No.12 病院
これはある研究所での独り言である。
「…喰らうパンドラの箱(アップイーター)で無差別にあの2人の周りを荒らせば、彼を崩せると思っていたが、そううまくはいかないな。喰らうパンドラの箱(アップイーター)はあの幻獣が入った箱がヒメカの半径5m以内に入ってからちょうど誤差なし5分後に能力が解放されて幻獣が起動する仕掛けになっていた。うまく不意はつけたが、簡単にはいかないな。次の手を使おう」
モニターを見つめている人物は淡々とした分析をしていた。
その人物は言葉とは裏腹な目をしていた。
このモニターを見る者は何を考えているのだろうか。
「ヒメカ…」
場面は移り、ここは病院。
スースー
レイドは窓際にあるベットで健やかに寝息を立てていた。
スースー
ヒメカも横の椅子に座り、レイドの寝ているベットに顔を伏せて就寝中である。
「んっ」
レイドが目を覚ます。
「はっ」
レイドは勢いよく上体を起き上がらせる。
「・・・ここは病院か」
レイドは周りを見渡す。
ベットに突っ伏して寝ているヒメカの様子が視界に映る。
(俺は確かオーラを使い過ぎて倒れたんだったな)
「んんっ…ふぁ〜。あ、レイド起きたんだね!」
ヒメカも目覚め、すぐに視界に入ったレイドが起きていることに気づいた。
「ああ…今日は何日だ?俺はどのくらい寝てた?」
レイドはヒメカに問いかける。
「今は次の日だよ。倒れてから今の今までずっとレイドは眠っていたんだよ」
「そうか、俺はあれからずっと寝てて次の日になっちまったのか」
(ふぅーまさか、何日も寝てるとかはなかったわけだ。1日も寝てないようだ。それはよかった)
レイドはそんなことを思いながら胸を撫でながら、安堵した。
「レイド、体調の方は?」
「ははは、大丈夫。ただのオーラ切れだし、こんだけ寝りゃぁ完全回復よっ」
「ふーよかったー」
「おいおい、狙われているのは毎回ヒメカなんだぞ」
「だ、だって、いつも私が狙われているとはいえ、いろんな物や独が巻き込まれてるから…」
「そんなことは気にするな。お前の安全が一番なんだから」
「だからってレイドがオーラが枯渇するまで限界まで頑張らなくたって…」
ポンッ
レイドはヒメカの頭に右の掌を軽く置くように乗せる。
「お前が付いてれば俺に万が一が起こることなんてない。俺が護るって決めたんだ。護る側が護られる側より軽傷でも問題だろ」
レイドがそう言葉をヒメカにかけている時、ヒメカは少し恥ずかしそうに頭の上に乗った掌を頬を染めながら嬉しそうに見ていた。
「お、起きたようだね、レイド君」
レイドの耳に見知らぬ声が聞こえた。その声がした方向を見てみる。
そこには2人の男が病室の入り口に立っていた。
1人は探偵が来ていそうなコートを羽織っていたが、2人とも中に警察が来ている特殊防衛素材式スーツを着ていた。
レイドはすぐにことを察知した。
むしろ、前回ごまかせたのが奇跡だったのだ。何故、ごまかせたのか、レイド本人にも分かっていない。
「…警察の方ですか?」
「そうです。刑事という役割を与えられているパスリ・ポズルという者です。以後お見知り置きを」
コートを羽織った男がそう自己紹介した。コートを羽織った者の性別は男で、見た目は中年、いかにも漫画とかで刑事やってますみたいな顔をしている。が、体はかなり引き締まった細さも持っていている。
