第2話


 結局一人では実りのない思考がループするばかりで、現実味のない現状に、本当に夢でも見ているのかと何度も錯覚に陥りそうになった。


 一度いっその事寝てしまおうか。そう思ったが、見計らったかのように部屋の扉が控えめにノックされた。


 『勇者様、食事のお時間でございます。食堂までご案内しますので』

 「……分かりました。すぐに出ます」


 外から呼ばれ、俺はそう答える。扉の外からだから確実とは言えないが、先に案内した人と同じメイドだろうか。


 外に出て顔を見てみるが、予想は当たっていた。ただ、面白いくらいに無表情なので俺はそっと視線を逸らす。

 年齢の程は20代前半に見える。とても若そうで、美人でもあるが、その無表情さが少し不気味さを持っていた。


 彼女の後ろをついていく。一人一人案内しているのか、たまたま俺が最後なのかは分からないが、廊下には知り合いなどおらず、たまに他のメイドを見る。

 結果として食堂につけば、もうほとんどのクラスメイトが、複数ある丸テーブルに好きなように着いていた。基本的には仲のいいグループだ。そりゃ、こういう時、仲のいい相手と一緒にいたくもなるよな。


 メイドを見れば、席に座るよう促していたので、俺は───クラスメイトなので全員見慣れているが、その中でも特にという意味で───見慣れた顔のあるテーブルへと着くことにした。

 黒髪に、少しだけ目にかかる前髪。腕を組んで座っているそいつの元に。

 

 「うっす」

 「───ん? おう、刀哉とうやか。うっすうっす」


 声をかけながらそこに座れば、友人である如月きさらぎいつきは片手を上げて応えてくれた。

 だがその瞳は、先程まで閉じていたのかメガネの奥でほんの一瞬焦点が定まっていなかった。

 どうやら少し眠っていたのか考え事か、どちらかをしていたようで、俺が声をかけるまで気が付かなかったらしい。


 「悪い、なんか邪魔したか?」

 「んにゃ、気にせんでくれ……正直混乱してっから、ゆっくり、一つ一つ把握してただけみたいな感じだ」


 あぁ、と納得したように頷く。確かに今の状況、正常に判断出来るやつなんてなかなか居ないだろうなと。


 補足しておくと、樹は頭がいい。それこそ、フィクションに出るような化け物までとは言わないが、知識は並の高校生を遥かに上回り、高校入学以後全てのテストで満点を取る程までに。

 

 当然それは記憶力だけの話じゃなく、頭の回転も異常なくらい早い。のだが、かといって常に冷静でいられるかどうかは頭ではなく精神に依存する。高校生に、こんな意味不明な状況で混乱せずにいろというのが無理だ。


 かく言う俺も、冷静冷静と落ちついた思考を心がけているつもりであるが、実際に少しも混乱していないで落ち着けているか、と聞かれたら自信を持って頷くことは出来ない。

 あくまで緊張や困惑に気づいていないだけかもしれないし、視野が狭まっている可能性も決して否定できない。


 数秒の沈黙。やがて樹は、神妙な面持ちで口を開いた。


 「……これって、俗に言う異世界転移っていうやつだと思っていいのかね……?」

 「少なくとも俺は、それ以外に想像がつかないと思っている。樹はどうだ? 何かこの状況に当てはまりそうな可能性があるか?」

 「一応、色々考えてみてはしたんだが……無いな。だからフィクションのはずの異世界転移なんて言う言葉を持ち出したんだ。正直非現実的過ぎて、今こうしている時も現実味が無いわな」

 

 口調こそおどけているが、割と真剣に悩んでいるようだった。


 「……はぁ。ホントに、信じられねぇ……もしそれが本当だとして、俺達はこれから……どうなる?」

 「勇者云々の話のことか」


 あの王女は、俺達を召喚して、魔王を倒してもらおうとしていた。実際に倒して欲しいと頼まれた訳ではなく、あくまで、過去の伝承ではそうなっていると聞かされただけだ。

 だがあれはつまりそういうことだと、誰もが認識しているはず。


 「俺だってラノベは読むから、この手の展開がそれそっくりだってのには気づいてる。じゃあこのあとの展開もそれ通りか? 物語の主人公なら強い力を貰うか、最初は不遇だけどそれを覆す何かを持ってるとか、そんなのがあるが……それがこの状況にも当てはまるかって言ったら?」

