしたし、その後もグレイやマリーからも良い評価ばかりですし、サラはトウヤ様に傾倒しますし……ね?」


 と、俺の良い点と言うか、目立つ要員となった根拠を挙げていく。能力を見せたグレイさんやマリーさんはともかく、メイドのサラさんとは当たり障りのない会話しかしていない気がするが……。


 「それに、実は私はトウヤ様を他国に自慢したくてしたくてしょうがないのです。私の国にはこんなに魅力的な……頼れる勇者がいるんですって」

 「少なくともヴァルンバにも勇者は居るんだから、そこと比べたらもしかしたら俺の方が劣るかもしれないぞ」

 「いいえ、トウヤ様が一番です」

 

 笑顔で、こちらを見つめながらの断言。


 その言葉は無垢な思い込みから来るものではない。俺に対する念押しだ。『私が一番だと信じているから、一番になってくださいね』という、自身の思いを現実にするための無茶振り。

 そしてそこに、俺ならそれに応えてくれるという信頼と期待を混ぜている。王女が個人にそんな傾倒するのは良くないと思うのだが……。


 「……分かったよ。もし実力を見せるようなことがあれば、手加減はしない」


 まぁ、確かにこういうのはなめられたら終わりだ。クリスが俺に一番であって欲しいと願うなら、俺はルサイア神聖国の、クリスの勇者として一番になれるような努力するだけ。

 

 それだけの事だ。そう難しいことではない。





 馬車は軽快に道を進み、大陸中央部にあるという会合場所へと向かう。

 ルサイア神聖国は大陸の南から南西にかけて広がる土地であり、王都があるのは国土のかなり東側。そこから今は、大体北北東に向かっているはずだ。


 「大陸中央なんてわかりやすい場所なら、誰でも行けるんじゃないか?」

 

 ふと俺はそんな疑問が湧いてくる。場所がバレないようにとは言うが、こんなもの俺だって適当に答えて当たってしまうレベルの問題。あとは大陸の中央をめざして馬車でも走らせれば、誰でも着きそうなものだ。

 だがクリスはいいえと首を振り、俺の疑問を否定する。


 「私もまだ実際に見たことはありませんが、会合に使用する建物へと向かうには特別なルートを通らなければならないらしいのです。そのルートを、このアストラルホース達は覚えています……何でも、特殊な魔道設備による大規模な結界、だとか」


 詳しい訳では無いのか、概要だけ説明され取り敢えずの理解を示す。特別なルート、俗に言う迷いの森のようなものだろうか。正規のルートを通らなければ決して目的地にはたどり着けないという。

 

 「またこちらも実際に見たことはありませんが、王族や王侯貴族以外の魔力を持つ人間を迎え撃つ番人のような者が存在するらしいです。こちらはお父様も話しか聞いたことがないらしくて、人なのか、手懐けられた魔物なのかも分かってないのですが……あ、こうやって私と一緒に居る分には襲われないらしいので大丈夫ですよ」

 

 と、俺の手を握ってくるクリス。スキンシップはちょっと、とその綺麗な微笑みに目で訴えるが効いた様子はない。

 しかし、番人か。流石に大国が会合を開くとなると国家機密の内容にも触れる可能性はあるのだし、警備は厳重か。実態が無いため、本当に居るのかすら怪しい話だが。

 


 やがて窓からは正面を塞ぐように横断する川が見えてくる。

 角度のせいで距離が把握しにくいがそれでも広く、実際に川幅は優に100メートルを超えていそうで大きめ。その川を跨ぐように、巨大な一本の石橋がかかっている。ここを通るようだ。


