謎多きクラスメイト
今回ちょい短めです。
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「……少しいいか、夜栄」
「ん───あぁ、慎二か」
声をかけられ、俺は読んでいた本を閉じた。タイトル『魔物に襲われた時の100の対処法』という本だが、普通に役立ちそうな内容だったため思わず読みふけっていた……一分ぐらい。
まぁ、大半は魔物除けグッズの紹介だったりするが。もちろん魔物除けグッズはその名の通り低レートの魔物を寄せつけないものらしいのだが。
それはともかく、不思議なことにその日は、慎二が自分から俺に声をかけてきた。それも図書館だ。
怪訝には思いながらも、顔には出さない。慎二と言えば、前回試合をした時に見せた力は明らかに地球の頃からのものでは無いし、謎が多い。言っては悪いが、才能は拓磨に優ることはないはずなのだ。
クラスメイトであるし、悪意はなさそうなのでこちらからは詮索しないが、それでも声をかけられれば不思議に思う。
「訓練以外でお前が俺に声をかけてくるなんて、珍しいな。何か用か?」
「あぁ」
返答して、正面の椅子に座る慎二。
「前回の試合、あの時も言ったが、完敗だった。正直言って、俺は少なからず夜栄に引き分けぐらいはできると……いや、勝てるとすら踏んでいたんだ」
腕を組み、しかし視線だけは外して言う。確かに慎二は他の奴らよりは十分強いし、頭の回転もそう遅くは無いのだろう。
しかしそれでも、その思いは
「……自分で言うのもなんだが、俺に対して何かを勝とうと思う奴がいるのが驚きだった。あぁいや、バカにしてるとそういうわけじゃなく……お前ら、というかウチのクラスメイトは地球の頃もこっちでも、俺はなんでも出来て、刀哉に勝てるわけが無い、みたいなことを思っている所があったからな。それでだ」
「確かにその通りだ。俺も、夜栄は完璧超人だと思っているからな……だが、戦闘に関してだけはこれ以上ない自信があった。例え夜栄が相手でも、勝てるとは思ってたんだ……実際には見事に負けた訳だが」
勝敗に関してはいいのだ。問題は慎二が勝てると思っていたこと。傲慢になるわけではなく、客観的に評価すれば、俺は様々な面で優れているだろう。そして地球の頃も、本気ではないにしろ、それを申し分なく発揮していた。
例えば俺が慎二に勝った時も、周りの反応は『やっぱり刀哉が勝った』というもので、俺の動きに関しては当たり前のように受け入れている。むしろ『刀哉と互角に戦った慎二が凄い』みたいな感じだった。
戦闘という分野でも、皆は俺の動きを普通に受け入れていた。
しかしそれが慎二は、無かった。クラスメイト全員が認識しているようなそれを、慎二はその時持っていなかった。いや、戦ったあとはまた元に戻ったんだけども。
「戦闘に関して自信があった、か。慎二、お前はこっちに来る前に、何か自信がつくようなだけのことをしていたのか? 例えば、人一倍喧嘩をしてたとか。剣道をやってたとは言ってたが、あれが嘘だってのは気づいてる。となれば、あと戦闘に自信がつくようになるには、喧嘩が強かったとか、もしくは本当に
「……まぁ、そんなところだ。悪いが、そこに関してはまだ詳しくは言えない」
「そうか。別にそこの所を聞くつもりは無いから安心してくれ」
あくまで今のは俺の考えを述べただけで、深く探るつもりはない。ただ、今言ったどちらが正しいのか、それを慎二の顔を見た瞬間に悟ってしまっただけだ。
目を逸らしていても、変わらない。目は口ほどに物を言うが、目だけが情報源でもない。というよりは、そもそも俺はそんな特定部位を見て判断している訳でもないのだが。
ともかく、俺は慎二に続きを促した。今のは俺から聞いてしまったが、本来なら慎二の方がなにか聞きたいことがあるはずだ。
「話の腰を折って悪いな。続けてくれ」
「あぁ、それで、内容は似ているんだが、夜栄の方こそ、何かやっていたのか? 俺はさっきも言ったように戦闘に自信があったし、他のやつに、拓磨や騎士が相手でも負けるつもりはそうそうないが、お前だけは違う。あんな動き、素人には無理だ」
「あー……いや、別に戦闘に関することは何も。ちなみに美咲の道場で剣術を習ってたって話も普通に嘘だ。真剣を握ったのもこっちに来てからが初めてだし、もちろん剣道も授業で少し習った程度……あぁでも、一度訓練が始まる前に十分程度グレイさんに剣術を教わったな……戦闘に関する経験といえばそれぐらいだ」
「……つまり俺は、その十分程度の経験に負かされたというわけか……」
どこか諦観すら見せるため息だった。悔しさとか屈辱感とか劣等感とか、そういうものはなく、『夜栄だから仕方がない』という声が聞こえてくるぐらいのものだ。
「……ともかく夜栄は、それ以外に戦闘の経験は一切ないってことだな?」
「まぁ、そうなるな」
「……そうか。いや、ならいいんだ。お前があまりにも強いから、思わず勘繰ってしまったが、やはり夜栄だから仕方がないらしい」
そうして、そんな意味深なことを告げる。それは果たしてわざとなのか、それともそれこそ思わずなのか、何にせよ慎二はやはり、普通の高校生ではない何かがある。
それは、恐らくは『経験』に関することだ。それも地球の頃にそんな感じがしなかったことから、その経験は最近身についたもので、そして思った以上に
俺に聞きたかったのはそれだけなのか、慎二は席から立ち上がった。
「時間を取らせて悪かったな。あまり気にしないでくれ」
「待て、慎二。最後に一つだけ聞いてもいいか?」
「……なんだ?」
さて、そうと理解すればあとは、一つ考えられる疑問をぶつけてみよう。その反応によっては、深く聞かなくとも納得出来る可能性がある。
「お前は、今
特別深い意味を持たせたつもりもなく、一種のカマをかけるかのように。普通に聞けば、今年誕生日を迎えたかどうか聞くぐらいの形だ。
「……一応、
慎二は少し考えた末、そう答えた。俺が誕生日を知らないと考えた訳ではなく、妥協だったのかもしれない。もしくは隠しても無駄だと悟ったのか。
それだけ聞いて、俺は本に視線を戻した。何も言いはしない。だから慎二もそれで話は終わりだと判断して、去っていった。
───慎二の誕生日は、三月と遅い。召喚されてからも地球の日数として数えていれば、本来であれば、
しかし……どうやら俺達が経験している日数と、慎二が経験している日数は違う様子。
少なくとも一般常識では考えられないようなことが慎二の背景にはあるのだろう。体感日数が違うなんてことは、普通ならありえない。
だが、それをこっちが探るのは良くない。慎二は今、勇者として頑張っている。それがあるから俺は、それ以上の情報も求めなかった。
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