 「ま、不安にもなるな」

 「お前は良いよ、なんでも出来るし」

 「何でもは無理だ」

 「でも大抵の事はできる」


 それには頷きも否定もしなかった───出来なかった。

 代わりに話を続けることにする。


 「まぁ、今考えても仕方ない。望み薄だが、まだ戦うと決まったわけでもなければ、帰れないとも言われていない。せめてそこがハッキリしてから悩んだ方が実りがあるんじゃないか」

 「そうは言うけどなぁ……だってこれ、ようは拉致状態なんだぞ?」

 「だから、下手に動いてもどうしようもないんだろ」


 先の友人を思い出す。あの時あいつは、首を横に振った。あれはそのまま今は動くなという意思表示だろう。

 俺もそれがいいと思っている。動かない方がいいのか良くないのか、そんなものは時間が経たないと分からないが、動くことと動かないこと、失敗した時にリスクが大きいのは前者だ。

 少なくとも今は俺達は丁重にもてなされている。与えられた部屋は豪華だったし、この食堂だって気品を感じさせるような内装だ。テーブルクロスや椅子の質などからもそれは分かる。


 こちらの意思表示ができるタイミングまでは、大人しくしておいた方がいいだろう。


 「───やっほー刀哉君、樹君。どうしたの?」

 「ああ、叶恵に美咲か。いや、これからどうなるんだろうなって、樹と話してただけだ」 


 二人して少しネガティブな考え事をしていると、横から声をかけられる。振り返れば、そこには俺の幼馴染みの神崎かんざき叶恵かなえと、その親友である柳井やない美咲みさきがいた。

 

 ちなみに叶恵は誇張なしで、超がつく美少女である。学校のアイドルと言ってもいい。こうしてわざわざ説明するくらいには。

 その、腰まで届く長髪は空気を含んだようにふわりとしていて、顔立ちは当然のように整いすぎており、その上性格も良いという非の打ち所のない存在……なのだが。そんな相手と幼馴染みである俺は、こうやって何気なく話す度に少なくない嫉妬を男子連中から向けられてしまう。


 慣れてはしまったが。まだそうやって嫉妬を向ける程度には、皆混乱しながらも余裕があるということだ。

 

 またその親友である美咲は、髪をサイドテールに縛った美少女だ。

 叶恵と違うのは、叶恵がゆるふわ天然系、というと本人は少しだけ不満そうにするがそれであるのに比べ、美咲はクールお姉様系。

 凛とした雰囲気は、カッコ良さすら持っている。


 「えぇ、相席いいかしら」

 「おーどうぞどうぞ」

 「ありがと」

 

 そう言って俺と樹の反対側の椅子を指す美咲に、樹が手で促した。

 そうすれば、余った席はあと一つ。

 

 「ところで、拓磨たくまは一緒じゃないのか?」

 「もう少しで来るんじゃないかしら? 多分だけど」


 俺は美咲の幼馴染みである、城処きどころ拓磨たくまの所在を聞く。


 拓磨───学級委員長であり、クラスのリーダーのアイツ。文武に秀で、俺の見立てではクラスで一番精神的に安定している存在。

 

 美咲の言う通り、拓磨は直ぐにやってきた。茶髪の髪の毛がサラサラとしている爽やかイケメンは、俺達のことを見るなりその空いた席に座った。


 「遅かったな」

 「あぁ、待たせて済まない。どうやら俺で最後らしいな」

 

 フッと笑って、すぐに戻す。拓磨が席に着いて直ぐに別の扉からメイドが複数人、ワゴンに食事を乗せて入ってきたからだ。


 「皆様、只今より配膳致しますが、まだ料理には手をつけないよう、よろしくお願いします」

 

 先頭に居たメイドが礼をすると、さっささっさと食事がテーブルに置かれていく。もしやと思うが、あれか、身分が一番上の人着最初に食べるみたいな。

 ということは、部屋の一番奥にある豪華なテーブルや席には王様か王女様か、そこら辺が座るのだろうか。


 そうやって運ばれてきた料理を見るが……皿の大きさに対して、基本的に乗せられている料理が少ない。そのくせ皿の数は多く、あと肉も多い。


 なんとなく、全体的に高級レストランの食事のようだ。実際にはほとんど行ったことないのでイメージでの補填もあるが。

 匂いからして、味付けは濃いのだろう。家庭的な温かみは無いが、美味しそうなのは確かだ。調味料がふんだんに使われている。また肉は多いが、サラダも一応ある。


 ちなみにフォークとナイフはそれぞれ一本ずつだった……複数本出されたらマナーとかどうしようと考えたものだが、そもそも複数本出されたとしても、地球のマナーが通用するとは限らない。

 なんせ俺達は、ここが地球ではない可能性を疑っているのだから。というか地球のどこに『勇者』や『魔王』なんて言う言葉を使う国があるんだ……国が……うん?


