第18話
リングフィットやってたら体つきが多少変わってきました。
執筆もまぁまぁでございます。投稿頻度は……すみません。
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結局尾行者の正体は分からなかったものの、俺だけが狙われていたのと、最後の移動方法から魔族との関係性を疑うこととなった。
要するに、魔族側にこちらの行動が筒抜けであるという証拠だ。尾行者自体は魔族では無いように感じたので、あくまで下っ端的な存在のように思える。
しかしそれでも、あの戦闘能力は危険だ。俺やルリはともかくとして、クリスが巻き込まれれば対処が難しい。
幸いなのは、少なくとも今回の尾行者の狙いは完全に俺のみであったことだろう。俺がクリス達の近くにいなければ、クリスが巻き込まれる可能性は少ない。
それが難しいのが今なのだが……。
何にせよ朝になったら拓磨と慎二達にもこの件を伝えることにして、俺達は再び寝ることに。まだ深夜に入ったばかりで、起きるには早い。
再び寝るとは言っても、俺は見張り番。寝るのはクリスとルリ……のはずだが、二人が馬車に入ってから時間が経ったあと、ルリだけが音をたてぬよう静かに出てくきた。
「どうした?」
「……ちょっと、寝付けない、から」
寝れないから俺のところに来たのか。一応ルリにはクリスの護衛を任せる意味で一緒に居てもらったのだが……流石にさっきの今で再び何か襲撃が起こるとは考えにくい。
油断している訳じゃないが、少し強めに馬車へ意識を向けておけば問題ないだろう。
「さっきは起こして悪かったな。魔法の加減を間違えたんだ」
「……平気。むしろ……トウヤ、凄く強く、なったなって……そっちに驚い、た」
座りながら周囲の気配に気を配る俺の隣に、ルリはちょこんと。自分の椅子を持ってきて座った。
そして、若干のキラキラとした眼差しでこちらを見つめてくる。驚いているというか、尊敬しているというか、少し過剰な気もしないが嬉しそうだ。
確かに魔法能力を見れば、俺は間違いなく飛躍的に上昇している。レベルの上昇も無くこれなのだから、死地を経験することはそれ程までに肉体に負荷をかけるのかもしれない。
一回り、などという表現では足りないほどの成長に俺自身驚いていたのだから。
「今、なら……この前の、やつ、倒せる?」
「フェアズミュアか。そうだな……余裕じゃ無いかもしれないが、一人でも倒せるかもしれない」
ルリの言わんとすることを理解し、頷きを返す。フェアズミュアの場合、前回は初見という点がかなり大きかったので、大体の攻撃方法を把握した今は前回ほど苦戦はしないだろう。
それに、今なら魔法で直接ダメージを与えられそうだ。それだけでもかなり楽になる。
「……もう、私より……強い?」
「それはどうだろうな。俺にとってはルリが一番強くて頼れる人だから、俺の方が強いとは思えない」
「……でも、多分そう……トウヤの方が、強い、と思う。センスとか……戦い方、とか」
俺の言葉に一瞬嬉しそうにしたが、すぐに戻して冷静に分析してくるルリ。要するに、身体能力や魔法能力ではまだ俺の方が低いかもしれないが、戦闘センスや技術の点で上回っているということか。
貶める訳じゃないが、確かにルリは圧倒的な力で薙ぎ払うという戦い方だ。技巧的とは言い難い。
徐々に力をつけたのではなく、まるで最初から強い力を持っていたとでも表そうか。だから恐らく格上や同格の相手との戦闘に慣れていない。
フェアズミュア戦の時も、反応速度を上回る攻撃を避けきれなかったことが最も大きな痛手。そしてそれは、不用意に近づいたことが原因だ。
ルリの場合、基本はどんな攻撃も正面から砕く。だから簡単に近づこうとしてしまうのだ。
もっとも、油断していたのは俺も同じなので説教を垂れることなど出来ないが、センスは俺の方が上だろう。
「まぁ……もし俺の方が強いって言うなら、その時は俺がルリを守ってやるよ。今までとは逆にな」
「……」
今まで力関係的にはルリの方が強かったが、少なからず逆転したということは、俺の中での本来の男女間のものになりつつあるということ。
男が女の子に守られるような関係じゃ情けない。ましてやルリは一応、その、恋仲のようなもの。
俺にも見栄を張りたい部分はあるのだ。
椅子を俺に寄せたルリは、こちらを見上げ見つめてくる。先の俺の発言をどう思うかは謎だったが、頬を染め僅かに緩めているところを見るに嬉しそうだ。
