第3話



 実を言えば、ハルマンさんを手伝うかどうかは悩んだことではある。そこまで初対面の俺がする義理もないと思っていたし、お人好し過ぎると分かってはいた。何より俺の目的はここで寄り道をすることではなく、隣国であるヴァルンバへと向かうことなのだ。


 そう、分かってはいたのだが……流石に助けた命を無闇に使われるのも嫌なので、仕方ないではないか。こうしないとハルマンさんは本当に行ってしまいそうだったのだから。


 「ただし条件があります」


 だからそう紡いだのは、言わば建前のようなものだった。無償の手助けをしてしまうと、今後何となくではあるが、必要ないことまで首を突っ込んでしまいそうなので、先に自制しておく必要がある。それを意識的に行うために、簡単な要求を出すことにした。


 「その子達を助ける代わりに、俺達をその馬車に乗せてください。流石にここまで来るので歩き疲れてるので、馬車で移動できるならそれに越したことはありませんからね。もちろん、馬車は直させてもらいます」

 「そ、それぐらいなら勿論いいのですが……逆に、その程度のことで本当に良いんですか? 一人で行こうとしていた私が言うのもなんですが、危険だと……」


 もちろん、そこは分かっている。絶対はないのが人生で、首元に剣でも刺さればそれだけでおしまいだ。即死でなければある程度は回復出来たとしても、どうしても動きが鈍るので、その後の攻撃で死ぬ可能性は十分にある。

 

 しかし、勝算がない訳でもない。出来るだけ気配を殺して、潜入するだけならば、正面から全員を相手するよりずっと楽に事が進むだろう。それならリスクも抑えられる。


 「こう見えて、戦闘は強いんです。本気で行けばあの程度の盗賊は複数人相手でも問題は無いかと……ルリもそれでいいよな?」

 「……ん、トウヤが、そう、言うなら……」


 少しだけ不満そうにしているが、ルリは頷いた。多分、お人好しだとかそんなことを思っているんだろう。

 ここで見捨てるよりは、それでいい。それに、一応馬車に乗せて貰えるならそれもまたメリットなので、問題ない。


 「ということで、任せてください。それに、盗賊の拠点も既に目星はついています」

 「そ、そうなんですか?」

 「先程逃げた盗賊が居ましたよね? その動きを魔力で把握してたんですよ。今はもう感知可能な範囲外ですが、近くまで行けば探るのも容易だと思いますから」

 

 逃げたと思わせて奇襲でもされたらたまったものじゃないので、念の為と把握だけしておいたが、あの分では逃げた先は森の外ではないだろう。森の中で逃げる場所があるとすれば、盗賊の拠点ぐらいしかないはず……。


 もちろん、見つからなかったら見つからなかったで仕方ないと割り切れる。ハルマンさんも無い場所へ行くことなんて出来ないだろう。

 

 「……申し訳ありません。でしたら、お願いできますか?」

 「えぇ、もちろんです」


 最初は流石にと渋っていたハルマンさんも、やがて俺に任せた方が賢明だと判断したのだろう、頷いてくれた。

 




 ◆◇◆




 まずは先にルリに馬車を直してもらい、それから俺は道から外れた森の中へと入り込んで行った。

 

 ルリ自身は行きたそうにしていたが、今回の件は俺が勝手にやったことなのであまり手を煩わせたくないというのと、ハルマンさんを一人にはしておけないこともあって、待機してもらうことにした。


 俺も、ここ一緒に旅をしたことで、ルリの実力は理解している。着いてきてもらった方が心強いだろうが、しかしやはりそれとこれとは別なのだ。

 本音を言えば、女の子に危険な真似をさせたくはない。それが例え、俺よりのだとしても、そう思ってしまうのが男のさがではないだろうか。


 まぁ、あの幼い見た目という理由も多大にあるのだが。


 そうして道から数百メートル程外れた頃、木陰からゴブリンが二体ほど、こちらに気づいた様子もなくフラっと出てきた。


 人通りがあるとは言っても、街の外は基本的にどこに魔物が居てもおかしくないのがこの世界。特にゴブリンなどは、森の中で生活する種族が多いため、街の外にある森はほぼ全てにゴブリンが住んでいると行っても過言ではない程だ。

 目の前のゴブリン達もその例に漏れないようだ。大方食料となる動物でも狩りに来た個体なのだろう。


 丁度そいつは俺の移動方向に居たので、俺は足を止めることなく、むしら早めて一気に距離を詰めた。


 ザザッと草木を踏み分ける音にゴブリンが気づいて振り返った時には、俺も既に剣を振り抜いていた。


 「ギッ───!?」

 

 息も漏らさず、逆袈裟に振るった剣がゴブリンの体を引き裂いていく。振り切った剣を返す必要も無い。一度の斬撃で、並ぶ二体を同時に斬り裂いていた。


 流石に王都の騎士団が使用する剣なだけあって、ゴブリン程度の魔物の体は簡単に斬れてしまう。それでいて刃こぼれもしない。二体のゴブリンは致命傷を負って倒れ、それと同時に、俺は自身の身体能力が実感できるほどにしたことを感じ取る。


