【第4話】リーダーとリーダー
朝の古びた校舎の中。
「それでは、プログラミング授業第一講座を行う。」
渋い声で言うのは、
「プログラミング言語かぐや」の製作チームの中枢にいたことがあり、日本のプログラミングの祖父と言われている。
今はもう引退し、こうやって僕たちにプログラミングを教えてくれているのだ。
それもあって、俺たちのプログラミング技術はプロの領域まで到達している。
「お前たちは、まだ、奢ってはならない。弱点もあるし、さらなる工夫点もある。威張るのは、まず、G+コースを超えてから言え。」
そう、俺たちにはまだ成長できる場所があるのだ。俺たちの先輩には、プログラミング言語かぐやに、新しい単語をプラスして、さらに使いやすくした人もいる。
俺たちの目標は、G+コースに勝利すること、そして、かぐや製作チームに認められる新単語を開発することだ。
田中先生の授業は、あっという間に過ぎていった。
★
キーンコーンカーンコーン
迎えた昼休み。俺は楓と亮と、図書室に向かっていた。図書室は、この校舎で一番空気が綺麗で、天城高校の伝統を感じる場所だ。
俺たちは、新単語開発の糸口を探すために、ここに来ていた。
図書館は本来静かであるはずなのだが、
「ねぇ、お願いがあるの!」
唐突に、聞き覚えのある大きな声が響く。全員の視線が、高円凜々花の方に向かう。
「まず、落ち着いて静かにしてください。で、お願いって何ですか?」
それに冷静に答えたのは、メガネに緑色の長髪を持つ、The 図書委員って感じの女子だ。
「うちの猫が居なくなったの。赤色と茶色の縞模様の毛を持ってて、小さめで、耳が綺麗な三角形で。」
俺のことだ。胸が軋む。
「ねえ、ポスターを作って、貼ってもいい?天城高校の人たちなら、探してくれるかも。」
高円凜々花が、泣きそうな顔をする。
「分かりました。ですが、広告という物には、広告費という物が必要ですよね?」
The 図書委員の冷たいセリフに、高円凜々花の顔の動きが止まった。
「今週搬入される本千冊のラベル張りと整理で、手を打ちましょう。」
「分かった。それで、あの子が見つかるなら。」
二人の会話が終わる。高円凜々花が俯き気味に去っていくのを見て、俺は罪悪感に苛まれる。
楓と亮が、軽やかな足取りで、The 図書委員の方に向かっていく。俺は、その場から動けない。
「三枝さん、やったね!」
「ざまあみろ、だな。」
楓と亮が、二人でThe 図書委員=
三枝美紀、彼女は俺たち「かぐやコース」のリーダーなのだ。
つまり今の交渉は、三枝さんVS高円凜々花の戦いであり、「かぐやコース」と「G+コース」のリーダーによる戦いで、三枝さんが勝利したことになる。
けれども、俺は素直に喜べない。胸の内が、もやもやしている。
「朱羽、こっちに来いよ。」
「ああ、ちょっと待って。」
勝利を祝うムードの中、俺だけが、下を向く。
それでも、俺は割り切って、できるだけ明るくふるまいながら、三人の方へと向かった。
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