第9話
戦闘シーンはもうちょいしたら入りますが、それまでお待ちを〜。
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魔力とは魔法に必要な燃料で、魔力操作とは、その燃料を効率よく燃やすまでの工程だ。
当然高度で強力な魔法になれば燃料も増え、その分燃料を効率よく燃やすまでの工程が増える。
まぁ、今は高度な魔法のことは考えなくてもいい。
既に俺は、魔力を感じ取ることまではできている。まだまだ感知能力が弱いのか、本当に漠然とした感じではあるが、何も感じなかった先程までと比べれば、小さくも確かな変化ではある。
そして次の段階として、魔力操作がある。マリーさんの言葉からして、もう少ししたら教えるのだろうが、その間暇なのも事実。別に先にやってしまっても構わんのだろう? とでも言わんばかりに、俺はその魔力操作の会得に着手していた。
言ってしまえば、この魔力を動かすようにイメージするだけなのだ。
体の中にあるもの───例えば内蔵や、血液───は、もちろん自分の意思で操作することなんて出来やしないが、神経やホルモン等は、一部、無意識的にではあるが操作することが出来る。
興奮からアドレナリンを分泌させたりなんてものは、特に分かりやすいかもしれない。意識一つで気分を高揚させることが出来ればそれが可能だ。もちろん、そう簡単に出来るものでもないのは事実だが、不可能でもない。決してできないことはないレベルだ。
要は、それと似たようなもの。そしてこの世界の魔法使いであるマリーさんの感じからして、魔力を操作すること自体は、大して難しいことではない。
だから───出来る。
体内の魔力を、ある一部分、今回は指先に集めようと強く意識する。魔力が腕を通って来るその感覚を、強くイメージする。
そうすれば、その部分だけ魔力の感覚が強くなった。まるで指が熱を持っているような感覚。しかしそれは決して外気に触れることがない。
魔力が指先に集まったのは、確実だった。
「………へぇ、自力でやるんだ」
マリーさんはもしかしたら、俺のその魔力の動きがわかったのかもしれない。感心したように呟いているが、俺は更に
この感覚は忘れないだろう。だからいい、なじませることなんて考えるな。そんなのは
次は魔法を発動する手順を踏む。とはいっても、あくまでなぞるだけだ。魔法をここで発動させるわけじゃない。
あの本には、魔法は『イメージ』が重要だと書かれていた。どんな魔法か、それをイメージすることが大事だと。
だからといって、イメージをすればいいだけでもない。それなら魔力操作なんていう技術は必要ないはずだ。
魔力を
発動しようとするのは、初歩の初歩。先程マリーさんがやったように、ただ火を出すだけの魔法だ。
構成は単純、求められる技量もほとんど魔力を消費するだけと言っても過言ではない程度。だがそれでも魔法だ。
確認をするように、念入りに、それこそ丁寧すぎると言ってもいいほどに、頭の中でイメージする。魔力の操作を、意識する。
どんな操作をしているかと言われても、言葉で説明するのは非常に難しい。だがわかるのは、イメージした魔法に対し
そう───なんら問題なく、俺はゴール目の前まで行くことが出来ていた。
あと一歩、あと一歩進むだけで、恐らく俺は『魔法』という未知なる力を会得したことになる。
しかし………慣れてない俺が隣に人がいる状態で不用意に魔法を発動するなんて、万が一がないとは言いきれないので、そこで意識を戻す。
そうすれば、マリーさんが面白そうにこちらを見ていた。
「ん? 最後までやらないの?」
「……暴発でもしたら危ないですから、一応留めておこうかと。勝手に一人で先に進んで、失敗したら恥ずかしいですしね」
どうやら俺の行動は全て見ていたらしい。なんかこれ目をつけられたかなぁと思いつつも、素直にそう言っておく。
「暴発なんかしようがないほどに
「夜栄刀哉です」
「あっ、君がトウヤ君なんだね」
