第3話


 この所は文字通り執筆に全力で望んでおります。

 はい。時折PSO2NGSをやりながら……いや本当に全力ではあるんですよ。そのためかなり進捗は良好です。




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 歩いてみると体が随分固くなっているのがよく分かる。その感覚から少なくとも数日間は寝込んでいたらしいことを悟り、これは少しのリハビリが必要だなと。

 とはいえ普通に動く分にはなんの支障もないし、治してもらった腕の方も、肩から先を回したり指先を動かしたりするが問題なさそうだ。握力や腕力に関しても、病み上がりのため多少力が入りにくくなっているが、それが戻れば元通りだろう。


 正直自分でも生存が怪しかったので目が覚めるのかすら不安だったが、五体満足で、後遺症も無く復帰出来て何よりだ。


 「あとは……」


 ルリ達の部屋の前までやってくる。中に他の誰かがいれば引き返そうかとも思ったが、恐らく俺のアイテムバッグはルリが持っているはずなので着替えるならそれが必要だ。

 とはいえ、今回部屋には一人しかいない。その一人というのはルリのことだ。

 この距離ならば知り合いの気配は判別できるし、ルリなんて四六時中一緒に居るので把握は容易い。


 とはいえ、先程のこともあり、若干の気まずさを覚えながらも扉を開ける。いきなり入ったらビックリするだろうかとも考えていると、扉を開けるのに合わせて、ルリが飛び込んできた。


 「っと……ルリ、いきなりだな」

 「…………」


 遠慮のない飛び込み。いつものように抱きつくルリへ、困ったように笑いながら問いかける。

 無論、その意味がわからないわけが無い。まだ扉を開けただけなので廊下にいるが、構わず抱きつくルリの頭を撫でる。


 どうも気配で把握されていたようだ。サプライズをしようと思っていた訳では無いが、出鼻をくじかれてしまったことに苦笑い。


 「……トウヤ」

 「あぁ」

 「トウヤ、トウヤ……とうやぁ……」

 「はいはい、刀哉ですよ。だから安心しろ」

 

 少し嗚咽が混じっているのを聞くに、かなりの心配をかけたらしい。

 それもそうか。俺はかなりの怪我を負っていたし、寝ていたのも一日二日ではなかった。たった半日離れるだけでも寂しがったルリを、意識不明の状態で待たせたのだから。

 こうも心配して貰えるとやはり嬉しいものがある。それがルリとなれば、どこか心が満たされるような感覚を覚えるほどには。


 「……心配、した。凄く……心配した」

 「ん、悪い。ちょっと気合いが足りてなかったな。起きるまでに時間かかった」

 「…………いい。起きて、くれた、から……それに……」


 ルリが俺から一歩下がる。上目遣いで、僅かに潤んだ瞳をこちらへ向けた。


 「……助けて、くれて……ありがとう……トウヤ」

 

 少しだけ頬を弛め、ルリは笑う。感謝を伝え、安堵したような笑みを浮かべたルリへこちらも笑顔を返した。

 助けてくれてありがとう、か。そう言われても、俺からしたらむしろ逆だ。


 「俺の方こそ……生きててくれてありがとうな、ルリ」

 「……ん。これも、トウヤの、おかげ……だから……」

 

 俺のおかげと言われれば、嬉しく思う。しかし本当は俺の方にこそ責任があるわけで、複雑な気持ちであるのも確かだ。

 迷宮に挑んでいるのは俺の都合だ。ルリは合わせてくれているだけで、ルリ自身が迷宮に潜る必要は全くない。単純に俺に着いてきてくれているわけだ。


 もちろん俺も、ルリが自分で着いてきていることなので全部が全部自分のせいとまで考えているわけじゃない。しかしそれでも……俺の都合であることには変わり無く、その結果としてルリが危険な目に遭ったのも事実だ。


 だが……今それを指摘するのは、ルリの感謝の気持ちを拒否しているようにもなってしまう。ルリ自身はそこに関して全く気にしておらず、本当に俺に助けて貰ったことに感謝しているようだ。

 それならば、これは伝えるのではなく、自身への戒めとして飲み込んでおく方が良いのだろう。




 俺はルリからアイテムバッグを借り、流石に女性陣の部屋に入るのは気が進まないので、男連中の部屋に戻ってから着替え始める。ルリも当然のように居るが、今更だ。

 特に隠すほどのものでもないし、ルリが着替えを熱心に見つめていようとそこまで気にしない……いややっぱ少しは気にするけども。


 「……トウヤ、は」

 「うん?」

 「……いつ、起きた、の?」

 「いつからだと思う?」


 ふと検査着をしまっていると、ルリが聞いてくる。俺がいつから起きていたのか、聞くルリの頬は若干赤い。


 「……私、が、部屋に、入った……時は?」

 「起きてた、と言ったらどうする」

 「…………恥ずかしく、なる」

 

