【第4話】リーダーとリーダー

 朝の古びた校舎の中。


「それでは、プログラミング授業第一講座を行う。」


 渋い声で言うのは、田中たなか卓造たくぞうという名前のプログラミング教師だ。白髪が目立つ70代ぐらいの方だが、実力は相当で、


 「プログラミング言語かぐや」の製作チームの中枢にいたことがあり、日本のプログラミングの祖父と言われている。


 今はもう引退し、こうやって僕たちにプログラミングを教えてくれているのだ。


 それもあって、俺たちのプログラミング技術はプロの領域まで到達している。


「お前たちは、まだ、奢ってはならない。弱点もあるし、さらなる工夫点もある。威張るのは、まず、G+コースを超えてから言え。」


 そう、俺たちにはまだ成長できる場所があるのだ。俺たちの先輩には、プログラミング言語かぐやに、新しい単語をプラスして、さらに使いやすくした人もいる。


 俺たちの目標は、G+コースに勝利すること、そして、かぐや製作チームに認められる新単語を開発することだ。


 田中先生の授業は、あっという間に過ぎていった。



 キーンコーンカーンコーン


 迎えた昼休み。俺は楓と亮と、図書室に向かっていた。図書室は、この校舎で一番空気が綺麗で、天城高校の伝統を感じる場所だ。


 俺たちは、新単語開発の糸口を探すために、ここに来ていた。


 図書館は本来静かであるはずなのだが、


「ねぇ、お願いがあるの!」


 唐突に、聞き覚えのある大きな声が響く。全員の視線が、の方に向かう。


「まず、落ち着いて静かにしてください。で、お願いって何ですか?」


 それに冷静に答えたのは、メガネに緑色の長髪を持つ、The 図書委員って感じの女子だ。


「うちの猫が居なくなったの。赤色と茶色の縞模様の毛を持ってて、小さめで、耳が綺麗な三角形で。」


 俺のことだ。胸が軋む。


「ねえ、ポスターを作って、貼ってもいい?天城高校の人たちなら、探してくれるかも。」


 高円凜々花が、泣きそうな顔をする。


「分かりました。ですが、広告という物には、広告費という物が必要ですよね?」


 The 図書委員の冷たいセリフに、高円凜々花の顔の動きが止まった。


「今週搬入される本千冊のラベル張りと整理で、手を打ちましょう。」

「分かった。それで、あの子が見つかるなら。」


 二人の会話が終わる。高円凜々花が俯き気味に去っていくのを見て、俺は罪悪感に苛まれる。


 楓と亮が、軽やかな足取りで、The 図書委員の方に向かっていく。俺は、その場から動けない。


「三枝さん、やったね!」

「ざまあみろ、だな。」


 楓と亮が、二人でThe 図書委員=三枝美紀さえぐさみきの肩を叩く。


 三枝美紀、彼女は俺たち「かぐやコース」のリーダーなのだ。


 つまり今の交渉は、三枝さんVS高円凜々花の戦いであり、「かぐやコース」と「G+コース」のリーダーによる戦いで、三枝さんが勝利したことになる。


 けれども、俺は素直に喜べない。胸の内が、もやもやしている。


「朱羽、こっちに来いよ。」

「ああ、ちょっと待って。」


 勝利を祝うムードの中、俺だけが、下を向く。


 それでも、俺は割り切って、できるだけ明るくふるまいながら、三人の方へと向かった。

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