No.10 硬直
No.10 硬直
2人が駆け出した直後だった。
ヒメカは引っ張られるように動き始めた。それによってレイドとの間にズレが生じる。
ドスっ
「わぁっ」
ヒメカが通りすがりの人とぶつかった。それによってレイドの手は解ける。
「ごめんなさい」
ヒメカはすぐにぶつかった人に謝罪する。
「こちらこそごめんね」
それを聞いたヒメカがぶつかった人物もすぐに簡素ながらも謝罪述べる。そして、その人物はすぐにその場を去った。
「悪い、ヒメカ」
レイドがヒメカに駆け寄り先の行動を詫びる。
「いいよ。大丈夫だから。じゃあ、早く離れ…」
ヒメカはこの時、体の異変にようやく気づいた。
「ヒメカ、どうした?」
ヒメカが必死そうな表情をしている。まるで、何かをもがいているように必死な表情だ。しかし、表情とは別にヒメカの体に動きは見られない。
「体が動かない。正確には手足を今の場所から動かせない」
「なに?!何者かの能力か?」
「そうみたい…」
ヒメカは体を必死に動かそうともがくが全く動きはない。まるで、今の場所にヒメカの体が固定されているかのように。
「筋肉や神経を麻痺させて動きを止めているわけではなそうだな。その位置から体を動かすことができないって感じか」
「うん、ほんとにそんな感じ。目線も口も手足の先も動くけど腕や脚を動かして前に進もうとすることができない。横にも動けないし」
「能力をかけた奴はヒメカをこの位置、この場所に固定したのか!」
(こういうのが1番厄介なタイプだ)
レイドは心の中で分析していた。
「いつ…」
レイドは顎に指を当てながら悩む。
「…まさか!!さっきぶつかった!!」
レイドが何かに気づき顔を上げた瞬間だった。
ヒメカのすぐ背後に迫って来ている男がいた。
(気づいた時には遅いぜ)
その男はそう思っていたが誰にもその言葉が届くことはない。
レイドはすぐにその男が先でヒメカにぶつかった男と同一の者と理解した。理解する前には彼の足は一歩踏み出されていた。
しかし、気づくのが遅かった。
男の左手から小さなキューブ状のものがヒメカに対して投げられた。
投げられたキューブはヒメカに当たる。
当たったのがわかった瞬間に、キューブを投げた本人はすぐに後退して、逃げる。
キューブはヒメカに当たるとヒメカのオーラに反応しキューブが突如膨れ上がる。膨れ上がったかと思えば、破れるように幕が広がり、ヒメカを包み込んでいく。
「ヒメカァッッ!!」
レイドはヒメカが囚われることを察知し、すぐに手を差し伸ばし行動に移す。だか、
「レイドぉ来ないで!」
ピタッ
レイドは動きを止めた。
ヒメカはその場から体を動かせないながらも大きな声を出し、自分が感じた嫌な予感を伝えようとしたのだった。
フワンッ
「あっ…」
それによってヒメカは縦幅2m、横幅1m弱ほどの縦に長い長方形の箱のような縦長ボックスに閉じ込められた。
「ヒメカぁ!!」
レイドがボックスの中に閉じ込められたと思われるヒメカの名を叫ぶ。
「私は身動きは取れないけど大丈夫。この箱の中に何か仕掛けがあるわけじゃないみたい。とりあえず、私を捕らえておく為だけのものだと思う」
ヒメカから返事がくる。
「そうか…」
レイドは心の中でホッとする。守ると言ったのにかかわらず、このような結果になったことに責任を感じたからだ。
(だが、問題は何も解決していない。むしろ、ヒメカをこの中に出さないといけなくなったぐらいだ。あの時ヒメカが咄嗟に叫んでなければ俺もあの箱の中にいたのかもしれないと思うと…いや、もしかしたらそっちの方が本当は都合が良かった、なんてことはないよな?)
レイドが箱を眺めながらヒメカを心配していると、レイドの背中に人影が現れる。レイドは人の心配している場合ではなかった。
だが、レイドは抜け目のない男で自分に近づいている人物に気づいていた。
レイドは振り向き、その自分に近づいて来ている敵対者を確認する。
その男はさっきヒメカにぶつかり、動きを止め、閉じ込めた男と全く同じキューブを右手に持っていた。今にもレイドに投げようとしているのが伝わってくる。それをレイドは感じ取って、右手に握っていた風の剣を横に振りかざす。
スッ
すると、剣から風が発生し、相手に風が襲い掛かる。
ブワァ
風圧で襲って来た人物は吹っ飛ばされる。
キョロキョロ
レイドは辺りを見渡す。
さっきレイドにヒメカに投げたキューブと同じものを投げようして来た男と先にヒメカにぶつかり、キューブを投げた男が同じぐらいの間隔を空けて真反対の位置にレイドと距離を取って2人がレイドと抗戦構えをとっていた。
3人が牽制し合う中で最初に口を開いたのはレイドだった。
「あんたさっきの宅配の人だろ。オーラが一緒のものだったから分かったよ。やっぱり、絡んでいたか」
レイドは宅配の人ことスハイの正体を暴く形でそう言い放った。
「そうだけど」
スハイは少し汗を垂らしながら答える。
「顔が違うのはあんたの能力か。こっちが本当の顔で、あっちはなりすました顔って感じか?まるで、この時のために用意された能力のようだな」
スハイは苦い顔をする。
(俺達のミッションはさっきコテがこのキューブの中に閉じ込めた女の子を捕らえることと宅配物を送り届けること。そして、備考としてあの少年も捕らえられるなら捕らえろということだった)
