第5話
普通の恋愛なんてした事がないので、この後どうするべきか、俺には分からなかった。
両想いであることは確認した。お互いの気持ちを、間違いようのないほどにしっかりと確認した。
キスをして、好きと言い合って……それで?
これが普通なら、大抵は出先でのことだと思うので、例えばどちらかが帰るとかあるのだろう。しかし現実はここが宿泊場所だ。ルリは違う部屋だが、わざわざ誰もいない部屋に戻るのもおかしな話。
となるとずっと一緒にいる訳だが、お互いに好意を伝え合って、今まで通りに接することが出来るはずもない。
なにより、今までルリからの一方通行な面があったが、今はそうではなくなった。
ようするに……本気で
「……トウヤ」
そして実際、ルリは既に期待している。潤んだ目をこちらに向けて、物欲しそうな顔をしている。
誘うような表情に見えるのは、ルリ自身実際に意図しているところがあるからで、俺の考えすぎではない。
ここにはベッドがある。部屋には他に誰もいない。
いや、いやいや、拓磨達が帰ってくるかもしれないぞ。帰ってきたらすぐに俺の様子を見に来るのは目に見えているので、その場合ちょっと危なくないか?
ちょっと所ではなく、かなり危険だ。
そうは分かっていても抗いようが無い衝動に、俺は困り果ててしまっていた。こう言うと直接的な言い方だが……理性で止まろうとしても体は正直、という状態。
「ん」
その結果、痺れを切らしたルリは俺の手を引いた。手を引いて、ベッドに誘導した。
「……私は、シたい、けど…………トウヤ、は?」
「俺もしたい。あ、いや…………まぁ、したいんだが……今か?」
思わずルリの言葉に同意しまった俺を、ルリは目を細めて笑って見ていた。
───あぁそうとも、したいさ。したいよ。こっちは結構な間溜め込んできているのだから、むしろしたくないはずが無い。出すもの出したいよ。
ただその……先程も言ったように現実的な問題があるわけで。
この後
ルリが俺の体を触っているか、もしくは俺がルリの体を触っているか……それだけでも既にアウトだろう。例え局部じゃなかったとしても、異性の体を触っているだけでかなり厳しい。
それがベッドの上であれば尚更。ルリが相手であればなお悪い。
「……ダメ?」
「いや、俺もしたいけど、今は拓磨達が帰ってくるかもしんないからな……落ち着かないし、無理だ」
実際にすぐには帰ってこなかったとしても、拓磨達が帰ってきたらすぐに反応できるよう意識は外に向けていなければならない。当然そんな状況でのめり込むのは難しいだろう。
それにここは拓磨達も使う部屋。下手なことをすれば
部屋を変えるのは一つの手だが、それでも拓磨達の帰宅は意識しなければならない。
何より、こっちは
「…………したい、のに」
ルリとしては、ようやく出来そうなタイミング。お預けにしたくない思いが強く出ており、俺としてもようやく出来ると期待してくれていたルリに対しダメと言うのは辛い。
辛いが、かといって行為に浸ることが出来ないのは困る。
「
「……今日、の、夜、とか?」
「それは……どう、だろうな」
言われてみれば、できそうな時間と言えばそういう時だ。今日からは恐らく俺とルリで一緒の部屋に戻るだろうし。
しかし、なんというかキスはしたものの、その先の行為となると実感が湧かない。今こうして話している間も少し現実感がないのだ。
しかも夜なんて、あと数時間でなってしまう時間だ。
「…………して、くれる? そしたら、我慢する……」
ルリは確かな約束が欲しい様子。夜にルリの求めに応えるなら、今はいいと。
今がダメなら後で。しかし明確に決めなければ流されてしまう可能性もあるわけで、故にルリは具体的な時間を指定してきた。
当然だが、″そういう事″となれば簡単には決められない内容。しかし俺もそこまで考えてルリの好意に応えたのだし、そういう意味ではルリの言うように夜にしてもいい。
ただいきなりのことに面食らっていただけなのだ。だから答えは決まっている。