 予想外に素直な返答をしたルリは、言葉通り明らかに恥ずかしがっている様子をみせている。

 もちろん俺も、ルリが何を気にしているのかは理解しているし、俺の言葉からルリがどう思ったのかも把握している。


 部屋に入った時点で起きていたのなら、当然その後も起きているのが普通だ。

 となると、ルリが俺にしてきたのもしっかり記憶にあるわけで……。


 「……ぅぅ……忘れ、て」

 「いや、忘れるには強烈な出来事だったから難しいなそれは」


 俺にとっては、いきなりキスされたも同然の衝撃的なことだったので忘れることなどできるはずもないし、そもそも些細なことですら忘れられない。あの時感じた唇の感触も、触れただけで広がった甘い感じも全部明瞭に、実際にルリにされていると錯覚できるほど思い出せてしまう。

 ……いかん、変な気分になってしまいそうだ。


 キスの理由は、聞かなくてもいいだろうか。キスする理由なんてそう多くはないし、キスで解ける呪いにかかっているとかそういう訳でもないので把握はできる。

 ただ、俺が起きる前にしてしまうということは、だ。


 「……そんなにキスしたかったのか?」

 「…………」


 コクリ。小さく頷くのを見て、胸が苦しくなる。無論辛さとかそういうものではなく……いや、辛いのは確かなのだが、これはルリの反応が可愛すぎたための辛さだ。

 寝てる間にしてくるぐらい、キスがしたかった。そう可憐な少女に思われているなんて知ったら、可愛さで悶えるのは必然のことだ。


 しかもそれが、好意から来ているものだと分かれば尚更……。


 「……もしかし、て……嫌、だった……?」

 

 俺の沈黙に不安を抱いたのか、ルリが恐る恐る確認してくる。しかしながら先程も言ったように、俺はルリからのキスに肯定的だし、現にこうして可愛さにやられている。


 「嫌なわけないし、ルリも大丈夫だと思ったからしたんだろ。それとも、怒られるかもしれないと思って、寝てる間にバレないようにこっそりしようとしたのか?」

 「ち、違うっ……けど……」

 「けど?」

 「……不安、だった、から……」

 

 ルリが少し目を伏せた。それに対し、信用されてないと思うことは無い。


 今更ながら、今まで俺はルリに対して恋愛的な感情を見せることは一切なかった。大切に思うことはあっても恋はしていないし、異性として意識することはあってもそれは性欲的な話。

 実際俺はルリのことを恋愛という意味で『好き』な訳じゃない。結婚したいと思っているわけでも、愛を囁きたい訳でもないのだ。

 そう見せてきたからこそ、ルリにとっては不安な部分があったのだろう。ルリは俺に対し明らかな好意を見せているので俺が不安に思うことは無いが、対して俺の方は、ルリを不安にさせてしまっていた。


 今までは、そうだった。


 それを晴らすために、そっとその頭に手を乗せて撫でる。


 「……さっきも言ったが嫌なわけないし、むしろ嬉しい。キスなんて好きな人にしかしないだろうからな。して貰えて嬉しいよ」

 「……ほんと?」

 「本当だ。それに……ルリのだったんだろ?」


 ルリの不安を解すように語りながら、そして少し踏み込んだことを聞く。

 『初めて』───その言葉にルリはきゅっと縮こまるが、けれど俺に答えようと健気に反応してくれる。


 「…………ん。私、の……ファースト、キス……だった……」

 

 口元に手をやったルリは、小声で呟く。しっかりと聞こえてはいたが、恥ずかしいからか消え入るような声で、でもどこかその事実を認識して嬉しそうにも感じる。



 ───それを見て、改めて俺はキスについて考えてみる。


 というのも、今までも俺とルリは、なんというかちょっとアレな関係を築いてきた。アレというのもおかしいか。歪な関係とでも言おうか。

 俺もルリも、明確に互いを異性として意識しており、しかもそれをお互いに把握しているような関係。ルリがそういう気分になっても不思議ではないし、俺が反応しても当たり前に受け入れてしまうような歪な関係。

