第44話
皆様、私です。
結局小説は半分程度しか読み終わっておりません!(笑)
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一日を、迷宮に潜らず使った。
簡潔に言えば昨日はそんな感じだった。理由は言うまでもなく、ルリが寝てしまった為である。
とはいえ、本当に一日中寝ていた訳では無い。ルリはちゃんと昼よりも一時間以上前には起きたし、俺に申し訳なさそうにしながら謝罪もしてきた。
こちらとしては気にしていないのだが、ただその時に俺も少しおやすみモードになってしまったのが決定的な理由だ。
迷宮やめて今日は休むかと、初めての観光に時間を使う事に決めたのである。
その観光の内容に関してはともかくとして、迎えた翌日は昨日休んだ分を取り戻すという意味も込めて早めに行動していた。
ルリの方もしっかりと自分で起きていたが、もしかしたら昨日のことを気にしていたというのもあるかもしれない。
宿から出ると、自然と腕が絡まる。
「……家族だとしても過剰なんだけどな」
「…………ダメ?」
「ダメじゃない」
別に咎める意図で言った訳では無い。そもそも腕を組むぐらい既にやっているし、俺もわざわざ口に出す必要などなかった。
そこは多分最低限の抵抗というか、過剰であることを認識させるためというか、そういった所なのだろう。
迷宮に行くので今日は普段のローブ姿のルリは、大きさが不釣り合い故に手の甲どころかほとんどが袖に覆われたその手で俺の腕を掴んでいる。
実際には腕組みと言うよりは俺の腕を掴んでいる、と言った方が良いか。
そんな状態のままいつものように探索者ギルド近くまで来る。
こう何日か通っていると、見知った顔も増えるようになる。とはいっても俺はルリが居るのもあって他の探索者との交流もほぼほぼ無いため、存在を認知しているだけではあるが。
それでも一度見れば[完全記憶]のスキルのお陰で忘れることが無くなった俺にとって、見たことない人が居ればすぐに分かる。
だからその日は見慣れない集団がいるなとすぐに分かった。探索者のパーティーが二~六人程度なのに対し彼らは八人とかなり多く、受付にその人数で押しかけているのを見るにもしかしたらこの場所に来たのは初めてなのかもしれないと。
別段珍しい訳ではないので、特別取り上げるほどのものでもないのだが何となく彼らに視線を引かれた。人数が多かった、というのもあるが……。
そう思考していたのも一瞬で、足を止めることも無くギルドの中へと入ろうとする。
だが誰かが走る音がして、別の方向を見た。
ちょうどそれに合わせてだろうか。この人混みの中をこちらに向かって走る人がおり、だが上手く進めず、やがてつまづき倒れそうになった。
「トウヤ───」
恐らくルリはどうしたのかと聞こうとしたのだろう。ただそれを聞き届けるより先に体が動いていた。
人混みの中を最小限の動きで駆け抜け、少し邪魔になってしまっているだろうが仕方ない。
倒れそうになったその人物へと手を伸ばし、腰に腕を回して体を支える。
少し密着しすぎな気がしないでもなかったが、こうでもしないと安定しないだろう。
「───大丈夫か?」
「は、はい、ありがとうございま……っ!?」
その人物───この人混みの中でも目を引いてやまない金髪碧眼の美少女は、俺から少し体を離して、丁寧に頭を下げた。
そうして顔を上げて、明らかな動揺を見せた。
「どうした? 俺の顔になにかついてるか?」
「ぁっ、い、いえ、そういう訳では……あの、これはですね」
突然慌てだした少女は、被っていた帽子を更に深く被る。明らかに顔を隠すような動作で、その帽子の下で視線を逸らす。
その動作に思わず笑ってしまうのを誤魔化すこともなくいれば、後ろからルリが追いついてきて俺の横に立った。
「……どう、したの?」
「ん、いやなんでもない。ただどうも
「……お転婆……あっ」
そう言われ、ルリも目の前の少女を見て声を漏らした。少女は更に帽子を引っ張って深く被ろうとするが、それ以上はどうやっても伸びることはなく、その綺麗な金髪は隠すことが出来ない。
「……何、やってるの……
「……こ、こんにちは、ルリさん」
愕然とした様子でルリが目の前の少女───クリスに問いかければ、クリスは引きつった笑みを零した。
