第8話


 投稿忘れてました申し訳ない!!



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 「───今から迷宮に?」

 「あぁ、少しリハビリがてらにな」


 部屋に戻り外出の準備を始めた俺へ、拓磨が聞いてくる。帰ってきたら部屋を新しくとるつもりなので、全てアイテムバッグへ収納するだけだが。


 「もう夕方近いぞ」

 「どうせ長時間は潜れないし、少しは体を疲れさせないと夜眠れなさそうなんでな」


 数日間とはいえ寝たきりだったので、肉体的な衰えこそほとんどないが、戦闘の勘は鈍ってしまっているだろう。

 あとは、意識はなかったものの全く動かなかったためその分体を動かしたいのもある。


 本当なら第五階層以下に行きたいが、往復を考えるとかなり時間がかかるため第四階層が限界だろう。

 それに、リハビリと言うならその程度が丁度いい。


 「病み上がりで平気か?」

 「余程のことがない限りは平気だ。第五階層に行かなければ散歩みたいなものだしな」


 気絶でもしようものなら別だが、恐らく平気だろう……ストレアさんの言葉が脳裏を過ぎるが、平気だと思いたい。

 呼吸が短くない時間停止していたらしいので、脳に異常がないとは言いきれない。今は平気でも、もしかしたら体を激しく動かすことで支障が出てくる可能性は十分にある。


 「まぁ、一応ルリについてきてもらうから、万が一も問題はない」

 「そうか……ならば止めはしないが、くれぐれも気をつけろ」

 

 拓磨は無理に引き止めることなく俺を送り出した。




 ◆◇◆



 最早当然のようなものになってしまっているが、突然俺が迷宮にリハビリに行くと言っても、ルリは反対せずついてきた。

 もっと言えば、その表情に明らかな喜色を見て、二人っきりになれるなら大歓迎とも言うべき思いが読み取れてしまった。


 リハビリというのは間違っていないが、実を言うと夜までの間再びルリと部屋で過ごすのは避けたかったのだ。意識してしまっては流石の俺も普段通りに接することなんて出来ないだろうし、ルリはルリで変な気分になってくるに決まっている。

 かといって、ルリのことだ。俺と一緒に居たがるのは目に見えている。男共の部屋にルリを入れると周りに気を遣わせるし、俺が女性陣の部屋に行くのも難しいとなれば、あとは外出しかないわけで。


 迷宮へと入り、第二階層まで進む。第一階層ではゴブリンとは出くわさなかったが、第二階層も、とはいかない。


 ルリには相変わらず万が一に備えていてもらい、目の前に迫るブルボアを俺はどう倒すか悠長に考えていた。


 その結果、一歩二歩とこちらからもブルボアへと近づく。しかしその速度の比は圧倒的だ。こちらは歩いていて、向こうは猛進。

 敢えて大きくは動かず、はね飛ばされそうになるギリギリのタイミングで俺は右側へと体を移動させる。ブルボアは横幅も三メートル近くあり攻撃範囲が広いが、避けることは容易かった。

 体の側面を抜けるようにしつつ、片手に握っていた剣を構える。


 魔力を流せば、刃の輪郭がぶれ始めた。そのまま一閃する。


 突き刺すわけじゃない。ただ、振るう。

 少し持ち上げて、左肩から抜くように。

 もちろん、肉を豪快に抉る訳でもない。


 握った剣から斬ったような感触は伝わってこなかった。ただ、ブルボアの背後へと抜けた時、ブルボアの左側面からは遅れて血が吹き出した。

 一文字に巨大な傷を作り上げたブルボアは、傷口からの大量出血に耐えられず崩れ落ちていく。あの巨体でも、二メートルを超える深い裂傷は致命傷だ。


 俺は振り返ってそれらを確認するより先に、自分の剣を見ていた。


 『振動波オースレイション』───まさかこれほどまで細かい振動を制御出来るようになっていたとは。


 「……あざ、やか」 

 「俺もビックリだ。感触が全く無いなんてな」


 本来剣で何かを斬れば、当然斬ったものの抵抗を感じる。普段ならば『振動波オースレイション』をかけた状態であったとしても少なからず感じるはずだが、今回に限ってはそれが全くなかった。


 他の魔法を試す必要もあるだろうが、今の一度の感触だけでも、前回までと比べ格段に魔法技能が成長していると実感できる。発動速度、魔法の手応え、そして効果……。

 考えられる理由としては、命の危機を感じとった肉体が急速な成長を必要としたとかだろうか。レベルはフェアズミュアを倒して一上がっているが、それだけでは考えられない急激な成長だ。


 となれば魔法技能以外にも成長していそうだが……いや、これは実際に確かめていくしかない。

 

 


 ◆◇◆



 

