第49話


 五日ぶりですごめんなさい、執筆の手が滞っていました……m(_ _)m



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 毎日、下層へと降りる際に当然第二層も通るのだが、オークとも結構な確率で遭遇する。

 今となってはレベルの上昇や相手への慣れがあるため一瞬で討伐できるが、初見時には随分と苦戦させられたのも事実。


 正確に言うと、一対一ならば問題はなかったがそれが数的不利になった瞬間かなり辛いのだ。

 レベルが低いことを加味すれば、樹達では多対一であっても最初は苦戦するだろう。


 「にぁっ!!」

 「ふんっ、ちょ、ちょろいな!?」


 近添と竜太が肉薄してオークの攻撃を掻い潜りながら近接戦に勤しんでいる。だが一瞬の強がりの言葉からもわかる通り完全な優勢かと言われるとそうでもない。


 改めてオークの体格を見ると、やはり巨大だ。二メートル後半はある。何より体が横にもデカいので、竜太と近添の二人が並んでも横幅はオークの方が大きいほどだ。


 そしてオークも力強く自らの武器である巨大な鉈を振り回して、二人の攻撃を捌いている。近添は槍なので少し間合いが広いが、オークは当然腕も長く、合わせて武器も巨大だ。あまり有利なものとは言えない。

 一対一では危ういところだが、前衛には竜太も居るためどうにか攻撃が分散している。その竜太は武器こそ持っていないが、拳の勢いは訓練を積んだのかかなり強く鋭い。


 貫手に近い勢いだ。オークを相手にもその肉の鎧に吸収されることくしっかりと拳が突き刺さっている。抜いた場所から多少なりとも血が出ているのを見るに、しっかり貫通しているのだろう。

 人間やゴブリン相手には下手したら武器よりも有効的な攻撃かもしれない。


 ただしそれだけでは近添も竜太も火力が足りていない。それはそのはずで、本来なら迷宮に挑む適性レベルに達していないのだ。


 攻撃は必然回避を重要視して浅くなってしまうし、オークにダメージを与えるにはもっと深く攻撃しなければならない。だがそのためにはまだオークの動きに慣れきってはいない。


 ならばジリ貧なのか───それもまたそういう訳ではない。


 「───叶恵、首元を凍らせろ!」

 「うん! 『凍結フリーズ』!」


 竜太達を囮にを終えた樹が迷うことなく叶恵に指示を出し、ラグなく魔法が発動される。

 体全体を凍らせるならともかく、体の、それもたった一部位を凍らせるぐらいはそう難しくもない。


 だが首を凍らせただけでは動きが止まるはずもなく、そんなの樹だって百も承知だろう。オークは驚愕した様子だったが、直ぐに立て直し攻撃を再会しようとする。


 その時肝心の樹は、魔法を発した叶恵の近くではなく、オークのに居た。


 「っら!!」


 樹は槍を扱うが、純前衛ではなく遊撃であると自身で言っていた。

 その宣言通り樹はこの一本道の通路の中上手く気配を消して背後に回ったようだ。普通なら気がつくが、そのための竜太達の囮とも言える。


 首を凍らせたのは背後の確認から意識を逸らすため。それと同時に体の回転を抑える狙いもあったのか。オークは首元まで厚い肉で覆われている分、首周りの動きと他の場所の動きがより連動しやすい。

 故に一部の動きを止められると、途端に動きが鈍くなる。単に後ろを振り返るのが難しくなるだけでなく、様々な部位の肉が凍結により引き攣って攻撃の手もぎこちなくなってしまう。


 樹の槍がオークを背後から突き刺し、同時に近添もまた、奇しくも同じ場所を正面から突いた。


 それとも、樹はそれを理解していてその場所を突いたのだろうか。両側から突かれたことで傷口はかなり広くなる。


 だがまだ致命傷ではない。二人に合わせて攻撃しようとした竜太だが、オークは前後から刺されている状態でも、その痛みの元凶ではなくあくまで隙を見せている竜太へ冷静に鉈を振るった。


 「ぐぁっ!?」

 「竜太!? っ、一度下がれ!」


 咄嗟の回避をしなければかなりの深手を負っていたに違いない。それでも決して軽傷では済まないような傷を脇腹辺りに作り上げていて、攻撃で床へと倒れ込んだ竜太を見て咄嗟に動き出しそうになる気持ちを抑える。