「私はウワンテ・ジュショと申します。先に名乗った刑事の助手を務めさせてもらってる者です」
この者も男だが、先のパスリに比べればだいぶ若い。20代後半と言ったところだ。身長がパスリより少しだけ高く、細身である。だが、ここはパスリと違い、筋肉質のようなものは見えない。こちらの男性は爽やかな好青年な印象を受ける顔立ちをしている。
「それでなんでしょうか?」
レイドは少しドキドキしながらそう聞いた。
「昨日のこととヒメカさんのことについて聞きたい」
「昨日のこと?なんで俺に」
「今回捕まえた犯行に及んだ2人に話を聞いたのですが、状況は概ね周りからの証言と監視カメラと一致していました。しかし、肝心な情報を彼らは一切知らなかった。彼らはお金が欲しいということで、バイトを受けたらしい。この時代にバイトなんてものはないというのに。怪し過ぎることに気づいて欲しかった。話を戻すと、彼らは雇われただけで他のことについて一切知らなかった。ヒメカさんの捕縛、宅配の偽造、この2つの仕事をただ頼まれただけという証言があった。嘘を見抜く能力者、記憶を見ることができる能力者に確認を取ってもらったが、2人の証言に嘘偽りはなかった。彼らは、ヒメカさんの捕縛、宅配の偽造の意図や目的を一切知らなかったのです」
パスリは淡々とレイドにそう語った。
(俺も知りたかったことが何一つとして情報として上がってない)
レイドはそう思ったが心に留めた。
「そして、2人はあなた達と接触した時、一種の興奮状態にあった。何者かの能力で、あの2人は興奮状態にさせられ、おかしな行動に出てしまった。ちなみに仕事を受けた時は平常でした。あなた達もあの2人の行動に違和感を覚えたでしょう」
パスリはそう語った後にレイドとヒメカに問いかけるように言葉を投げる。
「たしかに、おかしかった」
レイドが答える。
「この話はここまで。これ以上話しても進まないからね」
「?」
「ここからはそこにいるヒメカさんについて話して貰えますか?彼女、警察に保護されてから、こっちの質問に1つも答えてくれないんです。たしかに、状況等の説明はしてもらいましたが1番こちらが気になっている身元のことについて一切口を開いてくれないんです」
パスリは屈託のない笑顔をレイド達に向ける。
「あっ!!」
レイドは隣にいるヒメカの顔を覗き込む。
ヒメカは歯を食いしばって、緊張した趣をしていた。
トコトコ
2人の男は、ゆっくりとレイド達のいる方へ歩みを寄せてくる。
「事情聴取をするのですから、身元をしっかり確認する必要があります。ヒメカさんの身元をデータで確認したところエラーが表示され、未確認の独ということが分かりました。私達も、もしかしたら地球人でない可能性も配慮して、他の星の独の登録データも照合してみました。しかし、どこにもなかった。このデータによって、情報が管理されている時代にデータがない。そこから、ヒメカさんがデータで未確認の独だと私達は判断しました。ヒメカさんの内情について話してもらいたい。あまりにも素性が怪し過ぎる。あなたが知ってることがあれば教えていただけませんか?レイド君」
レイドはこの時パスリが浮かべてた不気味な笑みに恐ろしさを感じた。
バッ
レイドは勢いよくベットの上に立ち上がる。
「ヒメカ逃げるぞ!」
「えっ??!!」
ヒメカは状況が読めない表情をした。
(このままヒメカが警察に行ったら絶対に大変なことになる。早くこの場から去らないと!)
