第14話

 最近の悩み。それは───やたらムラムラすること……ッ!!(ちょっと疲れておかしいです)


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 結果はクリスの顔を見れば一目瞭然だ。そんな驚いたような表情をしなくてもいいじゃないか。

 本人は一応、ポーカーフェイスを保っているつもりなのだろう。普通の人ならそれで十分なんだろうが、動揺が漏れている。


 「……そんなに交流があったんですか?」

 「そう聞かれて安心してる。さっきも言ったように可能性としては五分五分だったが、まぁ、勇者の中じゃ一番交流があったと思ってる……たかが一週間と少しだけどな」

 「それであの方があんなに簡単に答えを出すなんて、どんな魔法使ったんですか……」


 と、呆れたような声を出すクリス。やはり、ルリ〃〃は承諾したらしい。

 

 それにしても、逆にルリはどれだけ物臭で気難しい人間だと思われているのか少し気になる。そもそもクリスのルリに対する対応は単なる役員───という言い方は間違ってるかもしれないが───にするものとしては不適当だ。明らかに特殊な事情が入っている。


 そもそも……クリスのような人物がわざわざルリに対して『あの方』なんて使うのがおかしいのだ。例えばメイドのサラさんを対象にすればわかると思うが、クリスはサラさんに対し『あの方』なんて使わない。

 ルリもまた同様に、城の中でも決して重要な役に着いているわけでもなく、かといって見た目は少女もとい幼女だ。クリスよりも年齢は低そうに見える。


 そんなルリをクリスが他人行儀かつ一定の距離を置いて『あの方』や『彼女』なんて呼ぶ理由───つまり、年齢詐称〃〃〃〃の可能性。


 ……いや、年齢詐称ではないけれど、見た目はまさにそれだ

 それに、定かではない。俺が最初にルリの存在を示した時のクリスの反応は、やはりほかにも特殊な事情がありそうな雰囲気だった。やぶ蛇になっても困るので、その事情も年齢の方も、必要に迫られない限り聞きはしないが。


 「……ともかく、先程言った通り、トウヤ様の外出の件は私が許可を出します」


 そう言ってくれるのはとてもありがたいが、今更ながら、王女とはいえまだ政治にそこまで深く関わっていないであろう人物がそんな簡単に許可を出してしまっていいのだろうか。それも一応勇者に関することで。と、少し気になり出す。

 クリスは笑みを浮かべて俺に安心するように告げる。


 「今はお父様も忙しいですからね。普段なら私にはそこまで裁量権はありませんが、今は先にやってしまえばある程度のことは片付きます。それに、トウヤ様は命の恩人、その認識はお父様も抱いているはずですから、問題ないと思います。問題があっても、責任もってお父様や他の大臣を言い負かします」

 「それはやめといた方が良いと思うが……国王陛下が忙しいのは、魔族の襲撃の件か」

 「勇者のことを秘匿する理由は様々ですが、魔族という敵対している種族の情報を隠すのは人類への離反行為と捉えられる可能性がありますからね。昨日のうちに元首会合が行われる場所へと赴き、現在進行形で各国との情報共有を……今は魔族に襲われた理由を聞かれても、強気に『調査中』と答えるしかないと思いますが」


 勇者の存在は民衆には普通に英雄として映るが、国として見ればまた違くなるから、隠蔽しておく、ということだろうか。政治に関しては疎く、その点は樹の方が得意とする分野だ。


 ともかく、クリスも事後承諾という形で取れるということだろう。もうやってしまったものは仕方ないという言い分で、ギリギリ通らないこともない。勇者ということを見ても、俺自身が強く望んだと示せれば多少は引きを見せるだろうし、結果として強くなって帰ってくるならそちらを望むはず。