 本当に危なくなったらそりゃ手を出すが、今はまだ。普通なら病院行きの重傷なのは確かだが、この世界では日常茶飯事の傷で、しかもこちらには叶恵が居る。


 樹が竜太に指示を出すと同時に槍を引き抜き、右手を向けた。


 「『風槌エア・ハンマー』ァッ!」


 詠唱破棄による風魔法の発動。今まさに追撃を仕掛けようとしていたオークの後頭部を殴るように見えない力が衝撃を走らせた。

 一瞬ぐらりとオークの巨体が揺れ、その隙に竜太は急いで立ち上がり、言われるまでもなく叶恵の傍に寄っていた。


 叶恵も自分の役割を理解していて、竜太が手の届く範囲に来た途端魔法を発動した。


 「お願い、治って───『ヒール』」


 詠唱と共に叶恵が竜太の傷へ手を翳すと、一瞬輪郭がブレたかと思った次の時には既に傷は治っていた。


 ───流石に叶恵は、上手い。というよりもここまで高い練度で回復魔法を使えるのはクラスメイトの中でも叶恵しか存在していない。

 今回も、叶恵は別に魔法攻撃要員ではない。確かに魔法に関してはトップクラスの実力で、使える属性も多いが、本人の性格からか実際のところ攻性の魔法はあまり使えないのが現状だ。

 

 だからこそ、逆に癒しの力である回復魔法に関しては天才的な才能を持っている。


 そこに関しては、俺よりも上かもしれない……そう言えばかなり凄いのが伝わるだろうか。


 「すまん神崎!」

 「ううん、でも無茶はしないで!」


 そして傷を治してすぐに復帰できる竜太も何気凄い。回復魔法では痛みが消えないというのは身をもって体験しているが、だからこそ先の傷はかなり痛かったはずで、実際今も激痛が響いているはず。


 しかし竜太はまるで既に痛みなどないと言わんばかりに再びオークの元へ魔人も恐れること無く駆け出した。


 相変わらず、うちのクラスには高校生に似つかわしくない精神力の奴が居る……叶恵が解けかけたオークの首の凍結を再度魔法で凍らせ直し、今度は目に見えてパーティー全体の動きが良くなった。

 オークの動きに皆慣れてきたのだ。対してオークは動きを鈍らせる。


 「近添───膝! 今!」

 「ぁい!!」


 樹の簡潔過ぎる指示を聞き変な返事をした近添は、すぐに言われた通りオークの膝へと槍を突刺す。

 そして樹も、背後からではあるが近添とは反対側の膝を突き刺し、オークの動きを物理的に縫い止めた。


 関節を攻撃されたことで膝をつきそうになるオークへと、竜太は肉薄する。


 「うぉらぁっしゃぁっ!!」


 中々に気合いの籠った声は、ダメージを受けたにしては強すぎる。むしろ攻撃をもらった鬱憤を気合いにしているのだろうか。

 上体を下げたオークへ何度も拳をぶつける。普通の人間の拳ではオークの肉を前に衝撃を吸収されてしまうだろうが、竜太の連撃はどれもこれもしっかりと突き刺さり確実にダメージを与えていった。


 「ぬぁどっせい!!」


 トドメということなのか、上体の前面を見るも無惨なものにされたオークの顎を下から打ち上げる。


 しかしそれでもオークは倒れない。流石にタフだ。顎を打ち上げられ上を向いた状態になっても、乱雑に鉈を振るおうとした。

 それを樹が、膝から抜いた槍をくるりと回転させながら腕を斬り付けることで妨害する。行動の阻止には至っていないがそれでも誰かに当たるような軌道からは逸れ、大きな隙ができる。

 

 「よし、畳かけろ!」


 樹の合図で近添も槍を何度も突き、叶恵がダメ押しとばかりに『風斬ウィンド・ブレード』をその体へ叩き込む。


 然しものオークも攻撃に意識を向けることは難しくなったのか腕で防御を図ろうとするが、上手くいかない。それもそのはずで、樹は執拗に腕ばかりを狙っているせいで動かせないのだ。

 致命傷狙いではなくあくまで妨害に徹しているのだろう。樹がしなくとも、この勢いなら竜太達がアタッカー役はやってくれる。


 実際総攻撃を前に、オークはすぐに息絶え前のめりに倒れ込むこととなった。


 「───はい、お疲れさん」

 「あい、警戒どうも」


 ずっと戦況を見守っていた俺は、それを確認すると同時に樹へ声をかけた。樹は若干肩で息をしながらも、すぐに立て直して片手を上げてきた。

 俺も片手を上げて、パンとその手を叩く。


 「どうだ、初めてのオークは。ゴブリンとは比べ物にならないだろ」

 「いや、マジで強すぎな……うへぇ、俺ァ手がもう大変で大変でよ」

 「竜太君、これ良かったら」


 そう言いながら竜太はお世辞にも綺麗とは言えない手を見せてくる。怪我などはしていないようだが、オークの血はべっとりと付いており中にはちょっと肉片も混じっている。

 あまり気持ちの良いものでは無いそれに、叶恵がそっとハンカチのようなものを渡す───流石は女子。サッと出せるのがすごい。


 ただし竜太は首を振って拒否。


 「いや、嬉しいけど神崎のは汚せねぇな。亜由美、なんか貸してくれ」

 「ウチならいいんか!?」

 

