第23話



 最近小説家になろうの作品全然読んでないなぁと思いまして、総合評価が高いファンタジー作品をほんの少しだけ読んでみたんですが、まぁ私と違うもので……うむぅ、私も魅力的な作品が書きたいのですがね。


 もしかしたら最近は読んでいないからこそ、自作品が上手く書けなかったのかもしれないと思い始めたのですが、なんにせよネックなのが読書時間ですよね。

 ちまちま読むにしても時間が……執筆を削るわけにもいかないやら何やらで。


 っと、文字数失礼。少し遅れましたが投稿です。



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 改めてその床を踏んでみるが、今度は抜けることは無かった。てっきり魔法かなんかで穴を隠した落とし穴かと思ったのだが、どうやらあの一回限りだった様子。


 「……迷宮の、?」

 「らしいな。危うく落ちるところだったから本当に助かった」


 ルリに改めてお礼を言いつつ、注視する。やはり特に変わったところはなく、先程の記憶を思い返してみても床に不審な点はなかった。

 丁度魔物の気配が俺にもわかって意識が逸れたところだった、というのもあるが、それにしても随分と巧妙な罠だ。


 日本人である俺がそういった危機に疎いだけ……と考えるほど、俺は自身のことを過小評価していない。

 少なくともこの世界に来て、感覚は研ぎ澄まされているはずだ。


 「ルリは、良く分かったな。思い出してみても全然普通の床との違いがわからないんだが」

 「……私、罠探知、の、スキル、持ってるから……何となく、わかった」

 「罠探知? ……スキルってのはそんな所まであるのか」


 [気配察知]や[魔力感知]ときて、今度は[罠探知]か。


 前者二つは感覚強化の延長線上と言えるが、後者は違う。完全なる第六感に近いような、そんなスキルだ。

 罠と一口に言っても、罠と表されるようなものは沢山ある。どこまでをスキルがカバーしているかは分からないが、確かにそれは随分と有用そうで、同時に俺は悩む。


 迷宮に罠があるという話は初耳だが、意外と言う程でもない。ゲームでもダンジョンに罠が仕掛けられているのはお約束だし、そういった意味では馴染みがあると言ってもいいだろう。


 しかしながら、罠のレベルが先程のようなものとなると、結構辛いところがある。気を張り巡らせて注意しなければならないのだ。


 「俺もそのスキル欲しいな」

 「……そのうち、取れる……?」

 

 スキルの取得方法に関しては曖昧なところが多いが、基本的には対応した動作を行ったり、経験を経たりすることで取得するように思える。


 [罠探知]であれば、罠を事前に自力で見つけるとかだろうか。少なくとも一度や数度程度で取得できるなら他の人ももっとスキルを持ってていいはずで、しかしそんなことは無いことからも、取得難度には個人差があるだろう。


 どちらにせよ、第一層のようにはいかないということで少し大変である。スキルを取得するまではどんな罠があるかも分からない中移動しなければならない。

 他の探索者達はきっと、[罠探知]スキルを持っている人を同行させているのではないか。じゃないとこんな罠、普通にしてて見抜けるわけが無い。

 

 「それを願うばかりだな。取り敢えず、罠に関しては最大限警戒しつつ、魔物の方に向かうか」

 「……ん」


 このまま罠で足止めをくらっていても仕方がない。第一層と比べ危険度は跳ね上がったが、魔物との戦闘だって命の危険性があるのは同じだ。

 それが不意をつかれるものか否かの違い。


 未だ途絶えてはいない気配を追って、しかし先程よりはペースを落として進んでいれば、すぐに魔物とのエンカウントだ。

 残念ながら正面に出てしまったため、不意打ちは出来そうにない。


 『ブルモォォォォ!!』

 

