第50話



 すみません遅れました!! 授業も始まるし急いで投稿! あと皆様ハッピーバレンタイン(一日遅れ)と、次の投稿は間に合わなかったバレンタインデー用のお話になるかと多分明明後日!!


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 「───刀哉君は、結構先まで進んでるんだっけ?」


 ふと声をかけてきたのは叶恵だった。あまり周囲への警戒はせず、変わらぬ景色に飽きてきたため俺に声をかけてきたようだ。

 言葉が足らなくて一瞬何の話か分からなかったが、すぐに迷宮の話だと理解する。


 「先って言ってもまだ九層ぐらいだけどな」

 「十分先じゃん」

 「で、それがどうかしたか?」

 「どうかしたって程じゃないんだけど……ルリちゃんと?」

 「まぁそうだな」


 何が聞きたいのかいまいちハッキリとしないが、少し歯切れの悪い感覚。


 俺が頷き肯定すると、叶恵はそれで何か思考が発生したのか、それとも単に言葉に詰まったのかは分からないが、まだ何か聞きたそうにしながらも口を開かない。

 代わりに同じように集中力が続かなかった竜太が話を引き継いだ。


 「九層って言うと、どんぐらい敵はつえーんだ?」

 「ここのオーク五体同時に一人で相手した方が楽なぐらい」

 「は? オーク五体を一人で?」


 竜太が足を止めて理解不能とばかりに目を点にする。こういう反応を見るとまだ差があるのだなと思ったりしなくもないが、俺は肩をすくめて苦笑い。


 「これでもお前らよりはレベルも積んでるからな」


 基礎スペックはもちろん、レベルの面では大きな差がある。俺と樹達では身体能力がかなり違うはずだ。今の俺なら、余裕ではないかもしれないが、オークの振るう武器を正面から受けることも可能だろう。

 

 「……おい、そんなこと話してるからお出ましなんだが」


 そう言ったのは樹で、まるで俺達の会話に合わせたかのように通路の角からオークが姿を現した。


 その数は、斧持ちが三体───オーク一体をようやく倒したばかりの樹達には、同時に相手するには少し厳しい数だ。


 「どうする樹?」

 「んー……普通なら逃げるが、今は刀哉が居るから援護してもらおうか。お前に一体引き付けてもらいたい」

 「一体でいいのか?」

 「良いよな?」


 俺ではなく、樹は竜太達の方を見て確認した。先程被弾した竜太はやはり怖がることも無く頷き、近添も問題なさそうだ。

 

 「叶恵はさっきみたいな援護を中心に頼むわ」

 「うん、怪我しないようにね。ホントに気をつけて」


 どうやら方針は決まったらしい。そう言うや否や樹は竜太達を連れて走り出す。あのまま突っ込めば三体同時に相手することとなってしまうが、そこは俺への信頼だろうか。


 ただまぁ、ずっと後ろからついていくってだけなのも少し退屈だったのは確かだ。

 遅れた初動で、俺は樹達を一気に追い越す。


 「───おわっ!?」

 「ちょっと上通るぞ」


 そのまま軽やかに床を蹴って樹達を、その際に一番後ろに居たオークの側頭部に軽めの蹴りを叩き込んでおく。

 軽め、とは言っても俺もかなりレベルが上がってきている。前にオークと戦った時ですら、オークが脳震盪を起こすレベルには威力があったのだ。


 今回は力こそ入れていないが、それと同等に近いダメージを与えたことはふらついたオークの姿からもわかる。


 残りの二体が慌てて俺を確認しようと振り向くが、丁度樹達が到着したため、否が応でもそちらに対応するしかなくなる。その間にトントンと靴底で床を蹴るようにすれば、ふらついていたオークは頭を振って立て直した。