 その橋を渡っている最中、クリスが少しだけ不安感を滲ませながら。


 「ここの川にはオルクスと呼ばれる魔物が巣食っているので、何があっても落ちたり、川の上に出たりしないように」

 「……オルクス?」

 「口の長い蜥蜴のような魔物です。鱗は硬く、体も大きくて獰猛な上に、非常に動きが素早いとか。主に川幅の広い川や湖に生息していて、水の中に入ってきた生物に食らいつきます。危険なのが水の上を通る時でして、例えば跳んで渡ろうとすると、オルクスが勢いよく水面から飛び出してきて体を噛みちぎっていくんだそうです。橋の上を通る分には、橋の影が巨大ですので飛びかかっては来ないんです」

 

 口の長い蜥蜴で、鱗……ようは危険なワニか。橋以外の道を通ろうとすると襲われるということで、だからクリスがちょっとだけ、分かりにくい範囲で怯えているのだ。

 確かに川を良く見てみると何かが水中を蠢いており、濁っているため曖昧なシルエットでの判断になるが、思った以上に数は居そうだ。そんなヤツらの上を通っているのだから、不安になるのも仕方ない。


 橋があるとは言っても、古いものなのか建材は石のみに見える。ある程度頑丈そうだが、魔物の攻撃には耐えられないだろう。例えコンクリや鋼などを使っていても耐えられるかは怪しいが。

 まぁ今まで大丈夫だったということは、そこまで心配しなくても問題は無いのだろう……石橋を渡り終えると、クリスはほっと息をついた。


 「ふぅ……魔物の近くを通るのは緊張しますね。襲ってこないとは分かっていても、どうしても少し怖いです。トウヤ様が居なかったら震えていたかもしれません」

 「言うのは野暮かもしれないが、さっきも少し震えてたぞ?」

 「ふ、震えてませんっ」


 思わず指摘すると、クリスは恥ずかしかったのか僅かに赤くなって顔を逸らす。女の子なんだから怖がることを隠さなくてもいいと思うが、それは男側の感性なのだろうな。

 

 クリスは誤魔化すように咳払いした。


 「……先程の川は国境の役割もありまして、今この場所は既にルサイア神聖国から出て『無国地帯』に入っています」

 「無国地帯?」

 「文字通り、どこの国のものでも無い不可侵の場所です。各国で決めた法律は適用されず、言ってしまえば無法地帯に近いですね。とはいっても、街や人が住むような場所はなく、そもそも各国で立ち入りを禁じてはいますからほとんどの人は来ません。犯罪者の潜伏先になりかねない危険は孕んでいますけどね」

 

 続けてクリスが言うには、ここが大陸の中央にあたる場所らしく、この大陸の大国全ての国土に面している土地でもあると言う。大陸自体は東に広い楕円のような形で、国も綺麗に円を描くように存在している。

  その中に元首会合を行う場所があるとの事で、道のり的にはもう少しの様子。


 川を超えたことで何か変化があったかと言うと、土地の色が少し違う。ルサイア神聖国やヴァルンバの国土は草原、草の生えた土の地面がほとんどだったが、一方でこちら側はどこか乾いている。

 地面は同じく土だが、草は生えていないし、轍の跡にも当然無い。不毛とまでは言わないが、それでもかなり殺風景だ。どちらかと言うと荒野に近い感じがする。


 土地に何か問題でもあるのか、馬車の中に居るうちは分からなそうだ。無国地帯となっているのも単に大陸の中央だからと言うだけでなく、その辺が理由となっているのかもしれない。


 馬車が走り続けることおよそ三十分。


 「───ん?」


 馬車の中で俺は、前方に違和感を覚えて窓から視線を向けた。


 「トウヤ様、どうかしました?」

 「いや……なんと言ったらいいか、妙に違和感がな」


 違和感の正体は曖昧だが、馬車が進むにつれ俺はそれが魔力の感覚であったこと悟る。微弱な魔力がこの辺りに漂っているのだ。

 微弱とはいえ、それは魔法を放った残留などとは明らかに異なっている。


 これは、そう───結界だ。それも並の人間には感知すらできないほど上手く隠されたもの。

 例えここに結界があると知らされても、その存在を把握できるのは一握りの人間のみ。魔法の腕にかなり自信があるものだけだ。


 そしてその結界に合わせるように、前方には建築物が存在した。いや、建築物と言うには自然で、だが自然と言うには人工的。

 一見するとそれは森だが、生えているのは壁のように平べったく広がる幹を持つ木だ。それぞれの木は隣の木と完全に融合しており、文字通り壁となっているのだ。木造の壁と表現した方がしっくりくるレベルだ。

