第30話



 また一日おやすみを頂きまして、こんばんは。活動報告で書いた通り現在体調不良中でございます( ̄▽ ̄;)


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 ───ヴァルンバという国において、やはり最も特筆すべき点としては王都に迷宮があることが言えるだろう。


 迷宮自体は決してヴァルンバにしかない訳では無い。数が少ないことは確かだが、他国にも数個程発見されているようだ。

 しかしながら、最も巨大な迷宮はヴァルンバのもので間違いない。そもそも他国の迷宮はまず面積自体がそこまでなく、階層も数階層程度しかない。それでいて魔物もまちまちであり、あまり実入りも良くはない。


 一方でヴァルンバの王都にある迷宮は面積はもちろん、魔物の質や種類数、そして階層も桁違いだ。

 現時点で既に49階層という深さまで確認できていて、それが最終階層なのかどうかも分からないのだそう。


 49階層……正直敵の強さを考えたら途方もない話だが、実際問題魔王とかいう存在が規格外の力を持っているのなら、この迷宮の攻略も戦力的指標という意味で必要となってくるかもしれない。


 現在の俺達の到達階層は四階層……一昨日、少しだけルリにからかわれた日から昨日を経て、二階層と三階層を攻略した形だ。


 攻略とは言っても、別に各階層にボス的存在がいる訳ではなく、ただ下に降りればいいだけなのだが、一応これでも各階層の魔物を楽に倒せることを含めて攻略と言っているのだ。


 現状魔物はそこまで変わっていない。ゴブリン種に、オークとブルボアときて、三階層はゴブリンの上位種───進化が派生した亜種とは違い、純粋に各能力が飛躍的に進化している種のこと───であるホブゴブリンがきて、四階層目もホブゴブリン系統となっている。


 ただ三階層よりも四階層の方が個体能力が高いと言おうか。魔物全体を通してレベルが高い。


 一階層と二階層程の劇的な変化では無く、ホブゴブリンの大きさ自体はゴブリンより少し大きくなって俺達と同じぐらい。そのため巨大なオーク達のように苦戦することなく比較的楽に進んではいるが、その四階層で俺達は足止めを食らっているところだった。



 目の前に立ち塞がるは、これまた王城にでも置かれていそうな巨大な扉。

 突然天井が随分と高くなったと思ったらこれだ。明らかに異様な雰囲気を放つその扉を前に俺は呆気に取られ、ルリは隣で俺の事を見上げる。


 「……ボス部屋か」

 「……ボス、部屋?」


 この世界ではボスという言い方が通用しないのか首を傾げるルリに、俺はなんでもないと誤魔化す。

 だがこれはボス部屋以外のなんでもないだろう。どうやら四階層から五階層に行くためには、この巨大な扉を経由しなければならない様子。


 そして中には恐らくボスがいる。居るに違いない。


 むしろ居なかったらそれはそれで困る。


 「テンションが上がるような、危険な感じがわかって憂鬱なような、微妙だな」

 「……そもそも、ここ、何?」


 ルリにとって、この明らかな雰囲気がボスのものだという発想はないらしい。これは俺達特有の発想なのかもしれないが、しかしそうなるとやはりボスではない可能性も出てくる。

 確かにあからさまな巨大な扉が出てきたからと言って必ずボスが現れる訳では無いのは、現実的に考えれば当たり前だ。ここがいくらファンタジー世界とはいえ、フィクションとは違う。


 「ルリはどうするのがいいと思う? 今までになかった場所、しかも他に階段もなさそうとなると、迷宮の仕組み的に強い魔物が待ち構えている可能性もあると考えてるんだが」

 「……私は、別に。何が、来ても……平気、だと思う」


 俺は一度情報を集めに街に戻る選択肢も視野に入れていたのだが、流石はルリと言うべきか。

 決して驕りではなくルリの戦力はずば抜けている。いきなりSランクの魔物みたいな化け物が出てこない限りは、確かに余裕なのだろう。


 それを思うと、わざわざ帰るまでもなくこのまま行ってしまっても良いのか。


 別に現在怪我を負ったり、疲労が蓄積している訳では無い。


 「そうだな。じゃあここは強気に行って───」

 

 みるか、という続きの言葉を俺は飲み込んだ。


 何故かルリが俺の方を向いて、人差し指を向けてきているのだ。人に指を向けてはいけませんと言いたい気持ちが湧き上がるが、ルリが意味もなくそんなことをするはずがない。


 やがてルリは特に何も発さずに、俺に分かりやすく魔力を向けた。それだけで、何か魔法を使おうとしているのが分かる。


 「ルリ、これはどう言う……?」

 