ルリも『守ってもらうと嬉しい』みたいな感覚があるんだろうか。女の子はそういう感覚を覚えやすそうだが、そうじゃなくても好意を感じることが出来て嬉しいのかもしれない。
それと同時に、俺の袖を掴んで。
「……トウヤ。そういうこと……私以外に、言わないで、ね」
「言わないでって、どうしてだ?」
「…………嫉妬、しちゃう、から」
ちょっとだけ恥ずかしそうに、零す。声を高くして、上擦るギリギリの声音。
思わずにやけてしまいそうな表情を取り繕いつつ、頷きを躊躇いもなく返す。
「そういうことなら、分かった。他の人には言わない」
「……そう、して。トウヤは……なんか、いっぱい女の子、寄せそう、だから…………釘、刺しとかないと」
「いや、そんなことはないと思うが……」
言いながらも、ルリが心配するように近くに美少女が多いのは事実だ。特に叶恵やクリスは他に探すのが難しいほど整った容姿をしていて、実際ルリが警戒するほどには魅力的と言える。そしてそれ以外にも、少なくとも女子が近寄らない訳では無い。
もっとも、今の俺はそういうことを口にすることは出来ないので、誤魔化すしかない。ルリとこうして二人っきりの時は、他の人に触れない方が良いだろうと思っている。
独占欲、強いんだしな。
「ホント……? 怪しい……」
「いつもルリは一緒に居るだろ? 怪しいことなんてないし、こんなことを言ったのもルリだけだ」
「……ダメ。確かめない、と、信じない」
いや、そこは恋人を信じてもらいたいところなのだが……というか、『確かめる』とは一体。
「……私の事……好き?」
「確かめるってそう言う……もちろん、好きだ」
「……愛して、る?」
「愛してる」
「…………世界で、一番?」
「世界で一番好きで、愛してるよ」
嘘偽りない言葉を出していけば、ルリはちょっとにやけている。可愛いなその顔。普段表情の変化が少ないだけに、新鮮に思う。
「……じゃあ……愛して?」
ただその言葉は予想してなかったな。『愛して?』と来たか。
もちろんただ愛を囁けという意味ではないだろう。行動で示せと、具体的には……行為で示せと。
俺はこの一連のやりとりが半ば無理やり仕組まれたものだと察した。少し話の持ってくる方法が強引だったからな……今更言うことは無いが。
「……クリスは?」
「……寝て、る」
俺の一言に肯定的な意味を見出したルリは、少し驚きながらも弾むような声で言った。
やっぱり元々これがしたいがために起きてきたな、と半ば確信を抱き、性欲強めのこの子にお仕置の一つでもしてやろうか考えてしまうが……そういうお仕置は、ルリには嬉しい方向に捉えられてしまうから、逆効果だ。
「はぁ……一回だけな。それ以上はしない」
「……ん。大丈夫、それ以上は……今は、いい、から」
曖昧な言い方だが、頼むから明日以降もしばらく我慢してくれ。じゃないといつかクリスからの信頼度が地に落ちる。今回だって、あんな襲撃のすぐ後とか無警戒にも程があると俺自身嘆いているのだ。
とはいえ、すると言ったからにはするとも。宣言通り、ルリの事を愛する。これでもかという程に。
愛する行為とは、そういうことだ。単なるキスじゃ誤魔化せないし、そんなピュアな関係でもない。
こんな時でもしっかりバッグの中に準備をしてきている自分の行動を少し恨めしく思いつつ、だが気持ちは既に傾いているので止める選択肢は無かった。
お互いに前戯を済ませ、まだ二回目というのもあり、少し恥ずかしげにしながらルリが、座った俺に跨ってくる。
「そういえば、痛みは平気か?」
「……大丈夫……多分」
多分か。それはちょっと怖いが……ルリがする気満々な以上、俺に止めるすべは無い。どうしても無理そうならその時は俺の方から止めさせよう
だから腰を落とすルリのことも見送る。奇しくもその体勢が、既に昨日になっているであろうキスの時の『対面座位』という表現通りになってしまったわけだ。
ルリと深く繋がり、首に回された手に力がこもるのを感じながら、快楽と愛欲に意識を委ねそうになってしまう。
しかし、こんな状況なのに実際にそうはならなかった。その理由はといえば……。
俺は僅かに視線を馬車へと向ける。暗がりのため見えないが、向こうからは明かりのあるこちらの様子がシルエットのように見えていることだろう。
