第9話 一緒に登校しましょうよ!

「ごちそうさまでした」


 いつもより少し遅い夕飯を食べ終えて、使った食器を流しにさげる。

 その後、食卓を水拭きして、リビングのソファーへダイブ。

 更に、ソファーで少し休憩し、自室に移動して宿題と予習をする。

 キリの良いところで切り上げて、風呂と歯磨きをしたら十二時過ぎまで自由時間。


 これがいつものルーティーンだ。


 けれど、さっきも行った通り、今日は夕食が少し遅かった。

 自由時間はあまりないかもしれんな。


 言うまでもなく、夕食が遅かった訳は、浦内とゲームセンターとファミレスに行ったからだ。


 母さんは「今日は遅かったねえ。もしかして彼女でもできたのかい?」と詮索してきたが、「そんなの、いないよ」と返した。

 事実、浦内とは恋人でも何でもないし。



 ……話が逸れた。


 今は、片付けをした後、ソファーでゴロゴロしている。

 もう少し休憩しようか、帰宅が遅かった分早めに勉強に移ろうか悩んでいるところだ。


 就寝前の自由時間を取るか、今の安息を取るか。

 実に悩ましいな。


 ——ブブッ


 お。

 LIMEか?


 携帯の振動を感じて画面を見ると、浦内からのLIMEが来ていた。


『約束のノートですよん』

 そのメッセージの後にノート一枚ずつの写真が送られている。


 ……ちょうど良い。

 勉強しに行くか。


『ナイスタイミング。助かる』


 悩みを解決する良いタイミングだ。


 俺の返事に『なにがですか?』と質問が届いたが、既読だけつけてソファーから立ち上がった。





 ……にしても。



 ”ですよん”って。



 だんだんフランクになってきたてないか?

 丁寧語なのかタメ口なのかわからんぞ。


 ……というか、何であいつ丁寧語なんだ?


 移動中、先ほどのやり取りを振り返る。


「明日聞いてみるか」


 自室に到着したので、頭を切り替えてデスクに向かう。


 まずは、数学のノート移させてもらうかな。


 鞄から教科書・ノートを開いて、その横に浦内とのトークルームを開いたスマホを並べた。



 ◇◇◇



「ん〜〜〜。よし、今日はこれくらいにするかな」


 椅子に座ったまま両手を上に伸ばして、上半身の凝りをほぐす。


 なんとか今日でた宿題と、明日の予習は終えることができた。


「……風呂入るか」


 勉強中ずっと机に置いていたスマホをチラッと見るも、浦内からLIMEは来なかった。

『なにがですか?』に俺が既読をつけて終わっている。




 そこで、ハッとする。



「今、なんで俺はスマホを見たんだ?」


 いつもなら、スマホなんて着信がある時か、ウェブを使いたい時くらいしか触らないのに。


「……なんでだろうな」


 ……。

 まあ、いつものあいつなら既読スルーされたら突っかかってきそうなもんだし。

 それが気になったんだろうな。うん。


 俺はスマホを手に一階へ向かった。



 ◇◇◇



「……あ」


 翌朝。


 新蘭駅で電車を降りて改札を通るところで、見知った女子と目があった。


 その女子は俺を見つけるなり、人の間を縫ってこっちに近づいてきた。


「おはようございます! 健人さん!」


「お、おはよう」


 その女子は、言うまでもない、浦内だ。

 周りに人もいるからか、控えめだが元気に朝の挨拶をされる。


「健人さん、いつもこの時間の電車なんですか?」


「いや、今日は早起きしたから、いつもより一本早めた」


「そうなんですね。じゃあ、明日からも早起きしてください! 一緒に登校しましょうよ!」


「……考えておく」



 俺と浦内は駅を出て、並んで学校へ向かう。


 まさか、こんな偶然があるとはな。

 昨日遊んだ女子と、翌朝登校中に会うなんて。


 ……まさか。


 横にいる浦内を見る。


 ……こいつ、本当に俺の運命の人なのか?


 そんなことが頭をよぎるも、すぐさま頭をブンブンと振る。


 いやいや、そんな訳ない。


「偶然だろ」


「? 何か言いました?」


「……いや、なにも」


 俺の独り言が気になったのか。

 信号が赤になり並んで立ち止まったところで、浦内がこちらを向く。


「ねえ、健人さん。何かお話ししましょう!」


「お話?」


「はい! せっかく一緒に登校してるんですから」


「それはそうだが、急に言われてもな……」


「うーん……。じゃあ、私に何か聞きたいこととかありませんか?」


「聞きたいこと……」


 それも、急に言われてもな。

 と口は言おうとするが、頭がそれを書き換える。


「あるな。聞きたいこと」


「本当ですか? いいですよ、なんでも聞いてください」


「ああ。それじゃあまずは……」


「あっ! ちょっと待ってください!」


「なんだよ」


「スリーサイズとか、エッチな質問はダメですからね! それ以外でお願いします」


「聞くか、んなもん」


 ちらりと浦内の平坦な胸板を見た後、視線を前に戻す。


「あーーー! 今私の胸見ましたよね! エッチ!」


「見てない」


「ふーんだ。どうせ私はぺったんこですよーだ」


 ……気にしているのだろうか。

 そうだとしたら悪いことをしたが、謝ったら胸を見ていたと白状することになる。今回は心の中に留めることにした。


 すまんな、浦内。



 ……それじゃあ、気を取り直して。



「じゃあ、質問するぞ」


「はい。どうぞ」


 ようやく本題だ。


「お前さ。クラスの連中から、何回も占い頼まれてるけど、金貰ってるのか? 最初の自己紹介の時は一回目サービスって言ってたけど」


「あー……いえ。結局ずっとタダでやってますよ。思ったより皆さん占いがお好きだったみたいなので」


「……逆じゃないのか? 需要があるなら高く料金を設定しないと。儲からなければ疲れるだけだろう」


「うーん、それは違いますね。儲からなくても楽しいですから。私の力で誰かおを笑顔にできれば、私も嬉しいんです。それに、私、これでもプロなので。高校生相手に高い値段請求したら信用が一発で地に落ちちゃいます」


「……なるほどな」


 流石プロともなるといろんな変数があるものなんだな。


 んで。

 聞きたいことはまだある。


「それと。お前、クラスの連中を占ってる時は俺と話してる時と別人だよな」


「そうですか?」


「ああ。声のトーンも明るいし、表情も柔らかいし。なんていうか……外向けの顔って感じ?」


「私にとって占いは生業ですからね。仕事中はそういうスイッチが入るものです」


「……なるほどな」


「もうないですか? 聞きたいこと」


「ああ。後、昨日の夜——」


「夜?」


「……やっぱ、なんでもない」


「? そうですか」


 ——一体なにしてたんだ?


 そう訊こうと思ったけど、それじゃまるで俺がこいつからのLIMEを待ってたみたいだなと思ってやめた。


「あ! そうだ、学校内では”健人さん”呼びはやめろよ」


「えー! なんでですかー!」


「……いつもの理由だよ」


 俺は早歩きで学校へ歩いた。

 浦内がついてきているか気にしながら。

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