第21話


 お色気はまた後でと言ったな……まぁ一応後です()

 いや、本来であればこうなるはざではなかったんですが、よく考えたらここで入れといた方が後々関係構築が更に楽になるなって。


 まぁ、と言いながらも別にお色気という程のものでは無いのですが……。


 あ、一応少し小説家になろうとそれ以外のサイトで描写が異なりますが、ほとんど同じです。



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 夜。ベッドで一緒に寝るというのは、三回目というのもあり最早一連の流れの一つだが、その日はルリが酔っているのもあってか、少しだけ雰囲気が違った。


 酔い、とは言っても、外の空気で多少は醒めたのか、先程よりは理性的な瞳になっている。それでも確実に普段とは違うだろう。


 そして何よりルリは、俺をベッドに引き込むなり抱きついてきた───正面から。


 「っ、ルリさん? 流石にこれはちょっと……」

 「……いい、から」


 珍しく、俺の抵抗の声をルリは遮った。流石に正面から抱きつかれるというのは色々と、そう、体の感触とか滅茶苦茶伝わってきてしまって意識してしまうと言いたいのだが。


 『いいから』と、少女に抱きつかれている俺は果たしてどうしたらいいのだ。振り払うわけにもいかないし、そもそも身体能力を考えればルリの力に抗える気もしない。


 「……今日は、これで」

 「『これで』って……もしかして、この状態で寝るって?」

 「…………そう」


 と、酔いか羞恥か、恐らく頬を微かに染めながらそんなことを言ってきた。

 この状態、ルリに正面から抱きつかれている状態で寝ると、寝ろと言われているらしい。


 一応言っておくと、本当に超至近距離だ。ただルリは、少し俺の事を見ると、俺の胸に顔を埋めるようにしていて、ひたすらにぎゅうっと。


 「……最近、一緒に寝て、ないから……」

 「いや、一緒には寝てただろ」

 「…………くっついては、寝てない」


 なるほど、確かにここ最近はそういう風には寝ていない。ここ一週間近くはハルマンさん達と行動を共にしていたため、くっついて寝るなんてのは出来なかったのだ。


 別にくっついて寝るのを見られるのはいい。そのぐらいならとても仲の良い兄妹と見えなくもないだろう。


 しかしながら、朝起きた時は別だ。宿でも野宿でも、くっついて寝てるとどうしても″事故″が起きる。

 ハルマンさんは大人だからともかく、子供の頃はルナやミレディに見せていいものでもない。俺も本当なら離れて寝るのに賛成だ。


 事故が起きることを当然のように捉えている自分が恥ずかしいが、地球の頃の感覚で寝ているので仕方ない。

 

 いや、そんなことはいいのだ。それよりもルリの口ぶりでは、やはり一緒に、近い距離で寝たいのだろうか。


 「……私は、トウヤのこと、嫌いじゃないから……一緒に寝た方が、安心、する」

 

 そんな嬉しいことを言って、ルリは右手を伸ばした。

 そして、俺の手と自身の指を絡めてくる。


 その暖かく柔らかい感触にゾクッとして、その反射的な動きがルリには抵抗な見えたのだろうか。


 「……大丈夫。変なこと、しないから……」


 説得するように言ってくるが、いやそれは大前提ですから。

 そもそも指を絡めてくるのがもう変なことではあるのだが。


 俗に言う、恋人繋ぎである。手を繋ぎながら寝るのは兄妹というよりは夫婦や恋人だし、この手の繋ぎ方はもうそれでしかない。


 いつもよりも積極的なルリ。果たしてそれは酒酔いのせいなのだろうか、実は普段からこんなことしたいとか思ってるのだろうか。


 今のところ意識しているのは俺だけなのかもしれないし、ルリは単純に人肌恋しいというだけなのかもしれない。

 もちろん、それにしては過剰なところがある。ただそれは、俺への信頼の表れだと考えれば……多少複雑な部分はあるが、嬉しい。


 しかし、嬉しいけども、ということである。嬉しいけどそれはそれ、こちらとしては体の感触や指を絡めているという密着度が非常に───イケナイ。


 「……一週間ぶり、だから……いい?」

 

 そして、顔を僅かに上げて俺を見る。何となく、合ってしまった目が離せなくて見つめ合う形になってしまい、うっと言葉に詰まってしまった。

 

