No.9 暴食

No.9 暴食


場面は先程の宅配便の従業員。

(取り敢えず言われた通りのことができたけど、これでよかったのか?)

彼の名前をスハイ・フェタツイと言う。彼は自身の顔に手を当てる。そして、自分が顔にしていたフェイスマスクのような取るように無作為に顔からオーラを纏った何かを引っ張り剥がす。するとそこには全く別の男の顔が出てきた。

(ちょうど金が欲しくて悩んでいたら、ネットの広告で今時珍しくバイトの募集があった。それに申し込んだら、ある家に配達して欲しいものがあると頼まれた。いやに内容が簡単だったから受けちまったな。まあ、これだけで中々の金が貰えるからありがたい。ただ…)

スハイは建物の影からエレベーターの横に腰をかけ立っている男を注視した。

(俺の役割はあの配達物を渡すことまでだが、依頼内容に奴のミッションを協力しないといけないと記載されていた。だから、俺は今こうしてここでヒソヒソと隠れるように建物の隅にいる)

プルル

ピーン

「どうしたんだ?」

スハイはかかってきた電話をとった。

「ちゃんと渡せたのか?」

「ああ、うまくいったよ。今回のこのバイト少し怪しいが報酬がうまいからな。まず、こんな臨時収入をもらえるところなんてないからな。お前もそう思うだろ?」

「ああ、絶対に言われた通りにうまくいきたい」

スハイの電話相手は今回のバイトのパートナーであるコテ・イシである。

「お前はあらかじめ見せられた写真の女の子に対して、あの配達物と一緒に渡されたちっちゃいキューブを当てるんだったな」

「ああ、俺の能力なら簡単だ。しかし、なんでこんなことしないといけないんだろうな」

「さぁな。俺達は金が欲しいだけだし、言われたことだけやって詮索しないようにしようぜ」

「そうだな。だが、連絡された情報に女の子の近くにまとわりついている男もキューブを当てろって書いてあったな。邪魔だからなるべく消しておきたいって」

「元々、このバイトおかしいだろ。バイトがある時点でおかしい上に、内容が怪しすぎる。深追いはしない方がいいだろうな」

「それもそうだな。大分面倒そうだもんな」

このあと2人は通話を切る。すると、コテはいた場所から歩き出し別の場所に移動して行った。

スハイは自分の右手の手元にある幅2センチ程の小さなキューブを見つめていた。

(募集は結構あったと思う。だが、ピンポイントに依頼に対して適切な能力を持つ人材が選ばれた気がする。あいつ(コテ)の能力もそうだし、俺の能力“仮面の擬態性(トランスフェイス)”もだ)

“仮面の擬態性(トランスフェイス)”の能力解説。簡単に言うと、他者の顔面の皮をオーラで造って自分の顔に貼り付け他者を装うことができる能力である。発動条件は、オーラの顔皮を用意したい者の顔のわかる写映(写真や映像)、名前、生年月日、出生地がわかることによってオーラの顔皮を具現化することができる。先のことを自分が知らなければ顔皮を造ることができないことが制約になっている。具現化した顔皮は一度しか使うことができない。つまり、一度自分の顔に被せ装着した後、顔から剥がすと剥がされた顔皮は2度と使えない。制約として、同じ顔を造ることはできず、顔皮は他人は使えない。

(履歴書には必ず自信の能力の詳細を入力するようになっていた。俺は能力を依頼主に提示したら、次の日に配達員のデータが送られてきて、その配達員になりすまし、記載されたミッションをやり遂げよとあった。準備が周到すぎる気がした。このバイトをこなすのは誰でもよかったわけでなく、俺たち2人の能力が必要だった。そんな風な感じがした。...俺たちがやろうとしていることが良いことではないことぐらいは分かっている。だが、もう戻ることはできない)

スハイはギュッと掌にあるキューブを力強く握った。

その時のスハイは目にしわを寄せて不安を抱えていたようだった。




場面はレイド達方へ戻る。

(母さんの部屋の方から音がした…)

レイドとヒメカの2人は母の部屋の方に足を運ぶ。

「さっきの荷物か?」

「また、私を追って…」

「その可能性が高いな…」

レイドは目にオーラを集め、母の部屋を注視した。

(くっ、やっぱりセキュリティが効いてるか。おかげで透かしてみることができないからあっちで何が起きてるかわからない)

トコトコ

レイドは自分の部屋に入っていく。

「レイド?」

ヒメカはレイドのチョコチョコと後をつける。

「来るなっ!!」

「!!!」

ヒメカはレイドの突然の声に驚いて動きが止まる。

「な、何が…?」

ヒメカは恐る恐る声を出し、レイドに問いた。

レイドの目の前には謎の生物が部屋の壁を喰いつくそうとしている驚くべき光景があった。

(な、なんだこいつは?)