 そう言った直後、ルリの髪がみるみるうちに艶やかな黒色から神々しさをもつ銀色へと変わっていく。

 俺の事を見上げる瞳もまた綺麗な碧眼になっていて……見慣れたその色合いに、俺は思わず目を逸らした。


 「……トウヤ、も、変えとい、た」

 「いや、だからどうして───」


 いきなりこんなことをしたのか。それを聞こうとして、俺は背後から気配を感じ取り振り返る。


 通路の先からは四人ほどの探索者がこちらに向かって歩いてきていた。それだけなら特筆すべきことではないが、そのうち三人には見覚えがある。


 見覚えがあると言うよりは、俺の脳裏に焼き付いて離れないほどに衝撃的だった光景だ。


 ───日本人らしき少年少女。今回は四人なんだなとか考えるより、胸中を焦りが埋め尽くす。

 しかしそれと同時にルリの意図が読めた。視線をやれば、ちょっとだけしたり顔。


 確かにこれは、見た目を変えざるを得ない。というより反応が早すぎでは無いですかね?

 いやそれよりもだ。俺達の背後には巨大な扉。正面からは日本人らしき高校生ぐらいの男女。


 クリスからは接触しないように言われているが、この状況、例え今すぐボス部屋に飛び込んだとしても回避は無理だろう。これだけの扉、開くのも一苦労のはずで、その間に声の届く距離まで来る。

 

 ならば『空間移動テレポート』を使用して離れるか、というのも難しい。そもそも長距離での使用は難度が高い上、魔力の隠蔽も手が回るかどうか。

 いやそもそも視認はされている。この状態で姿を消せばやましい事があるように思われてしまう。


 「……ルリ、会釈だけして横を通り過ぎよう。そしたら変に話しかけられずに済むかもしれない」


 最善策としてはそれだろうか。このままここに留まっていたらそちらの方が話しかけられてしまう。それならこちらは去る意思を見せた方が向こうも変に関わってこないだろう。

 自分の姿は見えないが、微かに見える前髪はルリに合わせてか銀髪になっているし、これならば向こうに観察眼が鋭い人間が居ない限りはそう簡単にバレはしないはず。


 そうと決まればと、俺はルリと共に自然に踵を返した。

 ルリは元々変に気にしたりしないので、恐らくは不自然にはなっていないはず。


 そうしているうちに、リーダーのような、俺より一つ下ぐらいの金髪の男と目が合う。距離的にお互いの顔はハッキリ視認できるが、何か訝しむような視線が来ることはない。


 そのまま横を通り過ぎる。これはどうにか抜けられるか……そう安堵した矢先、背後でピタッと足音が止まる。


 「あの」


 他人行儀な言葉。仲間内に使っているのではなくこちらに向けてなのは、背後からでも理解出来てしまった。

 ルリがちらりと俺の事を見るが、俺は視線で問題ないと伝えて、振り返る。


 「守護者ガーディアンには挑んでいかないんですか?」

 「……ガーディアン?」


 しかしながら、飛んできた単語に聞き覚えがなく、早速思考の停止を余儀なくされてしまう。

 声をかけてきたのは金髪の、先程俺と目が合った男だ。正面から見れば中々見かけないようなルックスを持っているらしく、鮮やかな金髪こそ日本人としてみれば少し違和感があるが、こちらの世界の人からしてみれば十分に似合っている部類だろう。


 隣にいたルリが少し気になったのかチラリと視線が向くが、直ぐに俺の方を見直す。


 「守護者ガーディアンというのはその扉の向こうにいるボスのような存在です。もしかして知らずにここまで?」

 「もしかしなくてもその通りだ。あの扉の奥に守護者ガーディアンなんて存在が居るのを初めて知った」


 敬語で話してくる男に対し、俺は敢えて普通に話した。初対面なら明らかに小さな子供でもない限り敬語で話してしまいそうになるが、探索者や冒険者と言った人間は職業柄か敬語を使わないことも多い。

 それに合わせた形だが、それはともかくどうやらあの奥は本当にボス部屋らしい。

 守護者ガーディアン、護る者。さながら番人とでも言おうか。


 「実はあの扉がよく分からなくて、危険かもしれいないから一度情報を集めに街に戻ろうとしてたところなんだ。教えてくれて助かるよ。そっちはその守護者ガーディアンとやらに挑むのか?」

 「次の階層に進むために守護者ガーディアンを一度倒す必要がありますから」


 ボス部屋という認識はそのままの通りらしい。それよりも、話して見た感じ全く違和感を感じないので、やはり召喚さればかりという訳では無さそうだ。

 ある程度こちらの世界の常識も理解していそうだし、交流もあるのだろう。


 また、知識が豊富なルリが『ボス』という単語を知らないにも関わらず、俺と同じように『ボスのような存在』という言い回しを慣れたように使ったことからも、改めて日本人であると感じることが出来る。