レイドの内情はこういう思いがあった。
ホワンッ
レイドは能力を発動させ、剣を具現化し、右手で握りしめる。
炎の力を秘めた剣が具現化された。
その剣から炎を出し、振り払うように2人の男に部屋を覆うかと思わせるほどの巨大な炎をぶつける。
ボオオッ
その様子を傍観するウワンテ。
隣にいるパスリが素早く行動する。
(能力発動“絡まる人口遺物(プレウト・ムギー)”)
パスリが能力を発動すると、手元に宙を浮く、パズルのような黒い球体が現れた。
パスリはその球体を手に取り、両手でガチャガチャとパズルをとくような行動をする。
カチャッ
という音がしたと思うと、パスリの手元に黒い丸棒のようなものが現れていた。それを右手で握る。
シュッ
そして、上段の構えをし、炎の中に飛び込んで、一閃を放つ。
ドパッ
すると、炎は真っ二つに割れる。
ここまでの流れが一瞬で行われた。
その一瞬の隙にレイドは行動していた。
ヒュッ
剣を投げ捨て、ヒメカを抱き抱え、病室から逃げ出していた。
レイドは小さな声でヒメカにこう耳打ちする。
「ヒメカ、ここで警察に捕まるわけにはいかない。とりあえず、身を隠す」
「うん」
と、ヒメカはレイドにギリギリ聞こえるぐらいの声で返事をした。
(あの炎騒ぎで少しは時間が稼げる筈だ。だが、奴らは刑事だ。すぐに対応してとってくるだろうな。どうするか…今までは偶々運が良かっただけだ。俺の直感がしっかりと一発で当たってくれた。そのおかげで今がある。だが、毎回うまくいくとは限らない)
レイドはヒメカを抱えながら、病院の廊下を走り続ける。
(外に逃げるんじゃダメだ。目を眩ませて、俺達の存在を認知させないような状況に持ち込んでから、逃げないと結局追いつかれてしまう。まあ、どの道住所は割れてるから遅かれ早かれだろうとは思うけどな。それでも、ヒメカを守ると決めたんだ。きっちりと俺のやるべきことを果たす)
レイドは病院を駆け回りながら、考え続けた。
・・・
ギギギ
レイドは足を止める。
ドアの前に立ち止まったのだ。
「どうしたの?」
「ここに一旦隠れよう」
「え、でも…」
「言いたいことは分かってる。だが、黙って従って欲しい」
「分かった」
(変に素直なんだよな、ヒメカって)
レイドはそんなことを思いながら、部屋のドアを開け、中に入る。
そこは電気は付いておらず真っ暗だった。
キョロキョロとレイドは周りを見渡し、安全かどうか確認する。寝具のようなものがあるのが暗いながらもレイドは目にオーラを集中させ、認知した。安全を確認した上で、ヒメカにも中に入るように促す。
「ねぇ、ここって…」
ゾワワワ
ヒメカが言葉を言い終える前に、膨れ上がるオーラの気配を2人は感じた。
「話してる暇はない。隠れるぞ」
「うん」
レイドはヒメカの手を掴み、物陰に誘導して、2人で隠れる。
(さっきの刑事のオーラを感じた…こっちに来ようとしてた)
コソコソとレイドとヒメカを話を始める。
「ヒメカ、オーラを消すんだ。俺と同じように」
スッ
そう言って、レイドは体から放たれている筈のオーラを消す。
「これは生命オーラの放出を遮断する纏の技術だ。これによって体がオーラを纏っていない遮断状態になる。独はオーラを感じ、認知して、物事を判断している。オーラが感じず、見ることができなくなれば、気配を感じることはできない」
「それで隠れるってこと」
「そうだ。できるか、ヒメカ?」
「一応、お父さんに習得させられたからできるよ」
スッ
ヒメカもオーラを消した。
(現代にこの技術はいらない。というより、基本必要ないから授業なんかでもほとんど内容をやらない。なのに、ヒメカはかなり精度でこなしている。どういうことだ?嬉しい誤算ではあるが、少し違和感を覚える)
レイドがそんなことを思っているとヒメカが話しかける。
「なんで開いたのかな?普通は管理されてるから部外者が開けることなんでできない筈じゃないの?」
「!!確かに、なんか開いて入れたから気にしてなかった!」
「レイド大丈夫?病み上がりだからか、なんか頭が回ってないよ」
「そうかもな…俺らしくない…」
ブワワン
2人は見覚えのあるオーラを感じる。
ウィーン
ドアの開く音がする。
「なんかここにいる気がするな。俺の勘が言っている」
2人の感じた気配は当たっていた。
ドアを開けたのはパスリだったのだ。
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