レイドは困惑し、苦い表情をする。

レイドの目に映っていたのは、レイドと母の部屋の間にある壁に無造作なデコボコな穴と壁を喰らう鋭い歯を口だけを持つ胴体に後ろに申し訳程度に付いている尻尾がある生物の形としては頭がものすごく大きく、尻尾が短い蛇とでも形容できる姿をしていた。

母の部屋にはレイドがさっき受け取った宅配物の包みが破かれだ状態で散らばっている。壁を喰い尽くす謎の生物がその先程届いた宅配物から飛び出してきたのは明白だった。

(こいつはさっきから何をしている?何故、壁を喰っている)

謎の生物は黙々と壁を齧り喰い続けている。脇目も振らずに。

「何があったの?」

ヒメカがレイドの部屋に顔を出す。

「あれを」

「?!何あれ?」

ヒメカが部屋に入ってくる。レイドが許可を出しているため、ヒメカはレイドの部屋を自由に出入りすることができる。

「わからない…多分、幻獣だ。分かっているのは俺が母さん宛のものだと思って受け取った宅配物から出てきたらしい。あそこで包みが散らかってる」

「ほんとだ。これも父が送り出してきた刺客の幻獣…」

「…正直この幻獣はおかしいことばかりだ」

「おかしいことばかり?」

「ああ、建物はオーラを練り込まれた素材で作られている。そのため、建物自体に様々な耐性が施されている。熱、冷、耐久性など、俺らが思いっきり壁に攻撃したって穴すら開くはずがないんだ。だが、こいつはそんな強い耐性関係なく、壁をぶち破った。これら異常なことだ」

「そんなに?」

「あいつはオーラを喰らってるんだ。だから、壁に穴を開けることもできるんだ。壁の耐性にオーラを喰らうことに対しては無対応だからな。オーラを喰らうなんて…何を考えて創られたんだ?」

(不気味で仕方がない。こちらに向かってくるわけでもない。これほど恐ろしいものもない。ヒメカや俺が目的なんじゃないのか?ただただオーラを喰らう化け物?)

「…いつこいつが俺達を狙ってくるかも分からないし、今のうちにここから離れよう」

「え、これをこのまま放置するの?」

「家のことは後でどうにでもなる。だが…」

ポワン

レイドとヒメカは異様な感覚のするオーラが放たれた気配を感じ取った。

スッ

レイドとヒメカはその気配のした方を向いた。

その気配の先には先の幻獣がいた。幻獣は目もないながらレイドをまるで見つめるかのように、じっとレイドの方を向いている。

ドスっ

グヮヮヮ

床を跳ねる音と気色の悪い鳴き声みたいは奇声を発してレイドに飛びついた。

レイドは冷静に飛びついて来た幻獣を躱す。

「ヒメカ逃げるぞ!」

「でも、こんなの放置したらここだけじゃ…」

「そんなのは分かってる。だが、取り敢えず逃げる。行け!」

レイドは人差し指で玄関の方を指してヒメカに逃げるように促した。

タッタッタッ

2人は幻獣に脇目も振らずに逃げた。

(“剣の魔法(ソードマジック)”発動!)

スッ

レイドは逃げながら能力で剣を具現化した。具現化した剣を右手で持つ。

玄関で認証できずに止まっているヒメカを脇に少し避けさせ、レイドは玄関のドアを開ける。ドアが開いた瞬間にレイドは少し強引に先にヒメカを外に出す。

「おっととと」

(ヒメカを取り敢えず外に出した。俺もさっさと家から出よう。だが、その前にやっておくべきことがある。やつがオーラを喰らっているのなら俺の剣で発現したものは全部オーラでできている。オーラでできているんだ、発現した剣の力を喰らう筈だ。それで少しは時間が稼げる)

レイドは右手に握っている剣に視線を落とす。

右手に握っている剣は普通の剣とは違う形をしていた。その剣はhの左下の部分の棒がないような形をしていた。通常の剣の刃が通るところではなく、体から外に向いた位置に刃が位置していた。柄も刃も含めて全てが細く、長さは短剣よりは長いぐらいの中くらいの長さで先は刀のような尖り方をしていた。色は薄い緑色をしていた。

「ちっ、この場面だとこの風を操る剣はハズレだな」

レイドはまたオーラを手に集中して、左手に剣を具現化した。

左手で剣を握る。

左手に握られた剣は手元から刃先にかけて階段のように段階的に刀身が細くなっていた。この剣に鍔はなく、土色の刀身色をしていた。刀身の真ん中には額角的な模様が刻まれていた。

(これは、砂土の剣!これなら…)

レイドはバックして玄関を出て左手に握った剣の剣先だけを家の中に残す。

「これならいけるな」

剣からオーラが溢れ出る。

ドバババババババ

そして、剣から大量の砂がマンションの一室を覆うように溢れるように大量に噴出される。

(これで家を砂で埋め尽くせば奴がオーラでできた砂を喰らう筈だからそれだけの時間が稼げる。その間にあいつをどうするか考えなきゃ行けないな)

レイドは玄関を見つめながらそう考えていた。

「どうなっているの?」

ヒメカがレイドに話しかける。

「家を砂で埋めた」

レイドは一言返す。

「砂で埋めた??どういうこと?」

「そんなことはヒメカは考えなくていい。さっさとこの場から離れるぞ」

「え、うん」

レイドとヒメカはその場から駆け出し、テレポートエレベーターを使い、下の階に移動する。

トッ

2人はエレベーターから出る。

「とにかく前みたいにここから離れよう」

レイドはヒメカに提案する。

「?!それはダメだよ!あの様子だと、あのままずっと周りの建物を喰い尽くしていっちゃう!それだと、他の人に迷惑がかかる…これは私の問題だから」

「そ、それはそうだが…」

(そんな甘っちょろいこと言ってる場合じゃない)

ガシッ

レイドは左手に握っていた剣を放り投げ、ヒメカ腕をを掴む。

「な、何??」

「行くぞ」

レイドはヒメカの腕を掴んで無理やり駆け出した。

「ちょ、レイドぉ…」

(俺の1番の目的はヒメカを守ることだ!ヒメカを1人にするリスクが出ようと絶対に対処しなきゃいけないものは俺が1人でしっかりやって退けてやる!)

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