 「……それで、トウヤ様はいつ出立を?」

 「早いうちに。もし出来るなら今日にでも出ていくつもりだ」

 「急ですね……いえ、まだ早朝の時間帯ですからね。早く動けば問題は無いでしょうが、準備や、あとは別れの挨拶〃〃〃〃〃などはいいんですか?」

 「あー……まぁ、拓磨には伝えてるし、大丈夫のはず。というより、戻ろうと思えば戻ってこれるから、わざわざそんなことをする必要も無いと思うわけだ」


 ただ、一部例外もいるが。叶恵などは筆頭だろう。俺で精神を安定させている部分も大きく、再び俺が居なくなるとなると、難色を示す。

 いや、だからこそ敢えて何も言わずに行くのか。


 「それに引き止められたら困るし」

 「……もし私が追及されたら本当のことをお話しますからね」

 「どうせその前に拓磨が問い詰められる」

 「サラリと酷いことを拓磨様に押し付けますね……それも信頼あってこそでしょうか」

 「もちろんだとも」


 冗談じみてはいるが、事実その通りであるのは確かだ。


 だから拓磨には最初に話しておいた。慎二とも別れの挨拶をするような間柄ではないし、やはり拓磨経由で後で伝えてもらうのが一番いいだろう。


 今度は死地に行くわけじゃないし。ルリも居ることだし。危険度は随分と低い。


 「準備の方も、俺が特に用意するものもないしな」

 「一応騎士団の予備の装備やら便利な魔道具マジックアイテムを持たせることは出来ますよ?」

 「装備はともかく、道具は嵩張るだろ」


 魔道具マジックアイテムとはその名の通り魔法的な要素を持った道具だが、あくまで道具なので、当然媒体があり、それを持ち運ぶ必要がある。つまり、物が増える。


 手ぶらで旅をするわけにはいかないが、かと言って何か収納バッグ的なものに入れるにしても限度がある。リュックに詰め込んだところで大したものは入らないだろう。


 反対側で笑うクリスを見て、俺はその考えを破棄する訳だが。


 「ふふ、ちゃんとそこも考えてあります。高価なものですが、アイテムバッグという、簡単に言うと沢山の物が入るバッグがあります。もちろん、沢山と言うからには見た目以上のものが入りますよ? ざっと、この部屋一つ分ぐらいは簡単に」

 「……マジか」


 なんて、クリスはこの部屋を見回すようにしながら言ってのける。

 

 アイテムバッグ。ゲームでいえばインベントリ。アニメや漫画でいえば某青いタヌキのあのポケットのような感じだろうか。

 その存在を知らなかった訳じゃないが、とても貴重なものだとも書かれていたので、正直そんなものを渡されるとは考えていなかった。


 「貴重とは言っても貴族や王族なら簡単に手に入ります。単純に高価なだけで、流通自体はありますからね。それがあればある程度持ち物に関しては緩和されると思いますから、魔道具マジックアイテムも含め、王女権限で無期限に貸し出してあげます」

 「本当に助かる。じゃあ早速用意をお願いできるか?」

 「はい。今すぐにでも用意は可能です。サラ」


 クリスが呼びかければ、すぐに扉が開いてメイドのサラさんが入ってきた。ずっと部屋の外で待機していたのだろう、チラリとこちらに視線が飛ぶが、それの意図を図ることはせずに、クリスが魔道具などの準備をするようにと告げてすぐに準備に取り掛かってくれる。

 細かい内容は言っていないが、恐らく何を準備するのかは把握しているのだろう。残念ながら、俺には具体的な魔道具マジックアイテムの種類に関してはさっぱりだが。


 「世話になるな」

 「このくらいはなんてことありません。何より……トウヤ様は遠慮なく私を頼ってくださいますからね。それをとても嬉しく思っているんです」


 頼られると嬉しい。その気持ちは、俺はよくわかる。というより俺こそがそういった気持ちを持っている最もな例だろう。

 いや、もしかしたらむしろ───。


 「……王女様に頼ってるとか、中々不敬だけどな」

 「勇者の支援が出来るのは、王族であれ、とても誉れあることですから」


 思考を切り替え、そういうものか、と俺は頷いておくことにした。本人がそう言うのであれば、あまりこちらがあれこれと考えても意味は無い。

 頼られすぎて迷惑、にならない程度に頼るのであれば、構わないのだろう。


 「さっ、私達も移動しましょう。ルリさんもすぐに準備をして入口で待っているとの事ですから」

 

 何時までも会話していると終わらないと察したか、クリスは話を切り上げて俺に促した。

 そうだな、すぐに準備が出来るなら、もう行っていても問題は無い。本当ならグレイさんやマリーさんに挨拶したりしたかったが、残念ながら時間を取りそうであるし、それでクラスメイトに見つかったらまた厄介だ。

 

 ただら唯一心残りがあるとすれば、やはり蒼太のことだろう。火葬するとのことだが、その日程は知らされていない。というより、そう簡単には行えないのかもしれないが。

 城の中で簡単に済ますことは難しいだろうし、俺としてもしっかりとした、式的なものを経て弔って欲しいとは思う。本来であればそこに俺も同席したかったのだが、日程が不明となればどうしようも無い。そこまで待てるなら、今俺が出る必要も無いのだろうし。


 急ぎすぎている部分は、確かにあるのかもしれないけどな。

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