第10話 普通の友達
「おはようございまーす!」
「おはよう」
朝の暖かい日差しに負けないくらいの浦内の挨拶で、こっちも気分が明るくなる。
初めて駅の改札で”おはよう”を交わしてから、大体一週間が経ったかな。
乗る電車を同じにするために、俺が早起きをするか、浦内が時間を遅らせるか。
一度、どちらが時間を合わせるか話をしたが、結局俺が折れる形になった。
おかげで、夜の自由時間を削るハメになったのが、朝ゆとりを持って行動するのも悪くないなと思うようにもなってきた。
「健人さん、昨日の晩ご飯何でした?」
改札を出るところで、浦内といつも通り他愛のない話をする。
「カツオのたたきと菜の花のお浸し」
「えー! 美味しそう! 春っぽくて良いですねー」
「そっちは?」
「私はねー、オムライスと肉じゃがを作りましたよ!」
「そうか、うまそうだな」
「はい! 美味しかったです!」
こんな感じの毎朝の会話で分かったことがある。
一つ目、どうやら浦内は晩ご飯を自分で作ってるらしいこと。
これに関しては詳しく聞いてないので、理由はわからない。
もう一つ、いつも料理の取り合わせが不可解だということ。
これに関しては、こいつのセンスの問題だと思ったから聞く気もない。
けれど、一つ目に関しては聞けば解決するだろうし、多少気になる点でもある。
……うん。なら、聞いてみるか。
聞けない理由があるわけでもないし。聞かないオーラを出されてもいない。
俺が「なあ、浦内」と言うと、浦内は前を向いて歩いたまま「はい」と返事をする。
「お前、毎日夕飯自分で作ってるのか?」
「あー……はい。うち、両親が家にいないんです。両親も占いをやってるんですけど、仕事で世界中を飛び回ってて、年に一回帰ってきたら多い方です」
「それは……すごいな」
「はい! 二人とも凄腕なんです! あ、私、お姉ちゃんもいるんですけど、お姉ちゃんも腕が立つ占い師です。まだ世界レベルではありませんけど、日本全国を飛び回ってますね。だから、ほとんどうちには私一人なんです」
「お姉さんも、そんなに家に戻らないのか?」
「あ、いえ。お姉ちゃんは月に一回くらいは帰ってきますよ」
……それでも月に一回か。
その間、家で一人でいるんだな。
夜ご飯を自分で作って、それを一人で食べて。
おやすみも、おはようも言う相手が家にはいないんだ。
駅で交わす”おはよう”は俺にとっては今日の二人目だけど、こいつにとっては今日初めての”おはよう”なんだな。
……ちょっとの早起きくらい、我慢してやるか。
今、ちょうど駅と学校の真ん中くらいまで来たかな。
浦内との話はまだ続く。
「そういえば、健人さん。次はいつ連れて行ってくれるんですか?」
「……どこに?」
「決まってるじゃないですか! ゲーセンですよ、ゲーセン!」
「本当にまた行く気だったのか……。というか先週行ったばかりだろ」
「えー、いいじゃないですかー。一緒に行きましょうよー」
「そんなに行きたいなら、俺以外の友達と行けばいいだろ……あ」
やべ。
口が滑った。
こいつの口から、”俺以外の友達いない”発言を聞いてから一週間経ったが、それ以降も学校で占い関係以外の交友は見たことがないし、授業後に遊びに行ったなんて話も聞かない。
……やっぱり。
俺の真横にピタリとついていた浦内は、少し後ろをトボトボと歩いている。
視線も落として、全く目が合わない。
あれから進展はないんだろう。
歩く速度を少し落とすも何も言えないでいると、浦内が口を開く。
「私、昔から友達少ないんです。占いはできるから人は集まってくるんですけど、そこから繋がらないっていうか……。みんな私と話す目的は占いなので、それが終われば満足して去っていきます。そんな満足した背中を見ると、どうしてもそれを引き止める勇気が出なくて……」
「なるほどな」
「でも、友達がいなくても良いんです。私の力がみんなの役に立っているなら! そうじゃなかったら、自己紹介で占い師やってるーなんて言いませんし。
黙って普通の女子高生になろうと思えばなれたのに、やらなかったのは私なんですよ」
「それも……そうだな」
「はい! けど、ゲーセンには行きたいので、健人さんが連れてってくださいね」
「なんでだよ」
トコトコと早歩きで俺に追いついた浦内。
うーん。
最後は冗談まじりに濁されたけど、本当にそれで良いんだろうか。
いや、占いを生きがいにしてるってことは十分伝わったし、それは本心だろう。
……けどなあ。
普通の友達も何人かはいたほうが楽しいと思うんだけどな。
……うん。
「やっぱり、そうだよな」
「はい?」
「よし、浦内。今日の授業後、付き合ってくれ」
「お! ゲーセンですか?!」
「いや、違う。前回はお前の行きたいところに行ったんだ。今回は俺に付き合ってもらうぞ」
「……はあい」
「なんだその気の抜けた返事は。しゃきっとせい」
……ん。
お節介かもしれないけど、やるだけやってみるか。
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