 その木で出来た壁が道を作っており、しかし真っ直ぐではないことから内部はおそらく迷路のようになっているのではないか。

 

 こちら側にある入口は一つだが、森は円状に広がっており、高さの問題もあってどの程度の広さの円なのかは把握出来ない。少なくとも半径二キロ以上はありそうだ。そしてその森の迷路に沿うように結界が張られている。隙間なく。


 こんな大規模な結界を個人で張るなんていうのは、考えにくい。今の俺ではこの半分の大きさの結界すら発動が困難だろう。それだけ範囲と規模が大きく、故にこの結界を維持するなら……。


 「魔道設備とやらか」


 恐らくは魔法を応用した設備だろう。魔道具マジックアイテムは道具だが、それの設備版と簡単に捉えられる。どういったものなのかは想像が出来ないが。


 「恐らくトウヤ様の言っている結界は、侵入者を阻むものではないでしょうか」


 王都を出発した辺りでクリスが言っていた、迷いの森のような結界か。特定のルートで行かなければ目的地にたどりつけないもの。

 本当に迷いの森だったわけだ。


 「あれ、木の上を乗り越えていったらどうなるんだろうな」

 「結界の性質を詳しく把握している訳ではありませんし、専門家ではありませんからなんとも言えませんが……少なくとも、簡単には入らせてくれないでしょう」


 物理的障壁があるのか、気づけば元いた場所に戻っているのか、同じ場所をぐるぐると回らされるのか……どれもこの規模の結界ならありうるし、確かにこれを力で突破するのは至難の業だ。

 

 魔法には魔法で対抗する。つまり無理矢理破壊するやり方もあるにはあるが、この結界はその防御性能も桁違いだ。上級魔法を放ったとしても壊れるようには思えない。


 その代わりに特定の手順を踏むことで中に入れるようなになっているのだろう。一つ弱点や隙を敢えて作ることで、他の部分の構成をより強固とする。

 一定以上の実力は必要となるが、この『制縛強化ギアス』と呼ばれる技術はありふれたものだ。


 完璧な魔法を作るのは当然並外れた技能レベルが要求されるが、何かしらの欠点を持つ強大な魔法というのは案外作りやすい。


 イメージとしては、欠点を作ることで魔法のコストを下げ、余ったコストを別の面の強化に注ぐ……みたいな感じだ。魔力を過剰に注いで魔法を強化するのもこの技術に入る。


 無論、その技術を用いようともこれほどの結界を作ることは至難の業だ。そんな結界を常時張れるその魔道設備とやらは非常に高度な技術と魔法技能の結晶のはず。


 何はともあれ、俺の考えた『木の上を乗り越える』なんてのは防がれて当然。


 例え壊せても壊すつもりは毛頭ないが、ここは大人しく馬車、アストラルホースに任せよう。


 「それにしても、わざわざ会合を行うためにこんな大掛かりな物を作るなんてな」

 「いえ、こちらの迷路や結界は何れも元首会合のためのものではありませんよ」

 「そうなのか?」


 明らかに人工的なものだし、丁度大陸の中央ということもありてっきり昔のお偉いさんが、元首会合を行うために誂えたものかと。

 

 「はい。元々ここには、ローニアと呼ばれる国があったんです。無くなってから既に五百年は経っていますが……これから行く会合場所も、そのローニアの古城らしいですよ? この結界や迷路も、ローニアが存在していた頃からある建造物だそうです」

 