 ついでに俺への明確な殺意も付いてくる。


 「いきなり頭に蹴りを入れられるのは、流石に腹が立ったか?」


 返事が返ってくるはずもないが、オークは凄まじい勢いで俺へと近づいてきた。巨体でタックルするように斧が振るわれ、しかし二歩横へとズレるだけで余裕を持って回避する。


 今の俺にとって、オークの攻撃はとにかく遅い。正直このぐらいなら目を瞑っていても避けられるし、真剣に挑まずとも万が一すら有り得ないだろう。


 剣すら抜かず、斧を振った勢いのまま走り抜けていきそうなオークの膝を横からと軽く蹴る。今度は本当に、ただ靴先を当てただけと言ってもいい弱さだ。

 オークはそれをどう感じ取ったのか。少なくとも怒りが湧いていることは簡単に想像がつく形相だ。


 「そら、死に物狂いで来いよ」


 地面が揺れるような錯覚すら覚える足踏みを避けて、その体を上ろうと跳躍する。宙に飛んだ俺を捕まえようと途中で伸びてきた腕を、いとも容易く、瞬時に抜剣して


 武器の性能は、買い換えない限りレベルが上がったところで強化されることは無いが、武器に付与する魔法は別だ。

 普段ならば要所要所でしか使わないが、魔力量も上がり、オークに攻撃する程度の効果の『振動波オースレイション』ならば常にかけておくことも可能だ。


 血飛沫が舞う中、俺は手首の返しだけで剣を引き戻し、そのままオークの首へと刃を滑らせた。


 ジッ───微かな斬撃音。音の小ささは如何に抵抗が少なかったかを表していた。


 以前ならばその肉を前に断ち切ることが出来なかったが、魔法をかけた状態では違う。膂力すらも何倍も上がっているのだから。

 首が飛び、そのいきなりの致命傷に驚いた血管が、泣き叫ぶように血の雨を降らせる。


 「オークじゃ手加減もままならないな」


 刀ではないが、剣で器用に血振りをして鞘へと戻す。


 レベルを上げるなら、現実的に言えば安全に越したことはない。例えばとても経験値は稼げるが弱い敵が居たとしよう。当然それを狩るのは最優先する選択肢だ。

 しかし、ならば俺はそれでいいのかと言うと、それはまた違うような気がする。なんというか、俺は戦闘に高揚感抱く質だし、命のやり取りのスリルをどこか気に入っているところもある。


 戦闘狂なんてことはそれこそないが、ようはとどこか思考に雑念が入ってしまうのだ。集中しきれないというか、思考に過剰なまでの余裕が生まれるからこそ気が逸れてしまう。


 正直言って、戦闘中に手加減やら油断を見せるやらなんてのは自分でも馬鹿らしいと思っている。


 ただ、戦闘が少しでも長引くようにしているのは、そういう面もあるからなのかもしれない。

 確かに、戦闘を楽しもうとしているのだ。強くなることは第一だし、前述したような経験値稼ぎの敵が居るなら実際狩るだろうが、いまいち乗り切れないに違いない。


 「……さて、樹達は」


 オークの魔石を剣で抉り取り、思考を切り替える。もし危険なようなら割って入ることも考えなければならないが、幸い二体を相手しても上手く立ち回っているようだ。

 竜太が一体のオークをどうにか引き付け、残りの三人がもう一体のオークへ攻撃を仕掛けている。先の一戦で凍結が有効だと判明したのも大きく、今回は最初からオークの動きを鈍らせている。


 その中でも特に目覚しい働きをしているのが樹だ。個々の動きだけ見れば拓磨のように完全無欠な優秀さがある訳では無いが、槍で牽制しながら、魔法を放っている。

 ようは近接戦と魔法戦を同時にこなしているのだ。


 雄平や神無月、叶恵などを見ればわかるが、現状魔法を使う奴らは後衛で援護に徹していることが多い。

 その理由としては言うまでもなく魔法に集中するためだが、樹はマルチタスクが可能らしい。魔法の規模こそ叶恵や雄平達には劣るかもしれないが、速度や正確さに関してはほぼ同レベルだ。


 後衛は引きで見ている分戦況を把握する余裕があるが、樹は近接戦を仕掛けている。どうしても視野が狭まってしまうのが普通なのにも関わらず、しっかりと視覚外に魔法を発動することも出来ていて、なんなら近接攻撃の程度をゆるめることなく竜太の援護すらしていた。


 単に魔法の威力が高いとか、発動数が多いとか、そういう分かりやすい実力とはまた違う。魔法が上手いというよりは、い。


 「……だから、こいつらには期待しかしないんだって」


 ザンッ!! 力強く槍が振り下ろされ、オークの片方が大きく傷を負う。


 安定しているようだし、俺の手だしは必要なさそうだ。

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