 そういえば王女やメイドが話していた言葉は日本語だなと、今更ながらに思う。それも流暢すぎる。イントネーションもまんま日本語で、おかしな所など何も無い。


 ……やはりここは、実は日本なのだろうか。一瞬そんな考えが過ぎるが、何度も言うように、最初に俺たちが瞬間的に移動した方法が分からずじまいだ。それをどうにか現実的な理由で肯定できないと、ここが日本で、この人たちが言っている話は全てデタラメだと思うことは出来ない。

 ただそれでも、喋っている言葉が日本語であることはやはり気にはなる。もしこれで文字まで日本語で、漢字すら使われているようであれば……おかしいと言わざるを得ない。


 「ガルフレド・フォン・ルサイア様、及びクリス・フォン・ルサイア様がお見えになられました」


 そんな思考に沈み切る前に、メイドが言った。


 これまた別の扉から入ってきたその中年の男、と何時までも言っていると失礼だが、恐らくこの国の王様と、その娘であるのだろうクリスという王女はそのまま豪華なテーブルへと着く。


 今度は王女ではなく、王様が口を開いた。

 

 「勇者よ、待たせてしまって済まない。色々と聞きたいことはあるだろうが、まずは遠慮なく食事を取ってくれ。和んだところで、話そうではないか」


 まずは在り来りな、しかしそれに続くのは、意外にも寛容な言葉だった。

 とはいえ、そんなことを言われたところでじゃあ遠慮なく、なんて簡単に食器を動かすことは出来ない。相手は王様。その位が実感出来なくとも、圧倒的に立場に違いがあるのは皆が反射的に理解しているはず。

 

 「警戒されているのかも知れませんが、ご安心ください。料理に毒など盛ってはいませんし、どうしても不安ならば、メイドに毒味をさせましょう」


 俺たちがそれを、料理を警戒しているという風に取ったらしい王女がそんな助け舟を出してくるが、残念ながらやぶ蛇であった。


 平和な日本生まれの学生が毒など気にするはずもないというか、思い至るはずがない。今の一言はむしろ、意識させてしまうだけだ。

 それでも、流石にそんなことをするはずがないと誰もが無条件に思う。俺だって、何度考えても流石に毒なんて入れるはずがないという結論を出す。出してしまう。


 ただ本当に食べていいのかどうか不安な中、我らがリーダーである拓磨は、サッと席を立った。


 「陛下、王女殿下」


 突然飛び出た言葉に、一瞬呆然となる。


 「……貴殿は?」

 「城処拓磨と申します。恐れながら、御二方に申し上げたいことが」

 「構わぬ。続けよ」

 「はっ。私共は勇者として召喚される前は単なる学生でありました。それ故、高貴な方々が身につけていらっしゃる礼儀作法、マナーに疎く、食事一つとっても、陛下や王女殿下にとってはご不快になられる場合があるかもしれません」


 そのまま、何ともまぁ堂々とした、それでいて不快にさせない声音で拓磨は言った。正直俺も、俺以外も、すらすらとそんな言葉遣いができる拓磨に驚いていた。


 つっかえることも無く、違和感もなく、気張った感じもせずまるで自然と、もちろん緊張すら感じさせずに。拓磨の言葉に、王様は鷹揚に頷き、王女が笑顔で返した。


 「ご心配には及びません。私もお父様も、そのようなことで不快に思うほど器の狭い人間ではございませんわ。むしろ、皆様を無理矢理召喚してしまったことを考えれば、私達が謝罪をしなければならないのですから……」