 どうやら竜太なりに気遣ったらしい。代わりに近添に聞くのはどうかと思う気がしないでもないが。

 互いに勝手知ったる仲なのは把握できるが、見てもいられないので俺は竜太の前にそっと水球を作り出してやる。


 「お? あ、これ夜栄のか。悪ぃな」

 「感謝は別にいいから、自分で手ぐらい洗えるように準備しとけ。あと、その服」

 

 自分でハンカチ持ってくるとかできるだろと一応注意だけしつつ、大きく破けた服に目をやる。

 脇腹に刃を入れられたのだ。上半身は半分弱ほど服が破けてボロボロである。


 「あーこれか、俺ァ気になんねーけど、やっぱ見栄え悪ぃかな」

 「そういう問題じゃないが、直しといた方がいいだろうし。ほら来い」


 叶恵や近添もそんな気にしないと思うが、手招きして竜太を近づけ、以前自身にかけられた魔法を

 あのヴァルンバの勇者の一人、確か紫希しのさんと言ったか……あの子が使った時空魔法の構成を脳裏に浮かべながら、竜太の服に手を翳してその魔法を真似してみる。


 魔法名は分からないが、元々魔法名はイメージの補完に必要なものだ。無詠唱で発動できるなら別にいらない。

 この魔法の効果は服の修繕、正確に言えば物体の時間を巻き戻すことなので、俺が普段使うような『空間』に関する時空魔法とはまた魔法の構成が異なる。それでも別にやりにくいことは無い。むしろスムーズすぎるくらいだ。


 時空属性自体は手持ちの属性の中でも使い勝手がよく、氷魔法と共に何となく魔法のため、もしかした相性が良いのかもしれない。


 一瞬の光が竜太を覆い、その間に服が修復される。


 心配してはいなかったが、問題なく魔法は発動したようだ。


 「おぉ、すっげ」

 「俺的にはあんまり使わせないでもらいたいんだがな」


 素直な驚きの声を漏らす竜太に、俺は苦い顔で告げる。出来るなら服の破損はない方が良い。


 「……まぁ竜太に関しては俺もしっかりして欲しいけど。にしても強いなオーク。途中竜太が斬られた時はマジで焦った」

 「あ、それな? 俺もマジで死ぬほど痛くてやばかったわ」

 「竜太なぁ、そんな軽いもんじゃないやろ!」

 

 当人がそんなサラッと言うのもどうかと思うが、確かに焦った。

 自制心が無かったら当然駆け出していただろう。少なくとも高校生としての俺達にとっては大きすぎる怪我だったのは事実。


 「うん。ホントに、私も凄く怖かったんだから。あんな大怪我、魔法がちゃんと発動しないかと思うぐらいにビックリしちゃったもん」

 「いや悪ぃ悪ぃ、ちょっと油断してたんだわ。次からは気をつける」


 もしも叶恵の魔法が失敗していたら、危なかったかもしれない。魔法は冷静さと詳細なイメージなどが必須のため、気が動転すると一気に使えなくなる。竜太の回復が遅れれば、樹と近添だけでは何時まで抑えられていたことか。


 とはいえ、そう、常に無傷で戦闘を終わらせることが出来ればもちろん完璧だが、現実ではそう簡単なものでは無い。初戦を一発の被弾で済ませられたのなら問題は無いと思われるし、立ち回り自体は良かったと思う。

 

 レベルもまだまだ低いのだし、それこそ回数を重ねればすぐに余裕にまでなるだろう。

 

 「この階層にはオーク以外にも魔物が居るから、また気をつけて進めよ」

 「りょーかい。じゃあもうちょい頑張るわ」

 「これから毎日頑張るんだけどな」


 初戦を終えて樹達も精神的疲労を感じているようだが、迷宮とは持久戦なのだ。あまり長い時間休めば効率は一気に下がるため、樹達に軽い発破をかけて先へ進むよう促す。



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 そう言えばもう少しでバレンタインですね。皆様、バレンタインに誰かからチョコを貰うorあげる予定はありますでしょうか?


 私はあげる予定はもちろん貰う予定もありませんが、バレンタインデーなんて毎年そんなもんだと理解しているので何も問題はありません。問題はありません。


 でも少しだけ気になることがありまして。私もバレンタインデー用の短編が書きたいなと思うんですが、一から書くなんて無理な気がするんですよ。話まとめるの苦手ですし。

 でもこの作品にバレンタイン用の幕間的なものを設けるのも難しいなって……ルリからチョコ貰う展開とか?


 うぅむ……まぁあと三日間しかありませんし、バレンタインは普通のお話をあげると思います。それならこんな話すんなよという事なのですが、なんかこういう話を入れてかないと自分の日付感覚が狂うと言いますか……最近はそういうイベント物もあまり気にしなくなってきていますので。


 ちなみに話の流れからわかるかもしれませんが、次回は明明後日、バレンタインデーである14日となります。

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