 魔物はこちらの姿を見るやいなや、猛々しい雄叫びを上げた。文字に起こしたら『ブルマ』と聞こえなくも無いがそんなことはどうでもいい。


 見た目はイノシシだ。体毛は青に近く、上を向いた2本の牙が明らかな殺傷力を見せている。

 しかしながら、その大きさは非常識。通路が広くなったので嫌な予感はしていたが、俺よりも高いとは何事か。


 3メートル弱はありそうな体で、当然だがイノシシのような見た目をしているだけあってそいつは猪突猛進とばかりに突撃してくる。

 今回は初見の魔物なので、俺も油断せず剣を引き抜き迎撃の構えを取った。


 とはいえ、本当にそのまま剣で迎え撃つ訳じゃない。あれに当たれば車に引かれる以上の力があるだろう。物理で迎え撃つには辛い質量差だし、受け流せる自信もそこまでない。


 なので、剣を引き抜くと同時に床に魔力を走らせる。


 「『凍域フロスト』」


 発動するのは、床を一部凍らせる魔法。突進してくる相手の足は滑らせてしまえばいい、という割と合理的な考えと思われる案を採用した結果なのだが───魔物は魔力に反応したのかその巨体に似合わぬ跳躍を見せた。


 凍らせた部分を見事に跳躍で回避され、俺の目の前に降り立つ魔物……だが、対応は既にしてある。


 『ブモォッ!?』


 着地の直後、魔物が僅かに体を浮き上がらせた。


 魔物の丁度腹の下を見れば、床から突き上げるようにして出現する鋭利な岩が見えるだろう。『岩剣ロック・ソード』と呼ばれる土属性の魔法は、見るとおり地面から先端の尖った岩を出現させるものである。


 本来であれば足元から対象を突き刺すものだが、どうやら魔物に深手を負わせる程のものではなかった様子。微かに滴る血が、少し腹に食い込んだ程度だと訴えてくる。


 だが足が付かない程度に持ち上げる分には不足無い。あの巨体では少し暴れれば直ぐに壊されてしまうだろうが、既に俺は魔物の横に移動していた。


 「ふっ……!」


 肺から息を吐いて、力一杯に剣をその横腹へと突き刺して攻撃。

 多少皮膚の抵抗はあるが、深く深く、剣の根元まで入り込むほどに奥へと押し込めば、魔物が体をよじって悲鳴を上げる。


 剣の長さは一般的なロングソードと同等。刃渡りは110センチといったところか。

 魔物の大きさを考えれば、中心までは届かない。それでも結構な傷には値するはずだ。

 

 引き抜く際に更に追撃を加えたかったが、魔法で作りだした岩はいとも簡単に破壊されてしまったため、一度離脱。

 予想通り頭部を使った振り払いが俺の居た場所を襲うが、既に一歩離れている俺に届くことは無い。


 代わりにその場で軽く跳躍した。


 魔物の頭を踏み付けるようにその体の上へと乗った俺を魔物は振り落とそうとするが、こちらも無防備な体の上から降りるつもりは無い。


 そうして剣を振り下ろそうとするが、体毛が邪魔をして突き刺さらなかった。ある程度なら斬り裂けるかとも思ったが、予想以上に通らない。

 その間にも魔物は必死に振り落とそうと暴れ回る。このまま耐えることは可能だが、そのうち壁や天井に背中ごと打ち付けられる可能性もあるため仕方なく飛び降りた。


 「『火球ファイア・ボール』」


 しっかりと置き土産は残して。


 空中で魔物に向けた指先から、直径2メートル程の火球が出現する。

 ファイアボールなんてものは定番中の定番と言ってもいい炎の魔法だろう。そしてこれもその名の通り、炎の球を作り出す魔法だ。

 

 毛に覆われた魔物に対して炎を放てばどうなるか───ちょっとした炎なら焦がす程度だろうが、魔法による炎は魔力を燃料にしているため、物質の燃焼を必要とせずに発生し続ける。