 最後には申し訳なさそうに声が少し小さくなる……どうやら、向こうもその点に関しては気にしていたらしい。

 これを素直に信じるべきか、はたまた疑うべきか、少なくとも拓磨は波風をたてぬよう「そんなことは」と首を振って遠慮を示した。

 俺も、王女の見た目が美少女というのもあるだろうが、それ以上に明らかに歳下の女の子にそんなことを言われて、それでもなお無理やり連れてきやがってなんて憤ることは難しかった。


 そこに、王様が王女の言葉を引き継ぐ形で口を開く。


 「うむ、そうであるな。勇者よ、此度は貴殿らを勝手に召喚したこと、謝罪する。済まなかった……」


 わざわざ席から立ち、頭を下げて。これには拓磨も動揺するが、王様はすぐに顔を戻した。


 「しかし、余は貴殿らを召喚したこと自体は、後悔していない。何故なら余は───王だからだ。国を治める存在だからだ。だからこそ、国のためならば、例え非道なことでも、仁義に欠けることであっても、決断しなければならないと思っておる」


 そして、もう一度頭を下げた。今度は、謝罪ではない。


 「だからどうか、この国のために、いやこの国だけではない。この世界のために、力を貸してほしい」


 ───それはどこか、綺麗事に聞こえた。

 それは俺だけだったのかもしれない。謝罪はした。だが自分の立場からしてこうするしか無かった。こうしなければならなかった。それをわかって欲しい。そして力を貸してほしい。

 都合のいい話、とも言えるだろうか。だがそれでも俺は、あぁ、そこまで言うなら仕方ないかなと思ってしまった。


 自分を当て嵌めた時に、諸々の環境などは想像できないが、それでも自分なら同じようにするだろうなと分かって、少なからず同情してしまった。正直にそこを明かすことは真摯に向き合っているようにも思えたのだ。


 他の皆も思っているだろう。樹や拓磨までは分からない。だけどそれ以外はほとんど。

 嘘かどうかも、分からないけれど。


 「……お父様、お顔を上げになって。王であるお父様がそう簡単に頭を下げられては、下々に示しがつきませんわ」

 「だがな───」

 「ここは私が、代わりに頭を下げますから……勇者様。私からもお願い致しますわ」


 王様の代わりに、王女も続けて頭を下げる。結局のところ、そんなことをされれば残された道はほとんどない。


 見事に、退路を〃〃〃断たれた〃〃〃〃……そう思ってしまった。そう感じてしまった。


 ただ、別にそんな疑ってかかっている訳でもないのだ。王様や王女の気苦労なんて、俺達には想像も出来ないし、自然にそんなふうに、自分の有利な方向に話を運んでしまうのも仕方ないように思える。

 

 拓磨がそれに対し僅かな逡巡をするが、すぐに決めたらしい。


 「お顔を上げてください……分かりました。私達にできることであれば、お手伝いします」

 「……タクマ様」


 王女が感涙に咽ぶ寸前。拓磨は矢継ぎ早に告げた。


 「ですが、これだけは約束してください。何があっても、それが例え、勇者として活躍できなかったとしても、私達のことを庇護下に……保護して下さると。命を、人権を、尊厳を守ってくださると。それを約束してくださるならば、私達は力を貸します───そうだな?」


 初めて拓磨は、クラスメイト達の方に、俺の方に振り向いた。ここだけはどうしても意見を聞かなければならない。先程までは成り行きで拓磨が話していたが、リーダーだからといって無責任に決めてしまうことは出来ない。

 だが、俺は感情や気合以前に、この話にはまず頷かなければどうしようもないと感じていた。助けなきゃとか、仕方ないとか、そういう話の前に……今このタイミングで断ることがどれだけ相手に不満を与え、不確かな自分たちの立場を不利にするのか分からなかったからだ。


 それに、恐らくそれも見越して拓磨は言ったのだ。俺達の保護を条件にして欲しいと。それも命、人権、尊厳といった、他に解釈のしようがない具体的な内容まで述べるという、ちょっとした小細工までして。


 所詮口約束、然れど約束。当人が端から騙そうとでも思っていない限りそれは力となる。


 率先して俺が「勿論だ」と声を上げると、他の奴らも「おう!」とか「当然っ!」みたいな反応をする。樹も、叶恵や美咲も、頷いて肯定を示していた。


 「───ということですので……王女殿下、そして陛下」

 「皆様は勇者ではありますが、大事なお客様でもあります。予期せぬ来訪者ではなく、望んだ救世主……私達の力が及ぶ範囲ではございますが、例え戦えない、戦えなくなったとしても、最大限の便宜を図り、守りましょう」