すると、マリーさんは更に笑みを深めてそんなことを言った。どうやら俺に心当たりがあるらしいが。
「グレイから聞いてるよ~、『レベル1とは思えぬ強さを持った勇者だ』って。なるほどなるほど……納得かな」
「そう、なんですか? ありがとうございます」
合点が行く。それにしても、そうか、グレイさんはマリーさんにも伝えていたのか。余程高評価を得られたということなのだろう。
僅かながらの喜びと照れ。だが照れは俺には似合わないので、喜びだけを顔に出しておく。
別に、高校生男子が照れても何の需要もないだろうし。いや、目の前の人はなんかそういう嗜好ありそうだけど……これは完全なる偏見。
「うんうん、自信もっていいよ。グレイから褒められた上で私からも褒められるんだから、これはもう期待が高まるばかりだね」
何度も頷き、俺の肩をバンバン叩く。痛くはないが、周りから変な視線を受けるのでやめて欲しい。
「なに刀哉、また
「聞くな、お前らより先に進んでいるだけなのです」
クラスメイトがからかうように聞いてくる。今の会話だけじゃ、俺が魔法を発動しかけたという所までは理解出来る奴とそうでない奴で分かれて、こいつはどちらかと言えば理解しているタイプ。
なんでそうやって言えば、笑いと呆れが包み込む。
どうやらクラスメイトにとって、俺がさっさと自力で先に進めるというのは、最早疑うまでもないことらしい。
それだけ俺の高校生活、色々とおかしかったんだろうなって思いつつ、その光景を見ていたマリーさんが再び笑う。
「愉快な勇者だね」
「鬱陶しい感じもしますけどね」
軽口のようになってしまったのはせめてもの抵抗だと思いたい。
◆◇◆
ちなみに最終的に、魔力操作までは全員が会得した様子だった。
ただそれで時間は終了。魔法の発動方法まで進むことは出来なかったが、かと言ってその時間が無駄だったかといえばそうでもない。
魔力の感知は、やはりまだ意識をしなければダメなところがあるが、それもずっと続けていれば、次第に無意識でも出来るようになってくる。
ようは熟練度のような話だ。魔力感知にも程度があり、マリーさんによれば、熟練者は半径数百メートル近くの魔力を常に把握出来るのだという……つまり、魔力を持つ生物の動きも感知できるということだ。
一種の索敵能力だろう。今の俺たちは、『なんか右側に魔力を感じるな』ぐらいしか分からないが、それも正確な距離や数、魔力の強さ等も把握出来るようになってくるらしい。
だから常に意識して魔力を感知するようにしていたら……あの間だけで、すっかり染み付いてしまった。慣れるの速いね。
お陰で最初よりは格段に魔力を感じやすくなっている。それでも、これで満足はしない。上がある限り目指すのが普通だろう。
そして午後の授業が終わり時間は恐らく5時か6時頃だろうか。夕食の時間が挟まれ、その後は待ちに待ったお風呂。
俺は今朝にグレイさんの厚意によって騎士団兵舎の風呂を借りていたが、実際には丸一日風呂に入っていないのに加え、午前中は汗を沢山流したわけで、男子も女子も思った以上に喜んでいた。
「ふ~っ……なるほどなぁ、『
ここに同じように設置されているシャワーのようなものだが、風呂に入る前に説明してくれたメイド曰く、壁に埋め込まれた石は『魔石』と呼ばれる石で、それに触れると魔力が吸われ、『
ようは魔石がスイッチ、魔導回路はコードで、魔法陣が本体というわけだ。スイッチをオンにすればコードを電気が流れて、本体が起動すると。
科学ではないが、ハイテクノロジーだ。
そうやっていると、樹と拓磨が浴槽に入ってくる。樹は一見細身だが、分かる程度に筋肉はあるし、拓磨も見るからにムキムキという訳ではなく、引き締まった体躯をしている。
「よーっす、二人とも今日はおつかれさん」
「お疲れさんお疲れさん」
「あぁ、お疲れ様。お前は今日も、いつも通り刀哉らしい感じだったな」
「それはどういうことだってばよ」
なんだ俺らしいって。そんな特徴的なことしたか?