視線を感じたから何事かと思えば、なんてことは無い。馬車の中からこちらを見る人物など一人しかいないのだから、警戒の必要はなかった。
だが何かしらの対策は打つべきだったかもしれない。暗幕を使うなり、結界なり。そうすればまだ疑惑で済んだところを、今や取り返しのつかないところまで来ている。
アレ、多分完全に見えているぞ。ルリの動きとか。扉の窓からそっとこちらを覗いている
……後でどう言い訳するか考えながら、今は気付かぬ振りをして行為に意識を戻してくる。もう始めてしまったものは仕方ない。自棄である。
それにしてもこれは、ちょっとやらかしたな。そう僅かな冷や汗を垂らし、それをルリに悟られないように、されど顔だけでも馬車から上手く隠してやるように。
今のこの顔を見られたら、ルリも恥ずかしさで倒れかねないからな。あとは音や声が聞かれていないことを願うだけだ。
未だ二回目にして、これだけの思考の余裕を保てるのはなんか嫌だな……まだ必死になっていたい気もする。
まぁ、すぐにそうなるだろう。努めて冷静さを保っているだけで、こんなもの捨てようと思えばすぐに捨てられる。そうなったらあとは男と女だ。
ルリは女と呼ぶには、体がかなり小さく平坦で、何より子供だが。
◆◇◆
翌朝以降、クリスからは特に何か言われることも無く、馬車は出発した。襲撃の件に関しては領土がヴァルンバ国領のため、情報だけ入れて一旦は放置にするそうだ。情報が少ないしな。
国境を越え、街を経由し、途中ちょっとしたアクシデントに見舞われ時間を食いながらも、何とか俺達は、僅かな懐かしさを感じるルサイア神聖国の王都まで辿り着いた───いや、この世界では帰ってきたと表現するべきか。
生まれではないが、俺達が出現したのは文字通りこの王都、王城の地下だ。これはこの世界における出身地に該当するだろう。
日数として見れば短い間だが、それでもクラスメイト達全員と過ごした期間はこの王城に居た時のみ。そういう面でも懐かしさがあるのだろう。
とはいえ、俺とクリスにとってはこの王都はあくまで中継地。ここから専用の馬車へ乗り換えることになっているのだが。
馬車が王城の中へと入り、全員で降りると、クリスはルリに視線を向けた。
「それでは、ルリさんとはこちらで一度お別れになってしまうわけですが……」
少し歯切れの悪い言い方だが、それは恐らくルリの性格や思考を考慮した結果だろう。ルリなら今ここで改めて『ヤダ』と言ってもおかしくない可能性を考えている。
まぁこればっかりは酷いようだが仕方ない……少なくともルリはクリスからの『変なことはしないでくださいね?』という言葉を全く守れていないわけだからな。その場合俺も同罪なので人のことを言えたものではないが。
しかしルリは、こう言うと可哀想だが意外にもすんなり頷いた。
「……分かってる……トウヤ、早く帰って、来て」
「素直で偉いぞルリ。出来るだけ早く帰ってくるよう頑張る」
そんなルリに、ついつい保護者目線で言ってしまう俺。まぁ、下から潤むような瞳で、縋るように抱きつかれながら言われてしまったら、保護欲に駆られるのも当然だろう。
クリスはルリが頷いてくれたことで一安心といった顔をしてるが、しかしルリは俺に抱きついたまま視線は逸らさない。
「……トウヤ」
そのまま、言わなくてもわかるよね的な感じで見られてしまう。名前まで呼ばれたので、そうなのだろう。
その微妙に甘く居た堪れない雰囲気を察したクリスが「で、では私は準備してきますね」と、少し焦ったように席を外した。
普段ならルリに待ったをかけそうだが……ここは横から口を出してはいけないと判断したのだろう。
偉いな。そしてありがたい。
俺にとってもルリにとっても恐らくお互い離れている期間は辛いものがある。わざわざ冷静さを間に入れたりせず……クリスの気遣いも受け取り、ここは求められたように応えよう。
「何がしたい。一度最後までしたいか?」
「……キス、で、いい」
おっと、これも意外だ。一日以上離れるから最後にもう一回とばかりに求められるかと思ったが、キスでいいらしい。
むしろこの数日間でルリの欲求をある程度満たせたということなのかもしれない……街の宿で泊まる際には、クリスの護衛としてルリを一緒の部屋にしているのに、毎夜のこと抜け出して俺の部屋に来るものだから、その後は初日の野営時と一緒だ。
この短期間での行為に目眩がしそうになりつつも、俺は分かったと頷きを返す。
