第3話 証明してください!

 ……今、なんて言ったんだ?


 俺の運命の相手が……浦内さん?


 占い結果は信じるつもりもなかったけど、あまりに突拍子のないことを言われて流石に動揺する。


「そして、私の運命の相手も——」


 こ、こいつ! 話を続けるつもりか?!


「ちょっ、ちょっと待て!!」


 俺は浦内さんの手を引っ張って教室から出た。

 北原を残して……。





「おい! さっきのは一体なんだ!」


 階段の踊り場まで浦内さんを連れて、混乱した頭を整理しようと試みる。

 浦内さんは目線を落としながら髪を指でくるくるとしながら答えた。


「何って……占いの結果です」


「俺は”高校生活について”占ってくれって頼んだんだ! なぜ第一声に”運命の相手”が出てくる?!」


「だって……高校生なんて色恋に結びつけとけば喜ぶから……」


「それで、勝手に恋占いに変更したってのか」


「変更はしてません! 恋占いを交えて今後の高校生活を占おうとしただけです! 私だってプロなんですよ? 勝手によそ事を占うわけ無いじゃないですか」


 プロ意識が強いのか、初めて反論された。

 そういえばいつも見る八方美人な浦内さんの顔でもなかった。


 反論の勢いのままに、浦内さんは俺に質問をする。


「あの、なんで教室を出てこんなところに連れてきたんですか?」


「なんで、って。お前さっきなんて言おうとしてた?」


「……私の運命の相手も梶本くんです、って」


「それだよ!」


 俺は人差し指を突きつける。


「北原はお前の占いを信じてるんだ! そいつの前でそんなこと言われたら、クラス中に広まっちまうだろうが!」


「北原……?」


 むうっと頬を膨らませる浦内に続ける。


「そこまで言ったら有名人が告白してるようなもんだぞ!」


「別にいいじゃないですか、それが運命なんですから」


「良くない! クラス中のお前のファンから何されるかわかったもんじゃないだろ! 俺は占いなんて信じないんだ。それなのにお前の占い結果に振り回されるなんてたまったもんじゃない!」


 勢いのままに思っていることを全て吐き出した。


 言い終わって軽く肩で息をしている俺とは対照的に、浦内は両手に拳を作りながらぷるぷると震えていた。



 ……やばい、言い過ぎたか?


 流石に入学早々女子を泣かせるのはまずい。

 占い結果関係なしに女子からの視線が凍てついてしまう。


「お、おい……大丈夫か……?」


 俯く浦内の顔を恐る恐る覗き込もうとしたところで、キッと力のこもった眼差しを向けられた。


「私の占いは間違いありません」


「えっ」


「私の占いは絶対外れません。私とあなたは運命のパートナーなんです! だから私と付き合ってください!」


 静かだが、力強く言い切る浦内。

 その様子に共鳴する様に、俺のボルテージも上がっていく。


「占いなんて所詮気の持ちようだろ?」


「所詮?!」


「俺は占いなんて信じない! これまでも、これからも。運命の相手だって自分で見つけ出してみせる!」


「どうしても、占いは信じないんですか??」


「ああ」


「どうしても?」


「そうだ!」


 浦内も俺も、一歩も引かない。


 このまま言い合っていても埒が明かないと思ったのか、浦内から提案される。


「じゃあ、証明してください」


「……なに?」


「私とあなたが運命の相手じゃないと証明してください!」


「証明って……一体どうやって?」


「簡単じゃないですか。デートとか電話とか、好きな人同士でするようなことをして、私たちの反りが合わないことを実証すればいいんです」


「なるほどな。お前も身をもって体感すれば、占い結果が間違いだったと納得してくれるってわけだ」


「はい。もしそうなれば、の話ですけどね」


「いいだろう! その話、のった! 俺とお前の相性最悪ってことを証明してやるよ!」


「こっちこそ! 私の占いは絶対だってことを証明してみせます!」


 こうして俺と浦内の真剣勝負が始まった。



「じゃ、早速! 携帯、出してください」


「携帯? なんで?」


「なんでじゃないですよ! 連絡先を交換しないと何もできないじゃないですか」


「ああ……そうか」


 俺がポケットからスマホを取り出すと、浦内もスッとスマホを俺の前に差し出す。


「はい! これ、読み取ってください、私のLIMEの連絡先です」


「……よし、読み込めた。あとでテキトーに送っとくから」


「はい! 絶対ですよ! 絶対私との相性抜群ってことを認めさせますから!」


 浦内は軽快なステップで階段を降りた後、こちらに振り返り大きく手を振った。


「LIME、待ってますからー!」


 その言葉を最後に、浦内は教室の方へスキップしていった。



 ……もしかして、うまいこと乗せられたのでは?



 少しした後に俺も教室に戻ると、一人呆然と席についている北原だけが残っていた。

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