 今は亡き国の遺物か……五百年ともなると、文明レベルには現代と差があるはずだが、この結界に関してはどうなのだろう。明らかに現代でも再現が難しいし、だからこそこの場を会合場所として使っているのかもしれない。

 それに、多数の国に面するはずの大陸の中央を陣取っていたのなら、その国力も……いや、それが理由で国が滅びたのか。


 馬車は何度か直角に曲がり、三十分程度は進み続けただろうか。

 森の迷路を抜けると、その先は再びだだっ広い景色。しかし未だ会合場所という古城は見えない。


 恐らくこの結界は『外部』と『内部』の間に、こういった侵入者と招待者を判別するような分厚い層があるのだろう。それによって、まだ結界の内側に入り切っていないようだ。


 「ここからはアストラルホース達が覚えている細かな道順を辿るかと。先程の迷路だけでは、根気強い者なら解けてしまいかねないですからね」


 恐らくさっきの迷路も、行き止まりではなく、間違えた道を進むとぐるぐる回り続けてしまうか、入口などに転移されるなどあるのだろう。正解の道を迷うことなく進んで三十分近くかかるものなので、それを探しながらなど常人の域ではない。


 それを超える人間は本当にこの先に行きたい奴だろうが……加えて、この何も無い場所で特定の道を進まなければならないということか。

 地面は土なので轍が残りそうな気がしたが、前を見ても以前の馬車が通ったあとはなく、後ろを見てもこの馬車が付けた跡は無い。


 この中でもアストラルホースは完璧に覚えているようで、何も無い場所で方向転換を行っている。その規則性はなく、これを覚えるには文字通り桁外れの記憶力が必要だ。

 アストラルホースは、道を覚えることに関しては確かに凄まじい記憶力を持っていることが分かる。

 

 「……っと、今抜けたな」

 「はい?」


  その瞬間、何か薄い膜のようなものを突き破った……結界を抜けた感覚が体を襲った。

 しかしそれは、鋭敏な感覚を持っているからこそ気づけた、本当に微かな違い。クリスは俺の言ったことを一瞬考えてから、そこに思い至った様子。


 「どうやらそのようですね。トウヤ様、あちらを」


 クリスはその結界を抜けた確認を窓の外の景色によって行った。クリスに促されて俺も外を見ると、凡そ一キロぐらい先の場所に城が建っていた。先程まで何も見えなかったのに、忽然と姿を現したのだ。


 結界をちゃんと通り抜けなければ、あれはいつまで経っても見えてこないはずだ。


 馬車で近づくと、その全貌が分かる。城とは言うが、元はルサイアの王城のようにそれなりの広さがあったであろうそれも、年月によるものか残っているのはちょっとした屋敷程度の大きさ。

 アレが城だと気づけたのは、四方を囲む分厚い壁だろう。もっともその壁も、内側がここから見える程度には大きく破損している訳だが。


 しかし残っている部分に関しては手入れが行き届いているのか、この距離から見る限り汚れていたり、ヒビが入っているようには見えない。あれだけ破壊された跡地だ。あのまま残っていたと言うよりは補修したのだろう。


 過去に戦争か、魔物にでも襲われたかしたのは間違いない。風化して自然と崩れたようにはとても見えなかった。


 そのまま直進し続ければ、入口と思われる場所には二人の人間がわを居た。


 その二人はこちらを見るやいなや、深々とお辞儀をする。素人目に見ても洗練された動きは、使用人や執事を彷彿とさせ、実際その通りの人達なのだろう。


 「あれはあそこの使用人か?」

 「恐らくは……ここからは勝手も分かりませんからね、慎重に行きましょう」


 そうだった。一応はクリスもこの場所は初めてで、多少緊張はしているだろう。今は仮面の下に上手く隠しているが……これから会うのは他国の元首。立場的に言えば、王位継承権を持っているとはいえ、元首代理であるクリスよりも実際には上の地位の人達だ。

 

 あくまで勇者の話をするだけだと思うが……実際に行ってみて、都度対応できるようにしておかないとな。

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