第31話


 今回は戦闘で、体調は元通りで無事普通に投稿です。


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 扉が開いた。


 正確には開けたと言った方が良いか。30分ぐらいした頃に一度扉を押してみたところ、動き自体は重々しくも意外とすんなりと開いたため、ルリと顔を合わせ中を覗く。


 中には誰もおらず、だだっ広い円形の空間が存在していた。見れば見るほどボス部屋なんだなと思う反面、先の四人は大丈夫だったろうかと心配になる。

 迷宮内における死亡は、死体や遺留品も残らない場合が多い。実際に死んでしまったのかどうか判別がつかないため現時点では確証無いが、それでもこの前のオークとの戦闘を見た感じ、三人はそれなりに強かったはず。


 空間の奥には似たような扉が存在しており、恐らくはあの奥に下層へと続く階段が存在しているのだろう。となれば無事に守護者ガーディアンを倒し、あの先に行った可能性がある


 「取り敢えず入るか。外から見ててもこれ以上はわからないし」

 「……準備、は?」

 「特にすることもないしな」


 強いて言うなら予め剣を抜いておくことぐらいだ。バフ効果のある魔法は熱や冷気を遮断するものぐらいで、筋力などのパラメータをあげる魔法など俺は知らない。


 そしてここでは必要ないだろうということで結果として剣を抜くだけだ。ルリの方を一度向いてから、そちらも問題ないのを把握し中へと足を踏み入れる。


 二人して部屋の内側へと入れば、背後で勝手に扉が閉まっていく。おぉ自動ドアかと驚くことよりも、今は部屋の中心に意識を向けていた。


 広さは、半径100メートル程度だろうか。上を見れば天井も非常に高く、広すぎる空間とも言える。ボス部屋だと思えば当たり前のように思えるが、今のところ迷宮の傾向から考えられるボスはゴブリン系統かオーク系統、もしくはブルボアなどの猪系統だ。


 もちろん全く関係ない可能性もあるだろう。その場合は予想などできるはずもないが。


 少し待っていると、突然部屋の中央から閃光が放たれる。目元を腕で覆い隠して光が消えるのを待っていれば、やがて全体的に影が差しているのがわかる。

 閃光の影響ではなく、明らかに部屋全体に渡って広がった影に困惑しながら腕を退かすと、その光景が目に入る。


 「……あぁ、やっぱ準備してきた方が良かったかもしれん」

 「……これは、予想、外」


 ルリも僅かな動揺を声に宿している。


 影が差したのは、巨大な何かが現れたからだ。そんなこと少し考えれば思いつくような簡単なこと。

 問題はそれが、であることだろうか。


 部屋の中央に突如として音もなく現れたのは、身長を超えると思われる巨大な二足歩行の生物。体は全体的に細身な印象を受けるが、当然巨体故に腕一つとっても俺の体以上の太さがある。


 体は暗い赤色、顔は潰れたように醜悪なもの。体毛はなく、その体をところどころ覆うのは鉄の板金。そして手に持つは巨大な鉈のような武器。

 あの大きさでは斬られると言うよりも叩き潰されそうだ……ついつい乾いた笑みがこぼれてしまう。


 いや、いやいやと。


 「ルリさん、一撃で倒せたりする?」

 「一撃は、無理っ」


 ダメもとで聞いてみたら、珍しくルリの言葉に間がなかった。理由は簡単、俺が話しかけると同時に目の前の巨人がいきなり大鉈を振るったためだ。


 ごめん、ホントタイミング悪かったな。というかルリじゃなかったら万が一となっていた可能性もある。


 心の中でめちゃくちゃ謝りつつ、それを見る。刃渡り何メートルなんだろうか。比率から考えるに、五メートルは行ってるんじゃなかろうか。

 一歩二歩と後退したところで無意味な圧倒的リーチ。俺とルリがほぼ同時に跳躍して回避し、足下を物凄い勢いで鉈が通り過ぎていく。


 「いやいや、いやいやいや、あの四人はこんなの倒して行ったって?」

 「……明らかに、違うと思う」


 戦闘態勢となったルリが断言に近い形で告げた。まぁ俺も薄々分かってはいたが、流石にこんな化け物を倒せるかどうかと聞かれれば少し違和感がある。

 いやでも、死んだというのもどうなのだろう……? 俺だったらこんな存在が居て、かつ誰かが飛び抜けて強くない限りは少し様子見して直ぐに逃げる。


 だが彼らが部屋から出てきたことは無い。ボス戦中は部屋から出れないという可能性もあるが……倒して進んだと仮定しよう。

 いや、正確に言うならばこいつとは違う守護者ガーディアンとやらを倒して進んだ可能性。ボスが必ずしも確定であるとは限らず、もしかしたら俺達が初戦でヤバいやつを引いてしまったのかもしれないと。