 ただその時には丁度地面を蹴ったところだった。明らかに先程よりも増した勢いに制御を取れなくなりそうになるが、それも一瞬。

 立て直して、一度立ち止まる。どうやら先程ゴブリンを倒した時にしたらしいと悟り、取り敢えず自身のステータスを見ることにした。




──────────────────────────


 名前:夜栄 刀哉

 性別:男

 年齢:17

 種族:異世界人


 レベル:11


 《パラメータ》

 【生命力】38900

  【筋力】4400

  【体力】4700

  【敏捷】4950


 

 《スキル》

 ️■武器術

 [剣術Lv.7][槍術Lv.1]


 ■戦闘技能

 [足運びLv.6][先読みLv.7][回避Lv.7]

 [格闘Lv.3][片手持ちLv.6][両手持ちLv.2]

 [剣防御Lv.6][受け流しLv.7][峰打ちLv.1]

 [気配察知Lv.6][気配遮断Lv.6]


 ■属性魔法

 [火魔法Lv.4][水魔法Lv.4][風魔法Lv.3]

 [土魔法Lv.4][氷魔法Lv.6][雷魔法Lv.3]

 [光魔法Lv.3][闇魔法Lv.3][回復魔法Lv.4]

 [時空魔法Lv.5]


 ■魔法技能

 [魔力感知Lv.6][魔力操作Lv.7][魔力隠蔽Lv.5]

 [地形探知Lv.2][高速詠唱Lv.2][詠唱破棄Lv.6]

 [無詠唱Lv.5][無音詠唱Lv.4]


 ■強化

 [精神耐性Lv.4][トラウマ耐性Lv.3]

 [痛覚耐性Lv.1][気絶耐性Lv.1]

 [睡眠欲制御Lv.4][性欲制御Lv.-1]

 [瞬間記憶Lv.7]

 

 ■一般

 [観察眼Lv.8][偽表情Lv.7][徒歩Lv.4]

 [疾走Lv.3][悪路走破Lv.2][速読Lv.5]

 [高速思考Lv.7][連想Lv.7]

 

 ■ユニークスキル

 [成長速度上昇][完全記憶]

 [神童][鑑定][偽装]


 《能力》

 【輪廻転生Lv.1】


──────────────────────────

 


 先程のゴブリンを倒した時にレベルが10から11へと上がり、パラメータも軒並み上昇していた。どうもレベルが上がるごとにパラメータの伸び率は高くなるらしく、かなりの成長だ。


 気になる【敏捷】も、約五倍。前のレベルと比べると500ほど増えていて、その500という数値は明らかな速度の強化を表していた。

 本来ならば先の盗賊に敵うはずもないパラメータ。そこはもしかしたら勇者はよりステータスの恩恵を受けやすくなっているのかもしれないし、俺の素の身体能力が高いことに由来しているのかもしれない。加えて読みの速さと技術の点で勝っていたのだろう。

 

 それはともかく、ここまでゴブリン以外にもオークやコボルトといった森の中に住む魔物を討伐してきたが、それでも数はそう多くない。レベルアップの速度は予想以上に早いと考えていいだろう。

 これも勇者のユニークスキルである[成長速度上昇]の恩恵か……少しだけその場で軽くジャンプをしたりして体の感覚を確かめてから、改めて走り出す。


 スキル[悪路走破]というものを取得してからは、草が生い茂った森の中でも割と簡単に移動できるようになっているため、有難い。

 同様に[疾走]というスキルも走力に補正をかけてくれており、走る場合にのみ限定化して脚力、跳躍力、瞬発力などを強化しているのだろうと考察することが出来る。


 まっすぐ進んでいる訳では無いため体感だが、何にせよ早いことに変わりはない。

 これだけ早ければ、探索も容易だ。常時魔力の感知範囲を広げてやれば、何かしらの生物が引っかかるだろう。何となくで、魔物と人間の魔力反応の区別はつくようになっていたので、その点も問題ない。


 ───ほら見つけた、と俺は一度足を止めて、そちらの方向を向いた。


 「多分これが盗賊の拠点なんだろうが……」


 そもそも盗賊がこの辺りに出没し始めたのはつい先日のこと。建物もないこの場所で、拠点があったとしてどうやって作ったのかは疑問だったが、魔力反応の位置からしてに居るらしい。


 魔法を使えば穴も簡単に掘れる。木を伐採して簡易的な建物を作るよりも見つかりにくく、これまた魔法で補強すれば崩落の心配もないので、確かに作りやすく、住みやすい。


 距離はここから凡そ1キロ。もしかしたら警戒のひとつはされているかもしれないが、魔力と気配を隠蔽しておけば、そうそう気づかれることは無いだろう。


 そうと決まれば、ささっと行ってルリの所へ戻ろうか。


 

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