No.8 宅配

No.8 宅配


これはある研究所の場面。

「・・・まさか、“透かす傀儡人形(ドッペルパペット)”をこんな簡単に攻略するとは。あの少年やはり侮れないな。あの能力はヒメカが接触した独がヒメカを言葉でヒメカを守ることを宣言したことをヒメカ自身が直接耳にした場合に発動する。そして、あの幻獣はヒメカを守ろうとする者を消すために動く。敢えて、少し厳しめの制約を結んだおかげですり抜け能力を獲得できた。まさか、能力の唯一の解除方法であるヒメカとの直接接触にしっかりと辿り着くとはな。まあ、自動型だからこんなものだろうな」

(あの幻獣の面白いところがヒメカに与する者の生命活動を止めた瞬間にターゲットが居なくなって動きがその場で停止することも問題ではあったがな。停止している間は邪魔でしかないからな)

この人物はずっとモニターを見続ける。

そのモニターの中にはレイドとヒメカの2人が映っている。

「まあ、次の手は打ってあ…」

言葉を途中で切り上げてモニターに顔面を擦り付けるようぐらい近づけて食い入るようにモニターを覗き込む。

「ま、まあ、次の…手は打ってある」

少し動揺したような様子で言った。

この時、モニターにはレイドとヒメカが同じ布団に入って一夜を過ごしている映像が流れていた。



場面はあの幻獣との戦いの翌日の朝。

(あーやらかした。雰囲気に流された。まさか、こいつがあんなことを…)

レイドはヒメカより先に起き、ベットから出て気持ち良さそうに寝ているヒメカを見ていた。

(昨日夜、あんなのとをしてくるとは…)

レイドは自身の下半身を1度見てから彼女の顔を見た。

(こんな形で俺の記憶に刷り込まれる状態で俺の初体験が終わってしまうとは…)

俺が少しだけ昨日の夜の事を話させてもらうと、俺が寝ようとしたら彼女が布団の中で抱きついてきて男女2人で夜の行いをしようと誘ってきた。元々、俺の記憶にはないが俺と彼女はすでに1度やった仲だった。彼女からしたからそうおかしなことでもないかもしれないが俺は記憶にないから戸惑った。まあ、その後俺は勢いに流されてやってしまったのだがな。そんな状態で朝を迎えた。その時の心境を詳しく説明する気はない。なぜ抑えられなかったという理由でこんな可愛い女の子が誘ってきたらとかいうことは…なくはないから敢えてここは伏せさせてもらう。


レイドはその後朝食の準備を始めた。

朝食の準備が終わるとヒメカを起こし、2人で朝食を囲む。

「ん〜美味しい〜」

ヒメカは満悦な笑みを浮かべながらそう言った。

その様子を見ていたレイドも少し骨格上げて笑い、満足そうな表情をする。

ヒメカの笑顔を見ることが何よりも嬉しいかのように。

(久しぶりか?目的も何もかもを失った俺にこいつは…)

レイドはヒメカを見て思い出したくない過去を思い出していたと同時にヒメカに出会ったことを心から喜んでいた。

この時のレイドは本当に嬉しそうな表情をしていた。

レイドはあの醜い過去を思い出していた。


ここからは俺、レイドが自分で語る。

俺は小5になった時、親に纏を強制的に教え込まれた。この世界では小6になるとオーラを感じ纏わせるための技術を授業で学ぶ。纏ありきの世界だからこそ纏が生活での生命線になる。全てのものに纏が応用されているからだ。普通の地球人なら小6から習うのを俺は父親に小5になってすぐに叩き込まれた。しっかりと時間をかけ纏をオーラとして纏い扱えるようになった。そこから父親の英才教育が始まった。まずは基礎となるオーラの扱い。体全体のオーラ量の調整を最初やらされた。それをマスターすると、纏を使った戦いの基礎を教えられた。今思えばこの時代いるとは思えない技術だ。だが、俺の父親はそう言ったところに身を置いてきた。そのため、父親は俺に万が一のために戦いを教えた。それが小6の時だった。他のみんながみんなで頑張って纏を感じ纏わせようとしていた中俺はみんなとは別のところにいた。みんなが頑張っている中俺はすでに纏を使えていたため俺は纏の授業をボーとしながら過ごした。俺はこの時はまだ何も思ってなかった。父親に憧れる部分があったからこういう定めになることも仕方ないかと思った。こういう風に思えたのは父親がカッコよくてすごいと思ったからだ。父親もそうだから自分もこれでいいと思った。小6のみんながちょうど纏を身につけ始めたころから俺はどんな能力にするか考え始めた。そして、俺は父親からの教え込まれた戦闘で生かせるように剣を使うことを決めた。しかし、周りを見るとみなは生活に応用できるような能力にしようと考えているをみた。能力については中等部に上がってから授業でやるが、大体の人は初等部の頃から自分はどんな能力にしようか考え始める。俺はそれを目の当たりにしてただの剣のままではダメだと思った。剣はただの何かを傷つけるだけの道具だと思った。そこで俺は生活の中にある現実にも生かせるような能力も掛け合わせようと思った。剣だけだと皆が恐ろしがるかもしれないが、剣はただのおまけで応用力のある能力が備わっているとなれば何も思われないだろうと考えた。俺はそこで“剣の魔法(ソードマジック)”を生み出した。この能力なら現実生活にも生かせる応用性があるから大丈夫だと思って。だが、実際は違った。俺の能力を知った途端皆が離れていった。俺がいくら説明しても、俺の能力の危険性について誰も理解はしてくれなかった。皆は俺の恐ろしいほどの強い戦闘力と能力に恐れ離れていった。俺はそして周りに人がいなくなって1人になった。これが中1の頃の話だ…俺はそこから、クソ親父のことを恨んでいる。皆のように育ててくれればこんなことになっていなかったのにと。何故、俺は他の子達とは違う育て方をしたのかと。俺はあの頃からずっと親父のことを恨んでいる。親父とはこのことがあってから口を聞いていない。