◆◇◆
クリスと言えば、言うまでもないとは思うがルサイア神聖国、俺達を召喚した国の王女である。
王女ということは王族で、王族というのは非常に偉い立場なのである。
そのため本来であればそう簡単に出歩けるようなものではないのだが、歳に似合わず聡明だと思っていた目の前の王女は、何故かさも当たり前のように国外に居た。
取り敢えず会話をするために人気の少ない路地にクリスを連れ込むことになるが、こうしていると少しいかがわしいことをしようとしているみたいだな。
そんなことをクリスに考えようものなら不敬罪待ったナシではあるが。
「……えぇと、改めまして。お久しぶりですトウヤ様、ルリさん」
「あぁ久しぶり。元気そうで何よりだ……それで、どうしてクリスがここに居るのか聞いてもいいんだな?」
「それはまぁ、その……はい」
当然の疑問を投げかければ、少しバツが悪そうにクリスは頷いた。
まずクリスが単身ここで来ていることは有り得ない。これは絶対にあってはならないことなのだ。
それを前提とすれば、クリスの移動手段に関しては探るまでもない。このタイミングで来るのには、拓磨達と行動を共にする必要がある。
そう思うと、先のギルドに居た集団は、もしかしたら姿を偽装した拓磨達だったのではないか。その可能性は大いにあると言えるだろう。
「もう予想は出来ているかもしれませんが、私はタクマ様達と共に先程この街に到着致しました。現在はそちらのギルドで探索者登録の受付をしているはずです」
「それ、拓磨達は知ってるんだろうな?」
「流石に無断で着いてくるなんてことは致しません。それにこれはヴァルンバ国側も容認していることですので、そう神経質になる必要はありませんよ」
そうは言うが、俺とクリスが話している姿はそう易々と見せない方が良い気もする。ただでさえこちとら黒髪黒目の二人組なのだ。クリスと話していたらそれこそ勇者との関連性を想起させてしまう。
監視がないとは言いきれないのだし。
「……そのために、今は一応
言いながら、クイッと俺の事を見上げる。どことなく笑みを浮かべていて、そして上目遣い。
「そんな状態でも私のことをすぐ見つけてくださったのは、とても嬉しいです。意識してくれていたんですね」
いや全くそんなことはないのだが。何となく違和感があって向けた視線の先に金髪の女の子がいて、その子がクリスだったのだ。だから急いで駆けつけただけのことで。
実際、別に意識していたとかそんなことは全くないし、なんならさっきの瞬間でクリスを思い出すような要素もなかった。
だからルリ、クリスに見えないところで俺の背中を抓るのはやめてくれ。確かにクリスの上目遣いに何も感じないと言えば嘘だが、変なことは思ってないから。
対するクリスが嬉しそうなのは、まぁ仕方ないのかもしれないけども。流石に本当に俺が『意識』していたとは考えていないだろうし、ようは結果に対する言葉の綾のはず。
それがルリにとってどう思うものなのかに関しては考えないでおこう。
少なくともこの感じでは良い気分では無いのだろうが、だからこそ余計に。
「からかうなよ。それで、この国まで来たのは単に好奇心か?」
「その通り……と言えるほど簡単に移動できる立場だったら良いのですが、残念ながらそういう訳ではありません」
そうは言うが、クリスは続きを説明せずに路地から出ようとする。
「その話はまた後にしまして、今はタクマ様達と合流しましょう。あまり離れていると心配されてしまいますから」
「そりゃそうだろうな。というか、護衛とか居ないのか?」
「居るには居ますが、今はトウヤ様と合流するために離れさせています。
「便利かと思ったが、不便だな」
「その分強力なんです。本来なら、ですが」
そこでどうして笑うのか。確かに
そう思うよな、ルリ。分かっているなら指を放して欲しい。
痛みに耐性があると言っても、それは行動や思考に支障が出ないという意味であって痛覚がない訳では無い。つまり痛いものは痛い。
誰だって足の小指をタンスの角にぶつければ悶絶するし、女の子からの抓りはかなり効く。
しかし、良くもまぁ俺が居ると分かったものだ。行動パターンに関して伝えた記憶は無いが、どうにかこうにか予測したのかもしれない。
いや、向こうには