 先程も言ったが、既に遅い時間のためあまり深くは潜れない。第四階層ぐらいが限界だ。

 この階層においてはホブゴブリン系統が居るというのは既に知っての通りで、しかし他にも魔物はいる。

 コボルト───ゴブリンと似た系列の魔物だ。しかしゴブリンよりも獣寄りの見た目をしており、その口には牙が生えている。体も毛に覆われており、戦い方的にはどちらかと言うとゴブリンよりも苦手だ。


 とはいえ、あくまでそれは比較した場合。第四階層の敵は現時点では圧倒的に力の差があるため制圧は容易い。コボルトは四足で俺の元まで高速で近寄ってくると、喉元を噛みちぎらんと飛びついてくるが、俺はその頭を正面から掴み取り、勢いを腕力で全て相殺する。


 コボルトの頭には大抵頭蓋に似た被り物がある。地上に生息するコボルトは狩った獲物の頭蓋を被る習性があるらしいが、果たしてこの迷宮ではどうなっているのか不明だ。

 どれくらいの頻度で探索者が死んでいるのか分からない以上、こうも都合良く毎回コボルトが頭蓋を被っているのはおかしいため、発生した瞬間から持っている可能性も無くはない。迷宮に関しては不明な部分も多く、魔物を発生させている原因も分からないままだ。何があっても不思議ではない。


 ともかくそんな頭蓋の被り物だが、それは頭部を守る役目もある程度果たしている。生物の頭蓋というのはかなり硬いので理にかなっている。

 もっとも、それごと掴んで粉砕してしまう俺の膂力は、コボルト達にとっては不幸でしかないだろうが。


 頭蓋の兜を越えてコボルトの頭部に指がめり込む。感触からして本気を出さずとも容易に破壊できそうだが、俺も理由がない以上残酷な殺し方をするつもりは無い。

 あくまで掴むだけに留め、手足をばたつかせるコボルトのその首へ剣を滑り込ませた。


 魔物も生物。首と胴体を離されれば死んでしまう。


 体が地面に落ち、ついで俺は掴んでいた頭を落とすと、その場で即座にしゃがみこんだ。


 頭上を別のコボルトが通っていく。背後から一撃狙っていたようだが、気配がダダ漏れだったため回避は容易だ。

 しゃがんですぐにその勢いをバネにして下からコボルトを剣で刺し貫く。


 まだ俺の上にコボルトが居たことから、俺の回避から攻撃までの動きが如何に早いかが分かるだろう。起き上がる勢いと共に剣を払えば、刺さったコボルトは無抵抗に迷宮の壁に叩きつけられる。


 ……この仕打ちが『残酷な殺し方』じゃないのかどうかに関してはともかくとして、身体の方はかなり快調だ。体は確かに固かったが、それも戦闘に入れば自然と解れてしまった。

 

 「……さすが」

 「ありがとう。ただその、毎回言っているような気がするが……ついてきてもらって悪いな」


 ルリが褒めてくれる。が、戦闘が終わったのを見計らって声をかけてくるルリに、少し申し訳なさが。

 今までだってそうなのだが、前回のことを思うと当たり前の事として考えることは出来ない。


 そういう安全面ももちろん、それ以外にもルリはついてきてもらってはいるが基本戦闘には参加しない。フェアズミュアは例外だが、俺達が進む階層の全ての敵は、ルリにとって一蹴できる相手だ。そのため、ルリが戦闘をすると俺の出る幕がない。

 しかし俺が強くなるために来ているので、俺は戦わなきゃいけない。そうなると必然的にルリには外から見ててもらうことが多くなるのだ。


 誰であっても、何もしないのは退屈だろう。


 「……私、は、トウヤと……居たいだけ、だから。気にして、ないよ」

 

 ルリはそうは思わないのか、否定する。それもいつものことと言えばいつものことだ。ルリにとって俺と一緒であることが何よりも大事で、それ以外は特に気にしていないと。

 分かっている。単に気遣いで言っている訳ではなく、ルリは純粋に、本当にそう思っている。


 良くいえば苦労が無いとも取れるが……何にせよ、今のままというわけにもいかない。ルリとの関係が進展したのもあり、目標としていた戦力面の強化も早いところ納得できる水準まで達しなければ。


 そう思い、ルリの頭に手を置いて撫でる。ありがとうな、と笑えばルリはハグしてきた。

 いきなりでも、驚きはしない。ただその可愛らしいハグに、俺も思わずルリの背中へ腕を回そうとしてしまう。


 ただその間も、迷宮なので俺は多少意識を周りに向けていた。急に魔物が来たら対応しなければいけないし、いくら俺とルリがこの階層に不釣り合いな力を持っているとはいえ不意打ちを喰らえば危険だ。