ここで俺の回想は終わる。


(でも、今はこの能力のおかげで皮肉にも助かっている)

レイドは自分の右手を見つめながらそう心の中で思った。

そんなところにヒメカはレイドの元にやってくる。

「レイドの能力のこともっと詳しく教えてほしい」

今までとは少し違う柔らかい様子でヒメカはレイドに問いかける。

(昨日の夜のことがあって、大分俺達2人の仲は縮まったらしい。おかげでヒメカは俺に敬語を使わなくなった)

「ああ、そうだったな。俺の能力の制約でまだ言っていないことがあったんだ。実質的に制約じゃないんだけどな」

シュッ

パシッ

レイドはそう言うと手にオーラを集中させて、その場に剣を具現化させる。

「剣の種類と性質の発現方法だ。剣の種類は俺もどのくらいの数があるのか知らない」

「自分でも把握してないの?」

「ああ、そう言う制約をかけた。剣を自由に選べず、どんな剣があるのか常に把握できないようにすることで剣に多彩さを設けることができた。つまり、出た剣を使ってみて初めてどんな性質を持ってるか理解できるわけだ。行き当たりばったりの能力なのさ」

「なんで不安定な能力にしたの」

「それは…性質の発現方法を教えてから言う。性質の発現方法は簡単だ。オーラを剣に込め、但しただ剣にオーラを込めるだけでは能力は発動しない。強いイメージが必要だ。能力が発動していると言うイメージが」

「それだとおかしいんじゃ…」

「その通り。初めての剣は使えないってことになる。だけど、違う。剣にオーラを込めて何かが起きるという具体性のないイメージでも能力は発動する。まあ、意外と発現の際のところは適当で俺が剣にオーラを込めて能力発動と思うだけで能力が発動するんだよ。俺も仕組みはよくわかってないけど。他の人は大体イメージ法かトリガー法によって能力が発動されるからな。ヒメカの能力はまさに後者だしな」

「確かにそうだね。それでなんでこんな能力にしたの?」

「俺は初等部の高学年の頃から父親に戦いの英才教育を受けていた。その時の流れで戦いに役に立つものと応用の聞く可能性を秘めた能力にしたいと考えたらこんな能力になった。いろいろなことをできるようにするにはランダムの縛りを設けるしかなかった。そうしなければ今ある多彩は無かっただろうな。まあ、ランダムだからなんとも評価できないけどな」

「そうだったんだ。レイドはお父さんのこと…」

「あのくそ親父のことなんて話そうとするだけで吐き気がする。だが、今は少しは感謝している。おかげでヒメカを守れるからな」

レイドは笑顔でヒメカにそう言い聞かせる。

ヒメカはドキッとした反応を見せる。

そんな時だった。

ピンポーン

「ん、なんだ?なんでインターホンがなったんだ?誰か客人か?」

レイドがインターホンに反応する。

(客人なんているわけないと思うけどな。俺に交友関係はないからな)

レイドはそんなことを思いながら玄関に歩みを寄せる。

「ヒメカちょっと待っててくれ」

「うん、分かった」

レイドが玄関の前に立つ。

(なんだろうな?)

レイドは玄関にあるモニターを覗き込む。

(いつも思うがなんでモニターを玄関だけに設置してあんだろうな。別の場所とかフィールドスペース*とかを設置設定すればわざわざここまで足を運ぶ必要もないのに)

*空間上に画面を出す機器や空間上に映し出された画面を指す言葉。

レイドはめんどくさがりながらもモニターを見る。そこには1人の男の人がいた。

(あ、配達か。そういえば、母さんが何か頼んでいたな。多分それか)

「はーーい。どうぞー」

「ごめんくださーい。スラッシュサイン*の方よろしいでしょうか?」

「あ、ちょっと待ってください」

*本人のサインを記憶している一度限りのペーストデータのこと。

(たしかこれだった)

レイドはモニターの横にあるスラッシュサインをスキャンする。

「どうですか?」

「大丈夫です。今からそちらに宅配物を送ります」

シュッ

玄関先に荷物が現れる。

「配達ありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ仕事なので。では、失礼します」

そう言って宅配のお兄ちゃんは去っていった。その時、その人物は少し薄気味悪い笑顔をしながら歩いていたのを目撃されたと後に話を聞く。

レイド達にはそんなことは伝わらなかった。

「母さんの部屋に持っていっとくか。部屋には入れないけど荷物はペーストサインと本人認識で宅配物だけは入れられるからな」

(ちゃんと母さん宛だよな)

レイドは宅配物の宛名をしっかりと確認してから、宅配物を持って母親の部屋に行き荷物を母親の部屋のドアをすり抜けさせ、母親の部屋に送った。

「宅配物だったんだ。さっきから見てて思ったけどそのシステムってどうなってるの?」

「あーこれはなー」

レイドがヒメカに説明しようとした時だった。

ボンっ

凄まじい音が家の中に響いた。

「なんだこの馬鹿でかい音は!!」

レイドとヒメカは咄嗟に音のした方に振り向く。

(何か嫌な予感がする…)

この後、レイドの嫌な予感は的中する。

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