第2話 人気占い師の浦内さん
「えー。では、まずは自己紹介をしましょう。一人三十秒くらいの簡単なものでいいので、青木くんから順番にお願いします」
高校に入学して最初のホームルーム。
よくあるだろう自己紹介を順番するイベントが起こった。
「青木太郎です。中学の頃はサッカー部に入ってました。高校でも続けたいと思ってます。サッカー好きな人いたら声かけてください。よろしくお願いします」
一人目の自己紹介が終わり、教室にパチパチとまばらの拍手が起きる。
……ま、よくある自己紹介の時間かな。
しかし、真剣までもいかない強さの拍手を送りながら考えていた俺の予想はすぐに覆される。
「
青木に向けられた拍手の数倍のざわつきが教室に広がる。
「え? 嘘、本物?」
「でも聞いたことある、シークレット浦子」
「私も」
「え? ron-roの占いコーナーの?」
「そうそう!」
騒いでるのはほとんど女子だった。
「同じクラス特典で、皆さん最初の一回を無料で占わせていただきます! お気軽に声をかけてくださいね」
最後にクラスメイトに向けて優しく微笑み、浦内さんの自己紹介は終わった。
——キーンコーンカーンコーン
チャイムがなると同時に、浦内さんの席の周りにはクラスの女子が押しかけていった。
「ねえ、浦内さん! 私占って欲しいことがあるんだけど!」
「ずるい! 浦内さん、私も!」
「私も〜!」
「はい、順番に占っていきますので」
暴徒と化した女子生徒を笑顔で操縦する浦内さん。
浦内さんを囲む黒山は隣の列の俺の席をも呑みこむ勢いで増殖し、俺と北原は教室後ろのロッカーまで避難を強いられていた。
「なあ梶本。お前、浦内さんのことどう思う?」
「うーん。『どんな相手に対してもニコニコしなきゃいけなくって、客商売は大変そうだなあ』かな。北原は?」
「『美人だとは思ってたけど、まさか有名人だったとは! あとでサインもらわなきゃなー』だな」
「ミーハーなやつ」
北原は俺の前の席で入学式とかに少しだけ話しただけだったが、こうやって共に避難したところからよく話すようになったかな。
「なあなあ、サインのついでに占ってもらおうぜ!」
「占いがついでかよ? 浦内さんに怒られるぞ」
「確かに……。なあ、梶本は占ってもらうとしたら何占ってもらうんだ?」
「俺は……占いはいい」
「え! なんでよ?」
「俺、占いなんてのは所詮気の持ちようだと思ってるからなー。今まで占いに頼らなくても生きてこられたし」
「お前……なんか堅物って感じだな」
そういうお前はノリが軽いよな、って言おうと思ったけどやめたのを覚えてる。
「次、辻さんね」
「はーい!」
その日から授業の合間は北原とロッカーに避難するのが通例になった。
◇◇◇
そして問題の昨日。
とうとう痺れを切らした北原が俺に打診してきた。
「なあ梶本、やっぱり浦内さんに占ってもらおうぜ! 浦内さんは本物だぜ! クラスの連中の話聞いても百発百中だ!」
「……前も言ったけど、俺は占いは信じないから。というか北原、まだ占ってもらってなかったのか」
「無料なのは最初の一回って言ってたからさ、お前がその気になるまで何を占ってもらおうか吟味しようと思ったんだよ」
「その考え、改めないと永遠に占ってもらえないぞ。諦めて一人で行ってきてくれ」
「そんなつれないこと言うなよー。俺たち友達だろー? 男一人でやってもらうのってなんか恥ずかしくってよー」
北原は両手のひらを合わせて俺に頭を下げる。
「なっ? この通りだから!」
「おいおい……」
まさか、頭を下げてお願いされるとは……。
ここまでされて、無下に断るのは憚れた。
『信じる信じないはあなた次第』って諺もあるくらいだ。
占ってもらって、その結果を俺が無視すればいいだけか。
別に浦内さんに個人的な恨みもないし、会いたくないわけでもない。
俺は北原の提案を飲んで、放課後に二人で占ってもらうことにした。
◇◇◇
放課後。
クラスメイトの大半が部活や帰宅で教室を後にした後。
俺と北原は椅子を並べて浦内さんの席の前に座っていた。
浦内さんの机の上には小さな座布団の上に水晶が置いてある。
「北原くんと梶本くん、だよね? よろしくお願いします」
「こ、こちらこそお願いします」
浦内さんに丁寧にお辞儀をされて、それにつられるように俺たちも深々とお辞儀をする。
「じゃあ、どちらから占いましょうか? 北原くん? 梶本くん?」
首を軽く傾げながら笑顔で尋ねられる。
……そういえば順番なんて決めてなかったな。
なら北原を先に占ってもらって、俺は適当な理由で退席すればいいじゃないか。
名案だな、よし。
「北は——」
「梶本から先に占ってやってください!」
こ、こいつ……どう言うつもりだ?
横目でチラ見すると、顔を真っ赤にした北原がいた。
こいつ、緊張しすぎてテンパりまくってるのか?
一体何を訊くつもりなんだ……?
「わかりました。じゃあ梶本くん、何について占いましょう?」
意に介さず話を進める浦内さん。
正直占ってもらわなくてもいいんだが、それも話がややこしくなりそうで嫌だな。
俺は適当に「じゃあ、今後の高校生活について」とお願いし、浦内さんは「わかりました」と水晶に手をかざした。
ほどなくして占い師の顔をしていた浦内さんの顔が崩れ出す。
「こ、これは……?」
明らかに動揺している。
これまでクラスメイトに見せてきた八方美人な顔じゃない。
何か悪い結果でも見えてるんだろうか?
けど、俺は気にしない。
どんな結果が出ようが俺は占いは信じないからな。
黙って占いが終わるのを待つことにした。
「……お、終わりました」
水晶にかざしていた両手を机に置き、俺の目をじっと見る浦内さん。
心なしか顔が赤くなっている気もする。
「お疲れ様。で、結果は?」
信じる気は無いが、聞かないと終わらないだろうし、体裁上結果を訊く。
……いや、今回は少し興味があるかもしれない。
これからの高校生活、どんな悪いことが起きると言われるのか。
フィクション作品を見るのに近い興味だけど。
「梶本くん……あなたの……」
言いにくいことなのか、浦内さんの口からなかなか言葉が出てこない。
よほど悪い結果なのか?
プロがここまで躊躇するなんて。
言い方を考えてるのかもしれないけど、俺はそもそも結果を機にするつもりは無い。
俺の占いはさっさと終わって欲しいんだ。
「どうしたの? はっきり言っていいよ」
俺のその言葉に意を決したように、浦内さんは開いていた口を一度真一文字に結んだ後、今度は強く話し出した。
「梶本くんの運命の相手は……私なんです!!」
「……はい?」
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