第33話


 大変お待たせいたしました。いや、執筆が難航してしまいました。Twitterには書いたのですが、今の時期は期末考査と丸かぶりで課題やらなんやらで時間がですね……どうか御容赦いただけると幸いです。


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 「───トウヤ!?」

 「……良かった。そっちは平気だったみたいだな」


 俺が探すより先に、こちらを見つけたルリが駆け寄ってくる。ルリの方は魔法で作りだした壁で防御していたらしく、その見た目は全くの無傷だ。

 対してこちらは、怪我と呼べる怪我はないとはいえ擦り傷が結構ある。露出しているのは手や顔ぐらいのものだが、流石に先の衝撃で服が破けたりしてしまっていたため、その奥の血が滲むような傷が見えていた。


 明らかな動揺と心配を浮かべたルリは、慌てて俺の手を握る。そうすれば一瞬流れ込む温かな感触。

 

 ルリのかけた回復魔法によって、体の傷は完治していた。流石に痛み自体は残ってしまっているが、体の機能や怪我としては全く問題がない。


 「悪い、世話かけるな。ありがとう」

 「大、丈夫? 痛く、ない?」

 「このぐらい耐えられるから平気だ」


 至近距離から俺の事を見上げるルリに、頷きを返す。

 当然だが、痛いは痛い。だが胸を貫かれる痛みに比べれば、この程度なんてことは無い。

 だからそんなくっついて体の状態を確認しなくても平気だ。ぺたぺたと触っても異変なんてないぞ。


 それよりも俺としては本当にゴブリンジェネラルを倒したのかどうかが心配だ。先程は明らかにフラグとなりそうな思考をして、実際手痛い一撃を食らう羽目になったため、今度は倒したと思ったら実は、なんて展開が無いと言いきれないところがある。

 ジンクスというやつだ。一度あったら二度目もあるかもしれない。そう思ったのだが、ルリはゴブリンジェネラルの方を見ると、首を横に振る。


 「多分、死んだ。さっきのは、魔力暴走、だと、思うから……」

 「魔力暴走?」

 「……魔力を、暴走させて、爆発を起こす……基本的に、自爆」


 ルリはジェスチャーで爆発する様子を表して説明した。言い方から察するに、暴走とは言っているが実際には自分の意思でも行えるものなのだろうか。

 となるとやはり、ゴブリンジェネラルは勝てないと悟って最後に一矢報いようとその魔力暴走を引き起こしたということか……その結果が体が内側から破裂したように破損してしまうという。


 もしそうなら、見事にしてやられた。


 これ、経験値というかレベル的にはどうなるのだろうか。と思い自分のステータスを見てみるも、レベルは戦闘前と変わってはいない。

 魔物の撃破数が足りていないのかとも思うが、急激に必要数が増えない限りは体感的にそろそろレベルが上がってもおかしくはない。何より今の魔物は明らかに今まで倒した魔物と比べれば高い経験値を持っていそうであるし。


 「……魔物の自爆は、レベルアップ、には、繋がらない。どん、まい」

 「あぁ、やっぱそうなのか……なんにせよ勝ったってことなら、先に進めると考えていいのか」


 言いながらゴブリンジェネラルへと近づいていく。やはり死んでいるのは確か、なのだが……。


 「魔石は……これは無理かね」


 果たしてこれからも魔石が取れるのかどうか、探してみたい気もしたが、魔石がありそうな胸の部分はそもそも弾け飛んで崩壊している。魔石らしきものも見当たらない。


 自爆はするし、経験値はないし、ドロップもない。なんて厄介で旨味のないボスなんだ。

 

 「……まぁ、仕方、ない」

 「割り切れるのは凄いな」


 俺としてはこのタイミングで明確なダメージを貰ったことに腹が立っているので、せめてスカッとするようなものがあれば良かったのだが……確かにルリのように割り切るしかないのだろう。


 死体は無視して、俺達は空間の奥の扉に近づく。


 どちらが入口でどちらが出口だったかというのは、扉の大きさで一目瞭然だ。入口は巨大で、出口はそれと比べればまだ小さい。それでも扉としては破格の大きさではあるが。

 その扉を手で押そうとすれば、その直前にルリが俺の袖を掴む。


 「……えっと、今度はどうした? 怪我は平気だぞ」


 そっと握る感じではなく、明らかに俺の足を止めに来た強い引き。振り返っている最中にルリの魔力が俺の体に向けられた。

 そしてこの魔法は───身に覚えがある。


 一瞬の後に、ルリと、そして恐らく俺も銀髪碧眼の姿へと変わっていた。


 「……外に、居たら、危ないから……」

 「念の為にってことか。ありがとさん、助かる」


 どうやら扉の奥に例の四人が居る可能性を危惧しての対応らしい。確かに守護者ガーディアン戦で疲労したからと休憩でも取っていたら、鉢合わせる可能性は十分にある。


 改めて扉を開ければ、その先はすぐに階段となっていた。

 取り敢えず即座に出くわす展開はなかったことに安堵しつつ巨大な階段をルリと共に降りていく。

 一段一段の音が響き、階段の先は暗闇に包まれていて随分と薄暗かった。ここは光源がない、というよりは一定以上の距離の先が暗幕にかけられたように見えなくなっているだけで、足元や周囲自体はそれほど暗いわけじゃない。