 「あぁ、余も一国の王である。それにこれは、損得勘定で見ても、貴殿らはしっかりと守るべきだと考えている。感情面でも打算的な意味合いでも、余は、我が国は、貴殿ら勇者を保護することを約束しよう」


 知らずのうちにそんな力強い言葉を貰うことになっていた。そこに、嘘はない。それは分かった。見ていて、王様の顔にも、王女の瞳にも、曇りはなかった。


 王様の言うように打算的な思考は実際あるだろう。だがそれでも、今言った約束を違えるようなことはないと感じ取れる。


 「感謝致します、陛下。王女殿下。なれば私達も、勇者として相応しくなれるよう全力を尽くします」


 拓磨が最後にそう締めくくることで、話は終わった。王様も王女も、感謝するように頭を下げその後は悪くない雰囲気の中食事をすることとなる。


 なんというか……敵わないなと。拓磨の咄嗟の機転と言うか、思考というか、そういうのはやはり簡単には真似できそうにない。

 月並みではあるが、素直に凄いと。


 もしかして俺達が勇者として召喚された理由は、こいつが居るからじゃないだろうかと思うぐらい、見事な振る舞いだった。

 

 「───でも、た、拓磨っ、あの言葉遣いって……」

 「ちょ、ちょっと、笑っちゃうよね……ふふふっ」

 「二人とも、頼むから笑わないでくれ……俺も、ほとんど無意識に近かったのだ。刀哉、樹。お前達なら、分かってくれるであろう? 俺は十分頑張ったと思うのだが」

 「いや、その……頑張ったのは知ってる、けども」

 「んぁー……すまん」


 ただやはり、高校生がいきなりあんな喋り方をするというのは、それも知り合いがというのは少し。いや本当に少しだけな、肩を震わせてしまった。

 普段から硬い口調の拓磨だったが、あんなにすんなり出るほどだとは……我らがリーダーは、珍しく恥ずかしそうに視線を逸らした。




 ◆◇◆




 「お食事後で申し訳ございませんが、皆様にはステータスを確認して頂きます」


 やはり味付けの濃い料理で中々美味しかった食事が終われば、メイドさんが食器を下げた後に、そんなことを言ってきた。

 王様と王女は座っている。進行はメイドに任せるらしい。


 「ステータス……ですか?」

 「はい。ステータスとはこの世界における〃〃〃〃〃〃〃〃、個人の強さ、技術、各パラメータ等を表す情報のことでございます。こちらの板、『ステータスプレート』と呼ばれる道具を用いて、皆様のステータスを確認して頂きたいのです」


 つまり、ゲームのようなもの、ということだろうか。ゲームのキャラは様々な能力値を数値化、文字化してプレイヤーに伝えてくれる。

 そんなシステムがこの世界にはある、と。確かに異世界もののラノベやら作品やらでは、ステータスというものがあるのは珍しくないのだが……。


 そう言ってメイドさんは、一枚の板をワゴンの上に乗せた……良いんだろうか。食事乗せるやつでしょそれ。いや、良いのだろう。


 パッと見では板というか、石版というか、少し厚みのある岩石系統の板だ。重いとまではいかないと思うが、軽くはなさそうである。

 メイドさんは早速、拓磨に声をかけてその板を触るようにお願いした。拓磨を指名した理由はまぁ、リーダーというのが他者から見ても分かるからだろう。


 拓磨が板を手に持つ。するとまるでタブレットのように表面に文字が浮かび上がった。マジックで綺麗に書いたように、とても見やすい字で。



 「なんと、これは……」

 

 

 それを見た王様が、驚愕に似た声を漏らした。



──────────────────────────


 名前:城処 拓磨

 性別:男

 年齢:17

 種族:異世界人


 レベル:1


 《パラメータ》

 【生命力】10000

  【筋力】1000

  【体力】1000

  【敏捷】1000

 

 《スキル》

 ️■武器術

 [剣術Lv.1]


 ■魔法

 [光魔法Lv.1]


 ■ユニークスキル

 [成長速度上昇][聖剣術Lv.1]

 [全属性適性][全属性耐性Lv.1]

 [鑑定]


 《能力》

 【勇者Lv.1】


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