第10話



 ……夜になって、部屋の電気の消し方も教わったのはいいのだが、眠れなかった。


 眠れない理由はまぁあるのだが、参ったな本当に。


 俺はまだ、ホームシック〃〃〃〃〃〃になってはいけない。まだ二日目、誰もそんな素振りを見せていない中、俺だけそうなるのはダメだ。

 昨日寝て、今朝起きて、分かった。俺はこの世界ではあまり寝れない、寝ちゃいけないと思われる。寝たら……辛すぎる。


 俺は仕方なくベッドから体を起こし、電気をつける。


 今日一日の整理をしておこう。明日、少しでも実りのある一日にするために。


 「……鑑定」


 わざわざ声に出さなくても平気だろうが、まずはそれで、自身のステータスを見てみる。



──────────────────────────


 名前:夜栄 刀哉

 性別:男

 年齢:17

 種族:異世界人


 レベル:1


 《パラメータ》

 【生命力】10000

  【筋力】1000

  【体力】1000

  【敏捷】1000

 

 《スキル》

 ️■武器術

 [剣術Lv.2]


 ■戦闘技能

 [足運びLv.1][先読みLv.1]


 ■魔法技能

 [魔力感知Lv.2][魔力操作Lv.1]


 ■一般

 [観察眼Lv.2][偽表情Lv.2][速読Lv.1]

 

 ■ユニークスキル

 [成長速度上昇][完全記憶]

 [神童][鑑定][偽装]


 《能力》

 【輪廻転生Lv.1】


──────────────────────────


 

 スキルのレベルは少しづつ上がっていて、また幾つか新しいスキルが増えていた。

 なるほど、魔力感知能力や、魔力操作能力など、ああいった技能は会得するとスキルとして表れるらしい。

 

 [剣術]のレベルが上がっていれば、そう言えば素振りの途中、急に振りやすくなった気がする。いや、振りやすくなった。


 となると、スキルはやはり該当技術を強化してくれるとか、そんな感じのものなのだろうか。そして中には[鑑定]のように特殊な力を付与してくれるものもあると。


 だが、[観察眼]や[偽表情]と[剣術]のレベルがほぼ同じなあたり、また色々と考察出来そうだ。俺は目に関しては結構自信があるので、レベルが2ってことは……多分だが、無い。ポーカーフェイスに関しては、ものによるのでなんとも言えない。


 それならば、スキルレベルと実際の技術力はあまり関係ないんじゃないかと思う。言うなれば、スキル自体にも『経験値』が存在し、技術力に関わらず、その経験値が溜まるとレベルが上がって、現在の技術力に補正をかけていくとか。


 もしくは、スキルにはそれぞれ最低限必要とされる技術力が設定されていて、それを満たした上でその経験値が入るとレベルが上がる、とか?


 そうでも無ければ、[観察眼]のレベルが2なんてことは無い、はず……まぁこんな考察しといてなんだが、俺はあまりにもスキルやステータスに関して無知なため、的外れな可能性もないとは言いきれないのだが。


 スキルのレベルはそもそも幾つまであるのだろうか。そんなことを色々考えてしまう。


 ともかく、今日把握出来たこととしては、技術関連の何かを行うと、スキルとして入手出来ること。スキルはある程度補正効果があること、恐らくスキルレベルが上がるとその補正効果が上がること。