 別に、それ以上のことをしている訳でもない。言ってしまえば、指を絡めて密着しているだけなのだ。

 ただ、男というのはそういう風に考えてしまうものらしい。必死に意識から除外しようとしても、一度過った性的な部分は押し戻せない。


 『いい?』と聞いてくるルリに生唾を飲み込む動作こそしないが、ただそうしてしまいたくなるような仕草だったのは間違いない。


 ───あぁ、あぁわかった、早く寝てしまえばいいんだろう? いつものように。

 そうすることが今の最善の行為だ。起きているから意識してしまうし、意識してしまうから居た堪れない。断りきることすら出来ない。


 意識を無くして寝てしまえば、そういった心配も無くなる。

 

 これ以上変なことを考えないためにも、俺は目を瞑って眠りへと入った。


 幸い、眠気はすぐにやってきてくれて、何だかんだ時間をかけずに眠ることが出来た。





 ◆◇◆





 「えっと、おはよう」

 「…………ん」


 意外なことに、朝起きても事故と言える程のことは無かった。今日の俺は健全モードである。

 夜寝た時の体勢とさほど変わっていないし、ルリとは依然として滅茶苦茶近いのだが、変な場所に手が触れていることも無い。


 にも関わらず、ルリは非常に気まずそうな表情をしていた。

 俺も、気まずい。いやだって、昨日のそれはルリ自身の意識というよりは、酔いの勢いの可能性が強い。


 「……昨日は……その……」

 「いや、気にしてないから。何も言わんでいい」


 例え正面から抱きついてきて、指を絡めて一緒に寝ようが、それ以上のことはしていない。

 よしオッケー、ならば平気だ。お互い気にすることは何もない。しかも酔っていたのなら余計にお互い何も言わなければいいのだ。


 「……うぅ」


 そう理屈ではわかっていても、普通はそりゃルリのように恥ずかしさに顔を隠してしまうわけで。


 そして何やらモゾモゾと動く。


 「…………寝てる時も、なるって、知らなかった……」

 「えっ……待ってくれ、何の話だ?」


 そんな恥ずかしそうに言われても、思い当たるものは何も無い。ルリが気にしているのは酔ったことでは無かったのだろうか。


 見てみればルリの視線は明らかに下がり気味。


 俺は思わず自身の下半身を確認した───もちろん露骨にではなくあくまで感覚で。

 しかしながら、今朝は普通だと思う。にも関わらず、ルリは明らかに俺のを気にして言っている。


 「……その、今日、朝は平気、なんだ」

 「朝?」

 「…………アレ」

 

 間違いないのことだ。確信を持つと同時に、どうやら最初に一緒に寝た時のせいで俺に対する発言のハードルが随分下がっているらしいと把握できる。


 普通に考えたらそんなこと聞いてこないだろうし、ルリも他の人間にこんなこと聞かないはずだ。あとセクハラ発言とも捉えられるし。


 「ま、まぁ確かに平気だけども……というかルリさん? 脚を当てて判断するのはちょっとな」

 「……ちょっと、気になって……」


 最初のモゾモゾはそういうことだったらしい。そもそも当てることに抵抗感は無いのか?

 ローブ越しの足の刺激で少し居た堪れない。


 いやでも、先程の話の流れから察するに、つまりなんだ……俺はもしや、寝ている間にいて、ルリはその……。


 「……私は全然、気にしてない、から……ホント」

 

 どうやら本当にそういうことだった様子。しかし、寝てる間も生理現象ってあるものなのか?


 確か以前に樹からレム睡眠とノンレム睡眠の周期云々とか、自律神経がどうのこうので脈拍や呼吸や血圧がとか、取り敢えずそれらが関係しているらしいという話を聞いたことがある。

 

 夜間もレム睡眠の度になってしまうのだとか。

 

 なるほど、有り得るらしい。いや、そんな冷静に判断してどうする。


 「……それより、起きよ? 今日も、行く、でしょ……?」


 俺が反応に迷っている間に、ルリは相変わらずの感じで起き上がった。目を擦り、乱れたローブを直して髪の毛を自身の手で大雑把に流す。


 先程までの気まずさすら振り払ってのその反応は、素直に敬意を表したい。ルリの思考ではどうやら、それはそれ、これはこれとなっているらしい。


 変なことはあったけども、起きたのならばそれはもう過去のこと。気にしても仕方ないと思っているのかもしれない。

 俺も下手に気にされたら困る。微妙な空気の中なんでもないように行動出来るというのは、ある意味非常に助かる。


 「あぁ、そうだな。今日もよろしく頼むよ」

 「……ん」


 こちらもそこから切り替えることは簡単だ。というより、ルリが切り替えているのだから、俺もそうしなければ情けないというものだろう。


 ベッドから起き上がって、俺も朝の支度を済ませることにした。





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 次回はいつも通り明後日辺り。また迷宮に戻りますので、戦闘シーンが入る予定です。

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