 ただそれなら尚更、早いところこの場から離脱しなければならない。


 「そちらが先に着いていたのなら順番を待とうかと思ったんですが、帰るなら俺達が先に挑んでも?」

 「一応守護者ガーディアンが居ると分かったなら俺達も帰らずそのまま挑もうかと思うんだが、こっちは情報を貰ったからな。先にそっちが行って構わない」

 「ありがとうございます。ではお互い頑張りましょう」

 「あぁ、健闘を祈ってる」


 爽やかな好青年らしい言葉と笑顔をこちらに向けて、仲間の元へと戻っていく。特にこちらを探る素振りもなかったし、やはりバレたり訝しまれたりはしていないようだ。

 

 俺達の視線の先で重々しい扉を開き、部屋の中へと入っていく一行。扉は直ぐに閉まってしまうが、これで向こうとは途絶された。


 微かに詰まっていた息をゆっくりと吐き出し、俺は緊張を消していく。


 「はぁ……焦ったな。まさかこんなピンポイントに会うとは」

 「……ビックリ」

 「ルリの魔法があって助かった、ありがとな」

 「……ん」


 銀髪を揺らして頷く。ルリの咄嗟の魔法が無ければ流石に凌ぐことは出来なかっただろう。向こうが日本人であるなら同じ日本人である俺を放っておく訳が無いし、そうしたらクリスの指示に背くことになってしまう。

 不可抗力とは言え、友達同士ののちょっとした約束事とは全く違うのだ。二つの国に影響があるようなこととなれば、流石に俺も内心は緊張と焦りと動揺で大変だった。


 ルリは少し肩の力を抜くような仕草をする。そうすればみるみるうちに髪と瞳の色が元に戻っていき、どうやら魔法を解いたようだ。


 「……つか、れた。維持が、大変」

 「本当にありがとうな。しかも随分と高度な魔法だし」

 「……色を、変える、となると……魔法の、指定が、面倒だから……光魔法は、嫌い」

 「光魔法に罪はないからそうは言いなさんな。ただルリの魔力操作と魔法の練度には感服するよ」


 光魔法は別に色に干渉する魔法ではない。主に光度に正の方向で干渉する魔法だ。

 色への干渉は光関係なので光魔法の範囲内ではあるが、光を文字通り自由自在に弄ることができる魔法ではないので、その分感覚ではなく様々な条件指定が必要になる。


 ゲームのようにMP、消費魔力が多くなる代わりに強い魔法が使えるなんていう簡単な方法では無いのだ。魔力があっても技術力がなければいけない。技術があっても今度は指定が正確でなければいいけない。


 正直効率でいえば悪い。そう言ったものは、不可能だろうが機械に代替させるべき部分とも言えるだろう。

 

 「ところで、銀髪碧眼にしたのに理由はあるのか? 正直黒髪程じゃないが目立つ気がするんだが」

 「……特、には。強いて、言うなら……黒の、次に、馴染んでる、から……」

 「銀髪と碧眼が馴染んでるのか」

 「……色々、あって」

 

 何故それが馴染んでいるのか。色々、と誤魔化しているのはあまり話すことでもないからなのだろう。

 俺も特に聞くことはない。


 「道理で似合ってた」

 「…………そう?」

 

 その通りだ、と言いたいところだが、身内贔屓が入っている可能性は除外できない。

 

 銀髪に碧眼というのはたかが色の違いではあるが、俺にとっては良い意味でも悪い意味でも無視できないものがある。

 だが似合っていると思っているのは本当だ。そこに嘘はない。


 でもやっぱり、比べてしまうところはあって。


 「……トウヤ、も、似合ってた……よ?」

 「……ありがとうな」


 日本人の俺に、銀髪碧眼が似合う、か……俺は控えめに礼を告げて、視線を逸らした。


 分かってる、ルリの方にはきっと深い意味などなかったし、単なる偶然なのだと。別に不思議なことは何もない。

 

 「さて、早く終わらないかね。というか、終わったら扉が開くのかどうか」

 「……知ら、無いけど」


 意識を切り替えて、巨大な扉を見ながらそんなことを呟く。そこに話題転換以外の意味などない。

 ただ、これ以上それについて話をしたくなかっただけだ。髪色も瞳も関係ない。ルリはルリで、俺もたまたま似合っているだけ。

 

 それで良いだろう。



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 次回もね、現在は体調不良ということで分からないのですが、一応また明後日辺りと言わせていただきます。

 体調不良の何が怖いって、たとえ執筆ができても気分はどうしても落ち込んでしまうので、全体的に明るさを消し去った文調になってしまうのですよね( ̄▽ ̄;)

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