「そういうことなら、じゃあ……夜、シようか」
いつもと違い、今日の夜のことは既に
「ん…………期待、してる、から……」
俺への好意と情欲の宿る視線を受け止める。少なくとも俺の方から後で拒否することはなく、ルリがやっぱりやめると言うのも考えづらい……少し考えて、今夜本当にしてしまうのかと非現実感に捕われる。
キスとは全く別物のそれに、実感が湧かない。
そんなことを考えていると、突然俺はルリに体を押され、ベッドに座らされてしまう。
抵抗というのは難しい。俺も身体能力はかなり高くなり、体幹は元から鍛えられているが、ルリの力は普通に俺のバランスを崩すほどのものだ。とはいえ、ルリ相手だからこそ特に抵抗も無いのだが。
「っと、危ないな。いきなりなんだ?」
「…………そういうの、は、夜、だけど……」
ベッドに座った俺に対し、ルリはちょうど良くなった高さで視線を合わせる。ちょっと恥ずかしそうに、でも積極的に俺と距離を詰める。
「……キス、なら、良い……?」
俺の肩に手を置いて、覗き込むようにしながら尋ねてきた───どうもこの子は、何かしらしなきゃ気が済まないらしい。
確かにこの雰囲気の中、何もせず拓磨達が来るまで待てるかと聞かれたら微妙だ。感情をパッと切り替えられる程俺は大人じゃない。
とはいえ、もうちょっと我慢してもいいとは思うが。
「さっきしたばっかりだろ」
「……ん」
「それなのに、またしたいのか?」
「…………ん」
こちらを見ながらコクリと頷くルリ。余程お気に召した様子だが……俺はいいのだろうかと自分に問いかける。
″そういうこと″は、先程も言ったようにダメなのだが、キスならまぁ……すぐに切り上げられるし、におい等も無い。バレる心配はないだろう。
それに、キスは先程もしていたので心理的抵抗が少ない。一回やったのだから、二回目も三回目も数が重なるだけで大して変わらないように思える。
「……しょうがないな、ルリは」
「……ごめん、ね。でも……したいん、だもん……」
「分かってる。言うほど気にしてないし、むしろルリのそういうところが……好きだよ」
自分に素直なところ。純真なところ。そこに隠すことの無い俺への好意ときた。
ルリの好きなところはそういうところだ。ただ純粋に、無垢に求めてくる。そんなところが可愛くて……好き、なんだろう。
それが本心だ。
俺の言葉に、ルリは顔を真っ赤にした。赤く、では無く真っ赤だ。その白い肌にこれでもかと赤みが差す。
でも積極的なので、ベッドに座る俺の膝の上に、大胆にも跨ってくる。
「……私、も……好きぃ……とうや……」
先程の言葉はルリの持つ衝動を後押ししてしまったようだ。首に腕が回されて、唇を塞がれる。
いつもより密着してるように感じるのは、正面から抱きついているだけでなくルリが俺の膝の上に跨っているからだろう。上半身だけでなく下半身もくっついていて、ルリの背中に腕を回せば、ルリが体勢を直すようにもぞもぞと動いて服が擦れる。
この状況で拓磨達が帰ってきたとしても、思ったよりは切り上げるのが大変そうだ───そう思いながらも、俺はルリからのキスを拒むことも出来ず、時間が経つのを待った。
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本当はここで致そうとしてたのは内緒(ノクターン解放記念に書こうとしてた)
次回ですが、25日に私が待ち望んでいた小説の新刊が出て、それを読むためにそのシリーズを読み直さなきゃいけないというのもあり、まともに執筆できる時間が取れるのか不明なので、明明後日辺りより後になってしまうかもしれません。
一応投稿が遅れそうなら25日辺りにTwitterなどで告知しますので、気になる方はそちらでご確認をお願い致します。
それと、次次次回ぐらいから一瞬だけ戦闘復帰します。
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