【第3話】幼馴染と親友

 にゃああ。


 目を開けて、あくびも猫色に染まっていることに、驚く。そして、時計を見る。Am6:00。横には眠る高円凜々花の顔。


 ……!


 学校は?俺、どうやって行けばいいんだ?


 俺は自分の姿を見回して、ふさふさの頭を抱えた。


 人間に戻りたい!


 そう切望すると、いきなり、体が光り出す。


 一瞬意識が飛び、体におかしな感覚。


 そうして、全身を見渡せば、俺は人間の姿に戻り、服を着て、カバンを持っていた。


 髪はさっぱりとしていて、昨日、猫の状態で体を洗ったことは、反映されているみたい。


 よくわからないけど、カバンはあるし、多分、昨日と持ち物は同じだ。


 私服は昨日と同じだけれど、仕方ない。


 それと、俺はもうこの家に戻る気はない。


 そう決めたけれど、心は痛む。


 土砂降りの雨の中、傘も持たずに俺を助け、愛情をこめて俺を洗ってくれたことに、俺は高円凜々花の、可愛い一面を見た。


 去年、敗北して涙をのんだ俺たちを見下ろした冷徹な顔と、猫になった俺を愛でるその顔は、違っていた。


 ここで、俺がいなくなったら、高円凜々花は悲しむだろうし、つらいだろう。


 それでも、俺には俺のことがある。


 毎朝、高円凜々花が家を出た後に、人間に戻って学校に行き、帰りも、高円凜々花より前に家路につかなければならない。遊ぶことも、外に行くことも、ままならない。


 俺はこんな生活に耐えられる自信がないし、何より、高円凜々花が嫌いだ。


 俺は、まだ寝ている高円凜々花の顔を覗き込んで、最後に罪悪感をかみしめた後、扉を閉めた。


 小さくなる高円凜々花の家を後ろに、俺は走り出した。



「おはよう、楓」

「おはよう、朱羽」


 俺と名前で呼び合う相手は、俺の幼馴染である秋月あきづきかえでだ。短めなオレンジ色の髪が目立つ彼女は、家が隣で、生まれたときからの仲だ。


 独り暮らしを決めてからも、親の勝手な計らいで、俺と楓はアパートの隣に住んでいる。


 今日も俺たちは、部屋の前で、時間を決めて学校に向かう。


「昨日、お部屋、一日中暗かったけど、どうしてたの?」


 ヤバい。楓は色々なところにすぐ気づく。


「んー、部屋を暗くして映画見てたんだ―。」

「何の映画?」


 え、えっっっっと……。


「とっとこハム太郎かな…。」


 まずい。そんなの見たことない。


「へぇ、可愛いもの好きなんだね!」


 別に好きじゃないんだけど……。


「私、家にぬいぐるみいっぱいあるから、あげよっか?」

「えー、そんなの悪いよ、独り暮らしになっても、わざわざ実家から持ってきたものなんだよ?小さいころから一緒だったんだし?」

「だから、良いんだよー!お嫁に出す気分であげる!」


 楓が、笑う。俺も不器用に笑った。


 とそこに、見覚えのある八百屋が見えてきて


「おはよう」


 メガネの親友、倉橋亮が、曲がり角の奥からやってきた。亮もかぐやコースだ。


 亮の顔を見て、俺は昨日を思い出す。


「昨日、凄い雨だったね。」

「帰る時間違ったからだと思うけど、私が帰った時は、雨なんか降ってなかったな。」


 と楓が言う。


 瞬間的な雨だったのかな。


 そう思ったのもつかの間


「ん?俺もなんだけど。」


 と同調する亮。


 ……待って。亮とは帰る時間が一緒だったはず……。


「どこらへんから、降り出した?」


 亮も大きく頭を捻る。


「亮と別れた辺り、だから、あの八百屋の前の曲がり角だよ。」

「え、あの時は晴れてたよ?」


 俺はあの時を思い出す。


 いきなり降り出した赤茶色の雨に、溶け込んだ俺の体。小さく小さくなっていき、俺は猫になった。


 まさか、あの雨は。


 俺は何も考えられなくなって、話題を変えることにした。




☆登場人物(現段階)☆


赤坂あかさか朱羽しゅう 

 役職 天城高校プログラミング科かぐやコース二年 副リーダー。

 容姿 赤髪。身長は平均的。

 備考 猫になる能力がある。


高円たかまど凜々花りりか

 役職 天城高校プログラミング科G+コース二年 リーダー。

 容姿 金髪。美少女。長身(女子の中では)。

 備考 主人公の天敵。


倉橋くらはしりょう

 役職 天城高校プログラミング科かぐやコース二年。

 容姿 黒髪。メガネ。身長は平均的。

 備考 主人公の親友。

 

秋月あきづきかえで

 役職 天城高校プログラミング科かぐやコース二年。

 容姿 オレンジ髪。美少女。低身長。

 備考 主人公の幼馴染。

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