もしくは、先程着いたばかりと言っていたのでクリスはたまたま俺が来るかもと見張っていたのか。
「トウヤ様方は少し遅れてギルドの方に来てもらって良いですか? そこでタクマ様達と共に一芝居打ちますから、お二人共何となくで合わせてください……まぁ、この分でははっきりと見張られている訳でもないようですので、やる必要もあまり無いかもしれませんが念の為」
「わかった。取り敢えず俺達は黒髪黒目の珍しい家族って設定でいけばいいんだな?」
「はい。黒髪黒目の珍しい兄妹ということで通してください。では、また後ほど」
クリスは微笑んで、王女とは思えぬ軽い足取りで表通りへと姿を消した。後でまた会うからなのだろうが、こんな場所で再会したにしては随分とあっさりしている。
本当に───居るなら居ると言ってくれても良かった気がする。この前の連絡の時だって、そんなもったいぶる必要はなかっただろう。
少なくとも普通ならば、必要ない。
俺と合流するために近づいてきたと言うが、あれは明らかに後ろから走って近づこうとする雰囲気だった。その直前でつまづいたから俺がカバーに入ったのであって。
あれはもしかして、ちょっとしたサプライズだったのではないか。後ろからバっと近づいてきて『ビックリしましたか?』と俺をからかうための。当然こっちは驚くし、クリスは満足そうに頷く。
無い……とは言い切れない。何故ならあの子は、あれでかなりイタズラ好きだ。からかったり、拓磨に対しても困らせたりしているはず。
まぁ、今となってはクリスがサプライズを企んでいたのかどうかは気にすることじゃない。
「ルリ、クリスが言ってたのは言葉の綾だから気にするな。そして頼むから指を放してくれ」
「……ホント?」
「ホントだ」
少しだけ高い声のルリに、頷きを返す。
あと、声は不安げなのに指はしっかり俺の背中を抓っているのはどうなのだろう。かなりぎゅむっという感じで抓られているので痛い。
そしてまだそれは終わらない。
「どうした、不安か?」
「…………クリス、可愛い、し」
「それは否定しないけど、俺は別に見境無いわけじゃないんだがな」
むしろルリにあそこまで劣情を抱く方がおかしいのだ。別に異性に興味が無い訳じゃないし、性欲が無い訳でもないが、それでもルリに対してだけはビックリするぐらいそういう目で見てしまっている。
心当たりは……無い、とは言えないが。
ともかく、いくら美少女とはいえクリスにそんな目を向けるのはまず無い。前にも言った通り。
「ともかく、クリスは異性として意識してない。意識してても、それは王女っていう部分に対してだ。だから安心してくれ」
「…………ごめ、ん」
俺から指を放したルリは、控えめに謝ってきた。バツが悪そうにとも言えるだろう。
ルリにとって、クリスは魅力的な異性に見えるからこそ警戒しているのだと思う。俺もクリスの容姿や性格は魅力的に───と言うと語弊を招くか。ともかく異性にモテるだろうというのは簡単に想像出来る。
つまりはまぁ……多分、というか確定的にクリスへの嫉妬なんだろうな。もしくは俺への苛立ちか。
ところで、俺は別にルリと恋人関係にある訳じゃないのだが、それに関してルリがどう思っているのか聞きたい……と言うのは最早仕方の無いことだと諦めるしかないだろう。
俺も、そういうものだと理解している。
「別に気にしてない。このぐらいなら随分と可愛らしいしな」
そう、これはまだ可愛い嫉妬だ。嬉しいとさえ思う。性欲寄り……恋愛寄りなのは胸が苦しい部分があるものの、その嫉妬が好意から来ているものであればポジティブに考えることも出来る。
抓るのは止めてほしいけど。
「ほら、そろそろ合流しよう。あまり時間をずらし過ぎても向こうが困惑するだろうし」
「……ん」
ポンポンと頭に優しく手を置き、ルリを促す。
その際に手を繋ぎ、腕を組み、ぎゅっと密着したところで気にはしない。
まぁ……クリス達に後で補足をしておかないと誤解されてしまいそうではあるけども。
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えー、次回がちょっと日曜日用事があるので分からんのですが、明明後日、ですかね……そのぐらいで!
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