 それ故に今も気配の探知は止めていなかったのだが……ルリに触れる直前、俺はその場で動きを止める。


 「…………トウヤ?」


 抱き締め返してもらえると思っていたルリが、控えめに疑問の声を上げてくる。俺はすぐにルリのことを抱きしめ返し……その実意識を背後に向けていた。


 何か、違和感を覚える。ルリは全く気付いていないようなのが不思議だ。俺よりも気配察知に長けているはずで、そんなルリが気づいていない事がどこか不気味に感じる。

 俺も明確な気配を感じているわけじゃない。もっと言えば、そもそも気配がない。ただ、直感的に背後から『見られている』感覚を覚えたのだ。


 「ルリ。なにか感じるか?」

 「……なに、も……なんで?」


 一応聞くが、やはりか。となると、相手は相当な気配遮断能力を持っていることになる。スキルの補正か、魔法か、技術か。決して下手ではない俺とルリの探りから隠れおおせている以上、相手は意図的に隠れていて、しかもかなりの手練である可能性が高い。


 俺の気の所為で済めばいいが、生憎自分の勘を信頼してしまっているためそうもいかない。これは明確に存在しているだろう。


 「誰かに見られてる。ルリが感じないってことは、見られてるのは俺だけなのかもな……」

 「……ホント?」

 「あぁ、間違いなく見られてる」

 

 口元で指を立てつつ、推測してみる。今日まで誰かに尾行されるようなことは無かったし、尾行される覚えもない。

 良くも悪くも俺はこの街で、迷宮以外のことに関わることがなかった。特に貴族などという存在は意図して避けていたし、こうも尾行される意図が掴めない。


 そうなると、この尾行は俺個人またはこの場では俺を目的としていながらも、俺の行動が影響したものでは無い、俺とは関係の無い相手が行っている可能性が出てくる。

 そして、友好的でもない。視線から感じられるそれはどこか無機質で、それでいて執着を感じるような執拗なもの。不気味だ。


 考えられる要因はその場合かなり絞られる。その中でも高い可能性を持つのが……勇者関連か。

 相手は国に由来する存在か、それとも───関連だろうか。


 ……いや、そこまで決めつけるのは早計か。とにかくどんな目的であるにせよ、見られたまま放置しておくわけにはいかない。


 「ルリ、俺に付いてきてくれ。どうにか撒いてみる」

 「……捕まえなくて、いいの?」

 「これだけ隠れるのが上手いんだ。戦力的に強い相手の可能性もあるからな」


 今のところただ見られているだけとはいえ、気分のいいものでは無い。本当ならルリの言うように捕まえるのが楽だろうが、現在の居場所が曖昧な上、今もなお気配自体は全く感じないことから、相応の実力者だ。

 何かに秀でているからといって、それだけが秀でていると考えてしまうのは浅はかだ。特にこの世界のステータスというシステムは、個々の成長の差が顕著となる。二つ三つ秀でている部分があっても何らおかしくはない。


 ルリはかなり強いため、そうそう他の人間が勝てるとは思えないが……それでも万が一はある。突っ込んだところを迎撃でもされれば危険なため、相手の居場所が分からない以上無闇に攻撃を仕掛けるのは無謀だろう。

 かといって放置しておけば何かよからぬ情報を渡してしまう可能性もある。ならばこそ、撒いてしまった方が早い。

 

 「よし───走るか」

 「ん」


 俺は一声かけて、最初からフルスロットルで走り出す。尾行している存在がどの程度の速度で走れるか分からないため、ここは手加減しない。

 もちろんルリを置いて行ってしまうかも、なんていうのは要らぬ心配だろう。むしろ俺がルリに置いていかれないようにしなければならない。


 「───はっ」


 思わず口元に笑みが浮かんだ。尾行者の視線から一瞬動揺を感じたのだ。それと同時に僅かに感じる揺らぎ。


 ルリは分からないが、俺は尾行者の存在に気づいたと悟らせないようにしていたため、そこからいきなりの全力疾走には驚いたということだろう。

 そのまま引き離すように、俺達は迷宮を駆けた。風を切って、思う存分に走り抜ける。


 ルリは問題なくついてきている。ただ、俺の予想では余裕でついてきそうなイメージだったが、意外にもルリは真剣に走っている。少なくともまだまだ余裕、という訳では無さそうだ。

 無論俺も全力なのでルリより余裕は無いが、体力的な意味では全く問題がない……それにしても、もしかして俺とルリの身体能力の差は思っているより縮まってきているのだろうか。


 パラメータが絶対ではないし、ルリの体は明らかに鍛えているものとは正反対のため、そこの差かもしれない。

 途中まで背後からの視線は継続していたが、向こうが追うのを止めたのか、単についてこれなかったのか、第三層を越え第二層に着く頃には、視線は感じ無くなっていた。



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 本当に申し訳ない……次回はいつも通りでございます。

 ごめんなさいm(_ _)m

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