 その補正が、どんな原理なのかは知らない。ステータスとやらが俺の意識に干渉して、外部から手助けしてくれているのかなんなのか。


 ともかく、現在の[剣術]などの技術力は、素の技術力にスキルの補正を加えたものであるのは間違いない。となれば、俺の元の技術はもう少し低いはずで……。


 スキルの効果のみを一時的に排除出来れば、根元から鍛えることが出来そうなのだが、今は難しそうだ。


 「まぁ、この世界じゃスキルがあるのが普通みたいだし……仕方ないか」


 釈然としない部分はあるものの、俺は取り敢えずそう納得することにした。この世界での技術と言えば、スキルの補正も含めたもののはずなのだから。


 それはそれとして。


 「後は、魔法か……」


 結局、今の今まで魔法は使っていない。最後の一歩手前までの構成は幾つか試して見たが、その最後の一歩は一人になってからやろうと思ったのだ。


 本来ならマリーさんなどに近くに居てもらった方が何かあった時対処してもらえるのだろうが、また明日まで待つのもな……。

 それに一応、マリーさんからは構成は完璧だと言われていた。となれば、そこまで発動は難しくないはず。何せ慎二も出来ていたのだから。


 アイツらに出来て、俺に出来ないことは無い……と断言は出来ないが、それでも劣りはしない〃〃〃〃〃〃

 もし同タイミングで何かを習い始めたとして、俺より先にマスター出来るやつは、それこそ余裕でその分野のトップになれるレベルの天才だ。

 だからこそ、皆が同じスタート地点の中、俺がそれで周りより遅れることは無い。例えそれが魔法なんていう未知の力だったとしても───。


 「………『火よ』」


 同じ構成。今日会得したばかりだと言うのに、魔力の感覚は驚くほど俺に馴染んでいる。


 だから───ボッと、一切の違和感なく、指先に炎が生まれた。


 「何事も挑戦、か」


 正直にいえば、拍子抜けではあった。もっと色々とあるかと思ったら、意外にもすんなり発動してしまった。

 それこそ、暴発なんてしそうにない。指を動かすと、炎も動く。どうやら俺の指先を起点に発動している様子だ。


 これも、イメージ通り。


 ならば逆に、指先ではなく、空中ならばどうだろうか。


 「『火よ』」


 一瞬だ。わざわざ目を閉じてイメージして、構成を辿るなんてことはしない。


 俺の目線の高さ、およそ腕を伸ばした程の距離のところに、先程よりも大きい炎が出現する。

 宙を炎が浮いている。なんと不思議な光景か、これで青白い炎だったらまさしく人魂とでも言うべき見た目。


 しかし……何故か俺の視点が動くと、それも一緒に動いてしまう。


 「……魔法って意外と面倒くさいのな」 


 どうやら魔法の発動地点が『俺から見て視線の高さ辺り』となっているために、こんなことになっている様子。つまり、相対位置ということだ。

 そうじゃない、いや、これももしかしたら使えるのかもしれないが、俺は本当にその場に作りたかったんだ。


 「『火よ』」


 再び、今度は俺を基準にするのではなく、その『空間』を強く意識しながら魔法を発動する。


 そうすれば先程と同じような場所に炎が生まれるが、俺はそっと視線をずらしたり、体を動かしたりして、それがその場から動かないのを確認する。


 ……よし、問題ないっぽい。


 俺は大きくため息をついた。


 つまりだ。今のだと、魔法の発動地点の選択には三種類あるということだ。


 一つ目は、何かに隣接する形で発動する方法。

 二つ目は、相対位置で発動する方法……厳密には前述したのと同じだろうが、隣接していなくてもいいということもあり別の方法として分けましょう。

 そして三つ目、その空間自体に発動する方法。


 つまり、座標とでもいえばいいのだろうか。思ったよりも数学的な見方があるということだ、魔法には。とはいっても、頭の中で計算式を思い浮かべているわけでもないので、あくまで『的な』ではあるが。


 面倒くさいなんて言ったが、慣れればそれも即座に切りかえができるだろう。試しに三種類、何度か連続で発動してみるが、非常にスムーズに、それぞれを発動できる。


 「こんなことならあの時から使っとけばよかったか」


 構成が完璧かどうかは自分では比較など出来ないが、これだけ違和感なく発動できるということは、それだけ魔法に対して適性があるということなのだろう。

 それはイメージの差なのか、記憶力の差なのか、はたまたもっと根本的な違いなのかは知らない。だが初めて使った魔法、まだまだ初歩のものであるのには違いないけども、よく馴染む。


 そうだ、今の状態でステータスを確認したら……。

 


──────────────────────────


 名前:夜栄 刀哉

 性別:男

 年齢:17

 種族:異世界人


 レベル:1


 《パラメータ》

 【生命力】10000

  【筋力】1000

  【体力】1000

  【敏捷】1000


 

 《スキル》

 ️■武器術

 [剣術Lv.2]


 ■戦闘技能

 [足運びLv.1][先読みLv.1]


 ■属性魔法

 [火魔法Lv.1]


 ■魔法技能

 [魔力感知Lv.2][魔力操作Lv.2]


 ■一般

 [観察眼Lv.2][偽表情Lv.2][速読Lv.1]

 

 ■ユニークスキル

 [成長速度上昇][完全記憶]

 [神童][鑑定][偽装]


 《能力》

 【輪廻転生Lv.1】


──────────────────────────



 魔法が、表れている。


 [火魔法]なる文字を見つけ、僅かに気分が高揚する。なるほど、やはり魔法に関しても使えるようになるとスキルとして取得できるようになるらしい。

 

 属性魔法という新たな項目からしてみれば、つまり他の属性に関しても使えるようになればスキルを獲得できるということなのだろうか。


 「試してみるか……」


 ようはイメージの『火』の部分を、他の属性に変えてみるだけだ。


 属性は全部で火水土風氷雷光闇、そして回復時空の十種類。後者は特殊二属性と言われるだけありイメージに癖がありそうだが、前者は比較的イメージしやすい。


 「『水よ』」


 他の属性でも、イメージから魔力操作、そして発動までなんら違和感はない。


 ただそれでもしっかりとやっておきたいので、指を立ててから発動すれば、水は指の上に球状に出現する。

 もちろん落ちることもない。恐らく普通の水をイメージしていたら落ちるのだろうが、今回俺かイメージしたのは『指の上に球状の水が出現する』という内容で、故に水は重力に逆らう。


 試しにもう片方の手でその水球に指を入れてみれば、しっかりと水の感触が。指を引き抜けば当然その指は濡れていたが、引き抜いた際に水球から水が跳ねることはなく、魔法を解除すると、水球の方は消えるが、指に付着した水滴は消えない……。


 「……面白いな、魔法って」


 微かに口元に笑みが浮かぶ。あくまで魔法が発動できるかどうかを試すだけだったが、やり甲斐がありそうだ。

 どうせ寝てもどうしようもない。眠気も去ったことだし、いっその事今夜は魔法に時間を費やしてみるのもいいのかもしれない。


 俺は確かに他人より覚えが早いが、最初からマスターできるわけじゃない。練習に時間を費やすこともすれば、こうやって考察に耽けることもある。


 教師に教わるのは最も効率的だが、独学は固定観念に囚われないというメリットがある。ようはどちらも程々にこなせということだ。


 俺は数度水魔法を使ってみて、それがスキルに追加されているのを見たら、再び別の属性に手を出してみる。属性が終わったら今度は無駄に魔法を発動して属性ごとの構成の違いを見つけてみたり……。



 そうしていれば、時間なんてあっという間に過ぎ去った。

 

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