そのままでは身長差がありすぎるため、ルリは俺の首に腕を回して引き寄せるようにしつつ……距離を縮め、キスをした。
背伸びをして俺に抱きつき、俺は身を屈めて受け入れる。傍から見たら、この身長差のせいで酷く歪かもしれない。大人と子供、そう捉えられてもおかしくはなく、その二人が抱き合い口付けを交わしている。
それをおかしいと思う人の方が、きっと多いだろう。かく言う俺も、第三者として見ればおかしいと思う側だ。
誰が見ている訳でもないが、誰かが見る可能性はある。例えばメイドとか、例えば……クラスメイトのヤツらとか。見られたら社会的にも終わりだし、人間関係も想像したくない結果となりそうだ。
ちょっと見れば、これが軽いものではなく濃厚なキスだと分かる。唇を合わせたまま中々離さないし、ルリは時折ビクリと震えるし、たまに息継ぎで一瞬口を離した時には舌が引くのが見えるだろうし。
そんなキスをしているので、見られるかもという心配もすぐに消えうせた。そんなことよりルリとのキスに意識を傾けたかったのだ。
実際心配は杞憂に済み、ルリは満足したように俺から唇を離す。散々俺と絡めた小さな舌を、最後にしまって。
少し赤くなった頬で、愛おしそうにこちらを見つめてくる。
「これで、良かったのか?」
「……ん……いい。帰ってきたら、いっぱいする、から……いっぱい、いっぱい……」
「それは……求められすぎると俺の体が壊れるから、程々にしてくれ」
「……壊れる、の……私の方……じゃない?」
冗談なのか本気なのか分かりにくいことを言いながら、ルリは小さな自分の体を抱く。え、いや、そんなに激しくしているつもりは無いが、実はルリの体には思ったよりも負担がかかっていたのだろうか……?
だが確かに俺の体とルリの体では体重の比率が文字通り二倍以上違う。体感では三倍の差すら有り得そうだ。
ルリが
「……冗談。いつも、優しい、よ」
と、その言葉に割と真剣に深刻さを感じていると、どうやら冗談だったようで、否定してくれたルリは微笑む。
……なんか、妙にやらしいな。俺がそういう風に捉えすぎなのかもしれないが、壊れるとか、優しいとか。
スローペースは意識しているつもりだと弁解しておく。
「冗談きついな。ほら、早く行くなら行ってこい。あまり残られると、こっちも名残惜しくなる」
「……ん。じゃ、またね……ぁ、クリスに、変なことしちゃ、ダメだから」
「しないっての」
それを誤魔化すように、ルリに王城へと向かわせる。まぁこのまま残られても、言ったように名残惜しくなってしまう。俺もルリと離れるのは嫌なのだ。
ずっと一緒に居るので、それが普通になってしまった。一緒に居ると安心し、そうじゃないと不安になる。この差は非常に大きく……実を言えば、夜を考えれば支障すらでかねないほどで。
「───またすぐに帰って来れますよ」
顔に出ていたのか、戻ってきたクリスがそんなことを言って微笑みを見せてきた。どことなくではあるが、少し楽しそうだ。
こちらの心配する意図までは、流石のクリスも知らない。とはいえ、その見当違いな言葉にわざわざ訂正を入れることも無く。
「そうだな。さっさと行って、帰ってきた方が良さそうだ」
「あら、私と二人は嫌なんですか?」
「分かってて聞いてるなら、性格が悪いな」
「何のことでしょう?」
というクリスだが、もはや隠す気のないこの笑み。俺は息を吐きながら、珍しいことにクリスに対して少しだけ不安を感じていた。
ルリの事が嫌いなはずはないが、クリスはクリスで俺との信頼関係を強めようとしている節がある。例えば近い距離感を求めてくるとか。そして異性であるが故に、多少はそういう部分も使ってくるのだ。
ルリのことがあるから遠慮はすると思うが、それでもいなくなった今、どう出ることやら。
いまいち読み切れない。
「……行こうか」
「はいっ! ルリさんには申し訳ないですが、少しの間はトウヤ様を独占できますね」
「頼むから、ルリが怒りそうなことはしないでくれな?」
「大丈夫です。私はこれでも王女ですから、変なことはいたしませんよ」
まぁ、クリスなら確かにルリのような変なことはしないかもしれないが……変なことの一歩手前くらいまではやってきそうだ。
いや、大丈夫、だと思いたい。ここは王女の言葉を信じさせてもらおう。
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