風呂の中、響き渡る水音にかき消されないよう、割と大きな声で喋る俺達。周りも周りで似たような感じなので迷惑にはなるまい。
「あーね。いつも通り、お前は一人突っ走ってたなぁ……午前は騎士団長、午後は魔法師団長に褒められてときたら、いつも通りとしか思わんだろ」
「ハッハッハ、天才で悪いな」
「本当にな。恐らく勇者として最も期待されていたのは、自意識過剰でなければ俺のはずなのだが、明らかにお前が今一番期待されている」
「それはなんかすまん」
確かに拓磨は一人だけ明らかに『正統派勇者』とでも言うようなスキルに能力? を持っていた。
スキルを最も多く所持していて、誰が見てもアイツが一番強そうと思うような感じなのだが。
「なに、むしろ有難いぐらいだ。リーダーとしてならともかく、実力の方まで完璧を求められては、俺も過労で倒れかねない。だがお前が上にいてくれるなら、俺は少し楽を出来そうだ」
「楽すんな。俺を抜かすぐらいの勢いでこいや」
「お前を抜かすといえば、そういや慎二が今日は目立ってたな」
樹が思い出したように、視線を向けた。そこでは、普段はどちらかといえば一人でいる慎二に絡む、クラスメイトの姿が。
そう言えばあの後、午後の授業中に、慎二のみ魔法を発動出来たのだ。魔法の発動に関する説明は受けたいなかったにも関わらずだ。
周りの奴らは、その前に俺が魔法を使えていたような会話をマリーさんとしていたから、大きな騒ぎにはならなかったが、それでも慎二は確かに目立っていた。
「刀哉は元から天才でヤバすぎるって認識が俺らにはあるから、別に何しようが呆れで済むが、慎二は別だからなぁ。まさかな、体力も拓磨よりあって、魔法すら発動しちまうんだから、分からないもんだ」
「うむ。話を聞いたが、本人は『たまたまだ』と言っていたな。身体能力はこっちに来てから何故か急激に上がっていて、魔法も何となくやったら出来たそうだ」
「……なるほど」
つまり慎二自身、戸惑っているわけだ。話を聞く限りならば。
だが、引っかかるのは、午前中に向けてきた視線。午後も背後から感じてはいたが、それとは何も関係がないのだろうか。
まさか俺をライバル視しているなんてことは無いだろう。それならもっと向上心や闘志のような感情が
無いということは、少なくとも俺に勝とうとしてるとか、蹴落とそうとしてるとか、そういう訳では無いということだ。
それに、あの時見た慎二は、自身の身体能力に戸惑いなど欠片もなかったように思える。感情を表に出さないにしても、俺が少しも分からないなんてことはほぼ無いはずなので、それを考えれば……。
「怪しいなぁ……」
「慎二が?」
「俺の勘が告げてる。あれは多分、実力を隠してる系主人公だ」
「お前が実力を出し切れない系主人公なのに対し、向こうは隠してる系か」
「なんだ、実力を出し切れない系って」
初めて聞いたぞそんな言葉。
「本当は熊も余裕で倒せるのに、相手がそこらの不良ばかりでは、自分の実力も出し切れないだろう。まさにそういう事だ」
「いやいや、普通なら熊なんて無理だろ」
「だがお前は普通じゃないからな。勝てないとは言わないわけだ」
「……流石にどうだろうな」
言葉を濁しつつ、もう一度慎二の方を見る。
どうやらクラスメイトにせがまれて、仕方なく指先に炎を作り出している姿が。その顔には苦笑いだが、同時に苦労も僅かに覗ける。
元々他者と積極的に関わるタイプでは無いはずだから、それで疲れを感じているのだろうが……魔法の扱いを苦にしている様子もない。
「まぁ、実力隠してるならそれはそれでいいかもな。もしかしたら、頼りに出来るかもしれない」
「……これはもうアレなのかね、俺の認識のせいなのか知らんが、どれだけ凄くても、刀哉を越えられるとは思えんのよね~」
「俺を超人か何かと勘違いしてないか?」
「少なくともその認識は間違いではないだろうな。そうでないと、俺達は全員凡人以下になってしまう」
拓磨の言葉に、ため息。分かってる、分かってますよ、確かに俺は凄いねうんうん。
全く、こいつらも十分、フィクションみたいな存在だと言うのに。片や全テスト満点で高三どころか大人相手にすら知識で負ける事など有り得ないと思えるような樹に、片や頭脳明晰運動神経抜群、クラスの委員長で部活の助っ人役でもあり、生徒会長も務める完璧な拓磨だ。
「お前らも早く、魔法使えるようになってな」
「はいはい、その頃にはお前はまた一歩先に進んでるだろうよ」
樹の言葉に、再度俺はため息をつくしかなかった。
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