スハイは自分達の役割を確認した。
「さっきぶつかったあんたもあれがまさかわざとだったとは。ヒメカが動けなくなったのはあんたの能力のせいだろ?」
レイドは今度、ぶつかった人ことコテに言葉を投げかける。
「・・・」
「何か答えたらどうだよ2人とも。あんたらただの雇われ人だろ。こんな無駄なことはやめた方がいい」
レイドは少し煽るように言った。
「そういうわけにはいかない。そちらや依頼主の事情は知らないが俺達はこれが仕事として引き受けたものなんでな。最低限の役割はこなさせてもらう」
スハイがレイドに冷静な返しをする。
ザワザワ
その様子を見ていた通行人達がざわつきだす。
(・・・?おかしくないか?その理由だけだったらこんなことしないはずだろ?まさか、ヒメカの父親からマインドコントロールを受けているのか。しかも、今回の俺達捕縛に最も適した人材を選んで…根っこの部分が見えてこねぇな)
レイドは周りのざわつきも気になりながら、2人を交互に見て牽制し、注意を払い続けた。
3人はジリジリと牽制を続ける。
その中でレイドが動きだした。
カンカンカン
レイドはヒメカを閉じ込めたボックスに3度切り掛かった。しかし、びくともしない。
(硬い…めんどくさい能力ばっかだな)
レイドは剣に風を纏わせ、風の斬撃をボックスに放つ。
ヒュンッヒュンッ
2つの斬撃が放たれ、ボックスに直撃するが、
パンパンッ
弾け飛ぶような音がして先程と変わらず、一切ボックスに変化はない。
(くそ…こんなものどうすればいいんだ?!どうやって解除すれば…)
レイドが長考している隙を2人は見逃さない。
タッタッタッ
2人はレイドに詰め寄る。
しかし、レイドは隙ができるのは承知の上だとおもんばかりに2人への注意を忘れていなかった。
まずは風の剣を使って風でスハイをまたも飛ばす。
バワン
その様子を見て、すぐにコテは直進の動きを止め、直角に走りだした。
タッタッタァ
カツッタッタッタッ
レイドを中心に円を描くように横に逸れた動きをする。
レイドはその様子を見逃さなかった。
「そうかお前の能力は距離が制約に含まれているんだな」
ゾワゾワワワァァァ
コテはそのセリフを吐いたレイドが不気味に笑っているように見えた。実際はそんなことはなく、冷静な表情で淡々と少し煽るように言っただけだった。
(お前の言う通りだよ。俺の能力“その場の固定(フィクセェ・ストッパ)”は俺が能力の対象の半径20m以内にいなければ能力の固定が持続されない)
冷や汗をかけながらコテはレイドの攻撃を錯乱できるように動き続ける。
ここでコテの能力“その場の固定(フィクセェ・ストッパ)”の能力解説。自分が触れた対象を1つだけ、その場の位置に固定させる能力である。発動条件は、自身が能力の対象にしたい生物と直接接触することと接触した生物の半径20m以内に自身が存在することである。この2つの条件のどちらかが守られなくなった瞬間に能力の発動は完全に解除される。一応は、条件さえ、守られ続けられれば一生拘束し続けることができる。能力がリセットされた場合は先の条件2つをもう一度満たす必要がある。拘束時間に制限はないが、自身のオーラを使って拘束し続けているため、オーラがなくなれば強制的に条件が守られているとしても能力は解除される。
レイドは左手にオーラを集中させる。そして、剣を具現化させる。
パッ
具現化された剣は、鉛色をした鉄の板をそのまま剣にしたような素朴な剣だった。鍔はただの鉄のインゴットのような形をしたもので、そこに周りよりも濃い色の穴が2つある。柄はただの鉄の棒、刀身もただ鉄の塊を剣の形にしただけのようなもの、太さは刀よりも少し幅があり、長さは氷の剣よりも少し短めなものだった。
「当たりだ。久しぶりに当たりを引いた」
レイドはそういうと、先に出した鉛色の剣を左腕で自身の真上に垂直に掲げる。
そして、その掲げられた剣が多くのオーラを纏う。すると、その剣の周りに長方形状の薄い板状の鉄の塊が現れた。
(この剣は鉄を創り出す)
「くらえっ!」
レイドはいきおいよく剣を上から下へ振りかざす。
ヒュンヒュンッヒュンヒュンッ
すると、剣の周りにあった鉄の塊がコテとスハイの2人のもとに勢いよく飛んでいく。
コテはちょうどその時、スハイの近くに走り込んできていた。
コテとスハイはレイドの攻撃に目を奪われた。それによって一瞬のラグが生まれる。
「…コテ!こっちに来ちゃダメだ!2人同時はやばい!」
ギギギ
コテは黙って頷いて、逆方向に転換して走る。
シュンシュンシュンシュン
いきなり方向を変えたところでたかが知れていた。
グサッグサッグサッグサッグサッグサッ
2人に数多くの鉄の塊が降り注ぐ。
なんとか避けて2人とも傷はほとんど負ってない。
コテはスハイの様子を見て、安心し、駆け出す。
レイドの猛攻は続き、またも鉄の塊を2人に投げつけようと構える。
「まずはどっちから潰そうか」
レイドはコテとスハイを交互に見て、1人に狙いを定める。
レイドは狙いとして定めたのはスハイだった。
「まずはそちらから行かせてもらう」
「くっ…」
タッタッタッ
レイドは駆け出し、スハイに近づいていく。
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