 無論、魔法で対策を打たれたり、水の中や真空中などの炎自体が存在できない環境であればまた話は別になってしまうが、ここは炎が存在できない環境ではない。


 背中に火球を被弾した魔物は、その熱に驚いてじたばたと動くが、四足歩行のイノシシに背中の炎をどうにかするのは厳しいだろう。

 燃え続ける炎は魔物の毛にも引火し、広がっていく。別に可燃性であると確信していた訳では無いが、毛なんて如何にも燃えそうなものだ。


 その隙だらけの状態では背後への着地も容易で、勝負はもう着いている判断してもいいのかもしれない。


 ゴロンと背中を床に打ち付け転がる魔物。背中の炎を消そうと必死なのはわかるが、それで弱点である腹を曝け出してしまえばこちらの思うつぼだ。


 「『風斬ウィンド・ブレード』」


 最後に選んだのは、腹を切り裂くのに丁度いい風魔法。こちらも定番の魔法と言えるだろう。


 それを魔物の上に出現させる。出現させると言うよりは、そこから射出すると言った方が正しいのかもしれない。


 鎌鼬のような、透明な風の刃が凄まじい速度で射出され魔物の柔らかな腹を縦に深く裂いていく。


 その勢いある攻撃に、先程俺が攻撃した傷も相まって大量の血液が噴出し、一瞬で魔物の体全体を赤黒く染めあげていく。

 それでもまだ動いてはいたが、もう虫の息ではあるだろう。再度風の刃を落とせば、多量出血かはたまた重要器官を殺されたか、魔物の四肢はだらんと外側に投げ出され、動かなくなった。


 ゴブリン達のような小柄な魔物よりも一段とグロテスクな光景。それはきっと、巨体故の出血量にも由来するのだろう。まるで大量の人間を殺したような、そんな血溜まりの大きさだ。


 今更吐き気を催すことは無いが、やはり見ていて気分の良いものではない。


 「……トウヤ、だいじょう、ぶ?」

 「ん、あぁ。余裕だけど、瞬殺とはいかないなと思っただけだ」


 戦闘中、俺の邪魔にならないよう待機していたルリは、向かい側から血溜まりも気にせず歩いてくる。まぁ、そうだな。多分この世界だとそれが普通なのだろう。

 ただ気づきはしなかったが、顔でも顰めてしまっていたのだろうか。ルリからはそんなことを言われてしまう。


 心配をかけまいと思った訳では無いが、余計なことは気遣わせないように首を横に振り、否定しておく。


 何度も言うが今更なのだ。ゴブリンを殺して平気なら、他の生物を殺しところで同じこと。血の量なんてものは大した意味を持たない。

 

 それよりも、それならたかが魔物一体に数十秒程度かかってしまったことを反省しよう。


 「……十分、早い、よ?」

 「そうか?」

 「……少なくても、トウヤの、レベルなら、一人で挑む、相手じゃ、ない……と思う。冒険者、とかも、普通はパーティー、だし……」


 そう思っていたのだが、ルリからのフォローが入る。確かに、冒険者や探索者は、見てきた限り複数人で行動していることが多い。俗に言うパーティーを組んでいるのだろう。

 俺とルリもそれと似たようなものだが、人数的に違う。四人や六人のパーティーが一番多く、一人で居るものはほとんど見ない。


 危険な仕事をするのに複数人で行動するのは当たり前か……そしてもちろん、戦闘もパーティーでこなすのだろう。

 

 先程の時間なら、一人かつ適性レベルより下であるとすると早い方に分類される、のか?


 「……トウヤの理想が、高い、だけ……戦闘なんて、時間、かかるもの、だから」

 「そういうもの、なのか」

 「……ん」


 そういうものらしい。だが確かに俺は他の人が魔物と戦っているところを実際に見たことがなく、強いていうなれば叶恵や雄平達がゴブリンを倒した時のあれぐらいだろう。

 

 そやため、ルリにそうだと言われればそうなのかと頷くしかない。実際この世界の人間の平均的な戦闘能力を俺はまだ知らないのだ。


 ルリや騎士の人たちを比較にするのは、明らかに間違っているだろう。

 



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 さぁて、次回は明後日辺り。ストックが無い中やりくりしております。

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