第6話 今日の放課後暇か?

『さっき北原くんと何話してたんですか?』


 浦内からの問いに授業そっちのけで返事をうつ。


『昨日あったことを説明した。お前の占いの結果と、それが外れてることを証明するための検証をするってこと』


 すると相変わらずの速さで返事がくる。


『えーーー! ずるい!』

『昨日クラスの人に言うなって言ったの健人さんじゃないですか! ぷん!』


『あんなこととが起きたんだ、しょうがないだろう。それに元はと言えばお前が北原の前で健人さんとか言うからだぞ』


『そんなーーー』

『ぷん』

『私も誰かに言いたいなーーー』


 おいおい。

 これ以上話しを広めたくないってのに……。


 ……ん?

 待てよ。


『お前、俺が言ってもいいって言ったら誰に言うつもりなんだ?』


 そういえば、入学以降浦内こいつが誰かと遊んでるところも、おしゃべりをしたりしてるところも見たことがない。

 休み時間も授業後も、クラスの占い好きの女子に囲まれて占ってばっかりだ。



 こいつ……友達いないのでは……?



 図星なのか、珍しくかなり時間を置いた後に、ようやく返事が返ってきた。



『黒板に相合傘を書きます』


『やめろ』



 やっぱり……これで確信した。


『お前、友達いないだろ?』





『はい』


 肯定までの間がなんか重いが。

 やっぱり、占い以外で繋がってる友人はまだいないんだな。


 重苦しい展開に次のメッセージを打てないでいると、浦内の方から送ってきた。



『私、健人さんしか友達いないです』





『そうか』



 ……なんだろう。


 これが有名人特有の問題というやつなのだろうか。

 表面上の付き合いばかりなんだな。


 …………。


『なあ。お前、今日の放課後暇か?』


『はい。何も予定はないです』

『どうしてですか?』


 深いことは何も考えておらず、ただ指が勝手に動いた。


『じゃあ、どこか行くか』


『え』

『え』

『行く!』

『行きます!!』

『お願いします!!!』


 光の速度で返信が返ってくる。

 一連のメッセージの後にカモ男が送られてこないあたり、マジリアクションなんだろう。


 チラッと横目で浦内を見てみると、尻尾があればちぎれそうなほど振りそうな顔をしてる。

 ……確かに、可愛いかもな。


 俺は視線をスマホに戻してLIMEを続ける。


『どこか行きたいところあるか?』


『ゲームセンターに行ってみたいです!』


『わかった。じゃあ阿樽あたる駅で待ち合わせしよう』


『お? 阿樽ですか? どうして新蘭あたらんじゃないんですか?』


 新蘭あたらん駅は学校の最寄の駅で、阿樽駅あたる新蘭あたらん駅から電車で五つほど離れた駅だ。


『そこだとここの生徒に見られるかもしれないだろ』


『ああ〜』

 そして、了解! と敬礼するカモ男のスタンプが送られた。


 ”ゲームセンターに行ってみたいです”か……。

 今まで行ったことない口ぶりだよな。


 高校だけじゃなくて、これまでも友達がいなかったんだろうか……。

 浦内に対して心配に近い興味が湧いてくる。


 ——ブブッ


 黒板をぼんやり眺めながら思慮に耽っていると、スマホの振動が再び俺の意識をLIMEに戻した。


『学校のみんなに内緒でデートって、なんだかドキドキしますね!』


 ぐはっ……!


 ”デート”という言葉に大きく心揺さぶられる。


 ……ふーーー。

 落ち着け。

 俺は浦内に恋愛感情なんて持ち合わせていない。

 そうだ、これは昨日の話の続きじゃないか、うん。


『勘違いするな。あくまで占いの検証の一環だ』


『あ、そっか。まあそれでもいいです。ゲーセン連れてってくださいね!』


『ああ』


 ——キーンコーンカーンコーン


 一限目の授業が終わったと同時に、浦内とのLIMEも終了した。



 ◇◇◇



 阿樽駅の改札前のコンビニの前。

 浦内との待ち合わせ場所に到着した。


 ……そういえば、浦内には”授業後”としか言ってなかったけど。

 あいついつも授業後はクラスの女子に占いせがまれてるよな。


 果たして、いつくることやら。


 が、そんな俺の不安はすぐさま杞憂となった。


「健人さーん! 待ちましたー?」


 改札を出たところで俺を見つけたのだろう、手を振りながら浦内が駆け寄って来た。


「いや、俺も今来たところ。同じ電車だったかな」


「おお! やっぱり私たち息ぴったりですね!」


「……。ゲーセンはこっちだ、ほら行くぞ!」


「あー! スルーしないでくださいよー!」


 浦内を先導するように一歩先を歩く。


「そういえば、来るの早かったな。てっきりいつも通り、占い好きの占い渋滞に遭って遅くなると思ってた」


「ああ。今日は”私用があるからー”って占いお休みにさせてもらったんです」


「よかったのか?」


「はい! だって、せっかくゲームセンターに行けるんですもん! それに、健人さんが誘ってくれたデートですし」


「……さっきも言ったろ。これは検証だ。デートではない」


「んー。そーいうことにしときますね」


 ……浦内の先を歩いていてよかった。

 ここなら浦内に顔を見られることもない。


「あれー? 健人さん、顔赤くなってません? 耳真っ赤ですけど」


「んなっ! な、な、なってない!!」


 くそ。

 ……今度からイヤーマフも持ち歩かないといかんな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る