 そうして、数十段ほど階段を降りた先で、いきなり視界が開ける。


 それは単に明るくなったという意味ではない。その言葉の通り、景色が突然広がったのだ───に。


 「……え、いや、迷宮ってずっとあの感じじゃないのか?」

 「…………迷宮って、不思議」


 二人して呟くのは、階段を抜けた先に見えていた光景に対してだ。


 長い階段を抜けた先、迷宮の第五階層とされるその場所。


 そこには地下であるにも関わらず、俺達のよく見慣れた───が広がっていた。


 空、青空だ。どこまでも続くような上限のない高さと、そこを流れる雲。頬を撫でる風すら外そのもの。

 地面は今までの石畳のような階段とは違い、草と土で構成された草原。先程までの閉鎖された迷路のような空間から一転して、ただただ開放感溢れる場所であった。


 「これは、なんだ。第五層からは草原エリアということなのか、それとも俺達が変な場所に飛ばされたのか」


 地下に空があるというどこか矛盾した光景ではあるものの、確かにこれは地上を模している。


 どういった原理で空があって、太陽のようなものが輝いていて、地面を地上のように照らしているのかは知らないが、まず空は俺達が降りてきた階段以上の高さがあるのは確かだ。


 ちなみにその階段はと言うと、この平原の中で異彩を放つように存在している。外から見ると、石畳のそれがどこまでも空へと続いているものなのだが、これまた明らかに俺達が降りてきた以上の長さがあるように見えるどころか、先の方は霞んでしまっている。


 どちらにせよ、とにかく不思議な空間であった。迷宮自体が謎であるという話も、これを見ていれば何となく理解できるというものだ。


 そう、つまり、何がどうなってるのかよく分からん。


 空間の広さが一致しないのは目の錯覚か、はたまた魔法的要因なのか。


 「……どう、する?」

 「いや、どうすると言われてもな……」


 あまりに予想外の光景に、袖を引き問いかけるルリに曖昧な反応を返してしまう。まだ時刻は昼辺りのはずなので先に進む時間は十分にあると思うが、こんな激的な変化を前にそのまま進んでしまってもいいものか。

 

 「───あ、さっきの」


 メリットとデメリット、あと好奇心などの部分からどう判断すべきかと悩んでいると、右手の方向から声が届いた。

 俺の耳はその声を覚えていたので、身構えることなく……いや、内心では気を張ってしまったが、外見上は自然にそちらを振り向いて対応した。


 言うまでもない。先程遭遇した日本人だ。


 「どうも。そっちは無事に通ったみたいだな、おめでとう」

 「お陰様で。そちらは……」

 「……見ての通り、情けないことに俺だけ手痛い一撃を貰ってな。怪我は治したんだけども、服はどうしようもない」

 

 金髪の男含め四人はほぼ無傷で、服も綺麗な状態だが、対する俺は怪我こそないが先の攻撃で服を大きく損傷してしまっている。

 半裸になっている、とまでは言わないがダメージ加工ではありえないレベルの穴あきだ。俺は肩をすくめて苦笑いを向けるしかない。


 「でも、結果的には無事に終わったようで何よりです。ここでまた会ったのも何かの縁ですし、良ければ服を直しましょうか?」

 「ん、出来るのか?」

 「俺ではなく仲間が、ですが───紫希しの、頼んでもいいか?」

 「別にいいけど……」


 そう言って出てきたのは紫希という名の、赤い髪をポニーテールにした女の子。

 

 「えっと、すみません、その……魔法使うので少し触ります」

 「あぁ、直してくれるのなら全然。好きにしてくれ」


 活発で勝ち気そうな印象を容姿から抱いたのだが、いざ口を開くと少し人見知り気味に見える。男相手というのもあるのだろうが、おっかなびっくり俺へと手を伸ばしてきた。


 魔法の種類によっては、魔法発動時に極めて正確な座標や対象の設定を求められることがある。そういった場合イメージと魔力操作の補完のために対象とする場所や物に触れて使用すると、魔法の難易度を大幅に緩和できるため、こうして実際に触れながら魔法を発動するという行為はありふれたテクニックだ。


 今回は恐らく俺の服を対象に魔法を発動しようとしてくれているらしいので、下手に動いたりせずに待っていれば一瞬体全体が薄く光った次には服が完全に修復された状態となっていた。


 「これは凄いな……紫希さん、で良いか? 服の修繕、ありがとう。見た目以上に防御力的な意味でも助かる」

 「いえ、そんな」


 自らの服を確認しながら紫希さんにお礼を言えば、遠慮気味の頷き。

 

 魔法の結果と魔力のから見るに、どうやら時空魔法での修繕らしいことは分かっている。というより、物体の状態を戻す魔法なんて他にはないだろう。

 時空魔法と言えば、俺は基本的に短距離の『空間跳躍テレポート』や『振動波オースレイション』など『空間』に干渉する魔法を使うが、今のは『時間』の方に干渉したもののはずだ。


 服の時間を戻して、破損する前の状態にしたと言ったところだろうか。


 正直空間よりも時間への干渉の方が、より概念的なものであるのに加え、しっかりした情報の遡及や予測が必要になるため魔法の難易度が高い。そういう意味で言えば、そう時間をかけずに服の状態を戻したのは中々に凄いことだと思われる。


 紫希さんは後ろに戻り、また金髪の男との対面。


 「さっきから、色々と世話をかけて悪いな。何かお礼でも出来ればよかったんだが」

 「気にしないでください。困った時はお互い様です」



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 前書きの続きなんですが、執筆時間が少ないのに加えて、私自身の想像力が少し乏しくなっていまして、文章の構想をひねりだすのにも時間がかかっております。なので次もまたしばらくおまたせしてしまうかもしれませんが、御容赦を……!

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