 一応安全策を取るならば、俺には恥も外聞もプライドも投げ捨てルリに任せるという選択肢はある。


 下手に協力するよりもそちらの方がルリとしても俺を気にせず戦えるかもしれない。もちろんそれを言ってもルリは否定するだろうが、だからこそ口には出さない。

 それは最後の手段だ。

 

 「きっ……聞いておきたいんだが、倒すこと自体は出来そう?」

 「斬って、みないと、わからない」


 溜めからの今度は大鉈振り下ろし。石畳の床を壊すような勢いのそれを回避して顔を引きつらせながら聞くと、ルリは剣を構えて言う。

 次の瞬間姿がブレるほどの勢いで相手へと接近し、そいつの無防備な足首辺りに現れた。


 ルリが軽やかに剣を振って走り抜けると、その足首は一気に裂ける。相変わらず剣のリーチを無視した豪快かつ盛大な抉り方であるが、しかし相手の大きさのせいで大した深手には見えない。


 少し遅れて巨人は攻撃されたことに反応してか、その場で足を持ち上げて強く振り下ろし、その衝撃で部屋全体が振動を引き起こす。

 その振動に俺がバランスをとっている間に、ルリは気づけばこちらに戻ってきてた。再三振るわれた大鉈を回避しながら、声を張って俺に知らせてくる。


 「多分、倒せる、からっ!」


 どうやら感触的には倒せるとみたらしい。確かに俺でも一応避けられる攻撃。ルリが被弾するはずもないと考えれば、相手にダメージを与えられる時点でルリの勝利は確定に近い。

 

 頷きを返してから、入れ替わるように俺も念の為にと視線を走らせる。だがこの距離ではダメだ。もっと近づく必要があるが、巨人は大鉈を持っていない方の、左腕を振るってくる。


 「『空間跳躍テレポート』!」


 たとえ武器がなくとも圧倒的なリーチ。そしてその速度。跳躍による回避は間に合わないと判断して、念の為にと事前に準備しておいた『空間跳躍テレポート』での緊急回避を試みた。

 

 一瞬の浮遊感と、視覚の断絶。そして復帰。どうやら結果は成功の様子だ。十メートル近い距離をんだ俺の背後を凶悪な威力を秘めた腕が薙ぎ払っていき、その隙に視線を持ち上げて巨人の体を視界に収める。


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 種族名:ゴブリンジェネラル

 性別:オス

 レベル:55


 《パラメー……



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 それとほぼ同時か、もしくはそれよりも前に[鑑定]を発動。


 ほんの一瞬で脳裏を数多の文字列が通り過ぎ、その内容を記憶から呼び起こして咀嚼する前に思いっきりその場から後退した。

 再びの地震。ただ足踏みをするだけで引き起こされる振動と衝撃波は凄まじく、体重に任せているのではなくその筋力を活かしているのだとわかる。

 

 大柄なため鈍重に見えるが、そんなはずはなく大きい分少しの移動がとてつもないパワーを生み出しているため、いつかの魔族との戦闘の時のような感覚だった。


 「───ゴブリンジェネラルって分かるか? そいつらしい」

 

 こちらも確認したいことを終えたので、記憶を蘇らせながらルリの隣に戻る。[鑑定]で確認した内容を聞けば、ルリは当然のように頷いた。


 「……分かる、けど、明らか、に、大きさが違う……本当は、オークと、同じくらい、のはず」

 「ゴブリンにしてはやたら大きいけど、あれはオークと比べても明らかに大きいな確かに。なら鑑定の方が間違ってるという可能性は?」

 「……それこそ、無い、気はする、けど……」


 対抗するスキルがない限りは、基本的にスキルは絶対か。


 ゴブリンジェネラル。ゴブリン種の中でも特に上位種なのだろうことは簡単に予想が着く。あの顔も、大きいから分かりにくかったが、ゴブリンの特徴的な醜悪さと言えるだろう。

 ジェネラルといえば『将軍』。こちらの世界にある英語系統の単語も地球における意味とそう変わらないことを考えれば、やはりボス級のゴブリンということだ。


 ただ不幸中の幸いなのは、レベル自体は55と、高くはあるが勝てないほどではないということだ。もしもこれでレベル80とか90だったら、幾らルリが勝てると判断をしても逃げを選択していた。

 パラメータも上位種ということがあってかレベルと比較すると非常に高く思えるが、それまで。


 ゴブリンジェネラルがこちらに向かって歩いてくるので、俺とルリは部屋の外周を沿うように走り出す。


 「ちなみにゴブリンジェネラルって本来はどのぐらいの強さだ?」

 「……Aランク、冒険者が、撃破できるレベル」


 あーなるほど、Aランク冒険者か……うん、魔物の種としては強いな強すぎる。

 Sランク冒険者を頂点とした場合、二番手であるAランク冒険者だが、そもそもSランクというのは化け物共の巣窟らしく、Aランクというのは言わば常人の限界とも言えるレベル。