 そこには身体的な接触もあった。ルリの胸が当たるなんて日常茶飯事レベルだし、当たるだけでなく触ってしまうこともある。なんならルリが俺のを触ってくることもあり、それも俺のは明らかに平常時ではない状態という……いやともかく。

 

 そういった性的な接触に対して、『キス』はまた別物な気がする。これもあくまで個人としての捉え方でしかないのだが、キスには『愛情』という面が多分に含まれているし、また先程ルリが口にしたように『ファーストキス』という言葉もある。

 二回目以降の価値が下がるとかそういう言い方をする訳じゃないが、初めてのキスというのは特別な意味を持つ。それは家族にするものではなく……やっぱり異性への、へのもので。



 それをして貰った俺は、それを拒絶しなかった俺は、ある意味でルリに答えてしまったも同然なのではないか。



 ……そうだよな。この子のファーストキスを貰ってしまったのは非常に大きなことだ。正直、そこには責任も発生していると思う。

 今更、は出来ないと理解している。キスをしてしまったら、そこからは関係が変わってくる。

 本当に俺が寝ていたのならまだ別だが、俺は起きていながらルリのキスを受けた。キスっていうのは単に淫らな行為というわけでもなく、そこにはちゃんとが存在している。存在していなくちゃいけない。


 少なくとも俺はそう理解している。


 ……だから、そろそろきっと、関係を進めてもいいんだろう。


 「……トウヤ。その……」


 ふと、何かに気がついたように俺へ口を開こうとするルリ。だが名前を呼んだだけのそれは途切れ、きゅっと口は結ばれてしまう。

 その先の言葉が聞きたいのに、ルリは俺から視線を逸らす。小さな体がいつも以上に硬直し、爆速で心臓を鳴らしているのが簡単に把握できる。


 俺はそれを待った。遮ることも無く、先回りすることも無くルリの言葉を待つ。


 「…………き……キスっ……嫌じゃない、って、ことは……」

 「あぁ」

 

 今まで敢えて俺は、ルリに明確な好意を口にすることは無かった。正確に言えば、恋愛的な意味の好意だ。

 口にすることは無かった、と言うよりはそもそも恋愛対象としてルリを見ていない。ルリが俺の好みに合わないなんてことは無いし、ルリなら不満もないが……それでも恋愛対象としては見ていなかった。


 いや、厳密には

 しかし今は、その事実も過去のものとなる。


 「…………良いって、こと?」

 「どう思う?」


 頑張って振り絞った問いに、俺は意地悪に答えてしまう。

 ルリがどうするのか気になったのもあるし、何よりルリは抽象的に聞いている。敢えてルリの意図を確かめるような返答をしたのだ。

 

 ルリは僅かな間逡巡する。その結果返ってきたのは、言葉ではなく行動。

 一歩二歩と俺に近づき、見上げる。この程度の距離は普段ハグをされているので特別近いという訳じゃないが、ルリは更に一歩詰めてくる。

 もちろん密着する程度には既に近いので、一歩というのは物理的に前に足を出したわけじゃない。ルリはその場で背伸びをすると、んっと顔を俺に近づけてきたのだ。


 ……ただ悲しいかな、ルリと俺の身長差では、ルリがうんと背伸びをしても届かない。


 「……」

 

 しようと思ったことが出来なくて若干潤み始めるルリの瞳。少しだけ呆れたように笑った俺は顔の位置を下げて、ルリの手助けをすることにした。


 そうすれば、十分に届く距離になる。


 「……いい、の?」


 それはもはやあからさますぎる行動だ。ルリもそれを悟って俺の事を見てくるが、俺は何も言わない。ただ続きをするならしろとルリへ促すだけだ。

 ルリもそれで意を決したのだろう。改めてもう一度背伸びをする。今度はちゃんと届くと目測でも判断出来たはずだ。


 そのまま、ルリがやりやすいように俺の首に腕を回した。一瞬俺が抵抗しないか確認したが、そんなことは無いのでスムーズに事は進む。

 ルリがした、確認の行為───それはなんてことはない、先程もやったキスであり。俺はそれを理解していながら、止めることはなく。


 「……!?」


 むしろそっと唇を押し付けてきたルリの肩を掴んで、そのまま捕まえてしまっていた。





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 次回は明明後日辺り。この執筆速度を維持できるなら投稿頻度を早めたいのですが、これは一時的な好調なだけですからね……そうもいきません( ̄▽ ̄;)

 あと、次回は皆さんお待ちかねってやつです()

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