 プロ、一流、凄腕と言っても過言ではない領域だ。となれば本来のレベルは俺が先程述べた80、90というのも有り得るということだ。

 

 「レベル55の巨大なゴブリンジェネラルだけど、戦力評価はどんな感じだ?」

 「……そこまで、硬くない……それに、低いし。大きいだけで、もしかしたら、Bランク冒険者でも、倒せる、かも……」

 「つまり、違うのは体の大きさだけで、それ以外は普通のゴブリンジェネラルより弱いかもしれないと?」

 「ん」


 確かにAランク冒険者でようやく討伐できるレベルなら、こんなものでは無いだろう。勝てるか分からないという意味で苦戦は必須のはずだ。


 正直攻撃力という意味でいえば、一撃必殺を持っているのはどの魔物も同じ。

 違うのは攻撃の速度や種類、生命力。その点目の前のゴブリンジェネラルはリーチや攻撃力こそ圧倒的だが、それだけだ。速いとはいえ本気で挑めば避けられないほどじゃない。


 余裕ではないが、初めてオーク二体と戦った時の方がまだ辛かった。


 「なら俺も行ける、な!」


 大鉈の振り払い、そして左腕の薙ぎ払いをどちらも掻い潜って肉薄する。今度は[鑑定]のためではなく純粋な攻撃のため。

 先のルリを真似て足首辺りを斬りつけようとするが、警戒されてしまっているのか即座に足踏みをされたため、離脱を余儀なくされてしまう。


 そして後退したところにまた大鉈が迫り来る。これじゃ足を斬るのも難しいなと回避準備に入ったのだが、だがそれをまさかのルリが迎え撃とうとしていた。


 「……っ!!」


 俺が声をかけるより先に、一瞬溜めて、ルリは迷うことなく何メートルとある大鉈に対して剣を下から斬り上げた。

 当然だが質量差も衝撃も圧倒的。トラックに跳ね飛ばされる衝撃すら温いかもしれないそれを、しかしながらルリはその小さな体のどこからそんなパワーを絞り出したのか、なんと大鉈の軌道を逸らすどころか正面から弾き返してしまった。


 カァァァンッ───大きく高い金属音が鳴り響き、ぐらりと影が揺れる。俺はもうルリに対する驚愕とかはとにかくしまって、チャンスだと再び足下へと駆ける。


 ルリのカウンターによってゴブリンジェネラルは体勢を崩しており、無防備な足首を攻撃するのは容易だった。しかし、折角隙を作ってもらいながらも今度は別の問題。

 ルリが普通に斬り裂いていたため俺も勢いよく斬りつけたが、予想以上に硬く剣が進まない。走りながら斬ったため、皮膚の抵抗で止まった剣に体が引っ張られるが、瞬時に剣を抜く判断。


 そのまま全力でその場から飛び退いた。


 「───いや硬いって、よく斬れたなあんなの。いやそれよりもよく弾けたなあんなの」

 「……力を、受け、流して、返すだけ」

 「大きい力ほどそれが難しいんだけどな」


 ルリは俺がしくじっていた間にも更にゴブリンジェネラルの右足に一撃を入れていて、そちらはやはり簡単に剣が入り込んでいる。

 ルリの剣も、元は俺が借用している騎士団のものと同じで、斬れ味や剣の強度はほぼ変わらないはずだ。


 「…………斬るのは、魔法で、斬れ味を上げてる、から」


 ふむ、と確かめるようにルリの持つ剣に目を落とすが……残念ながら俺には言われてもなお魔法がかけられてることすら全然分からない。

 ルリは普段、俺が分からなくならないようにという意味もあってかあまり魔力を隠したりはしないが、この剣にかけている、恐らく『振動波オースレイション』かそれ系統の魔法に関しては、それこそ息をするように自然にできているのだろう。


 魔力を隠す隠さないと意識する以前に、剣を持った時点でもしかしたら魔法をかけてしまっているのかもしれない。事実ルリが少しだけ意識を向ければ、ようやくそれで俺は剣に魔力が伴っていることを理解できるようになった。


 素でやっているのかと思ったが、そうか、魔法だったのか……ルリのことだから力で無理矢理肉を抉っている可能性もあるのかもと思っていたが、流石にそんなことは無かった様子。そもそもその場合は剣が先に折れる。


 取り敢えず俺も剣の切れ味を上げないことには勝負にならないので、『振動波オースレイション』の魔法を剣にかけ、ゴブリンジェネラルへと再び突貫していく。




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 はいっ、次回は戦闘の続きですね。あまりスピーディーさは出せてないと思うのですが、代わりになんといいますか、硬派な戦い、出来てるかな? 出来てるといいです。

 もっとスピーディーな戦いはまだちょっと刀哉の身体能力的に難しいので、お待ちを……!


 次回は明後日辺りいつも通りでございます、では!

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