十章 「思いがけないこと」

 同じ時を過ごすこと。

 一緒に思い悩むこと。

 優しさには、そんな時間も含まれている。

 精神的な行為なのだ。



 僕は君が元気になったことと君と付き合うようになったことを、春翔に伝えに行った。

 春翔が助言をくれたからうまくいったのだから、感謝の気持ちを伝えたいと思ったからだ。

 春翔は良かったなと言ってくれた。またどこかにデートに行ったか教えてくれよと言っていた。春翔も十分優しい。優しさはいろいろなところに存在するなと感じた。

 君としたいことはたくさんある。

 春翔に君とのことをいろいろ話をした。ノロケ話なのにしっかり聞いてくれた。

 話をしていると、どんどん君への思いが大きくなってきていることに気づいた。

 本当に好きなんだなと思えて嬉しくなった。



「理央君が思う幸せってどんな感じ?」


 君は学校からの帰り道に、聞いてきた。

 まだ君は幸せについて悩んでいるのだろうか。


「うーん、僕が思うのは、好きな人とずっと一緒にいられることかな」


「それは恋人だけ?」


「もちろん。人生の大半を共にするのは恋人であったり配偶者だと思う。そういう意味では、存在は大きい。でもその人だけじゃなくて、自分のことを思ってくれる人に囲まれていることかな」


 君は少し考えているようだった。


「映画を観た後で思ったんだけど。もし一番愛すべき人が先に死んでしまったら、どうなるの?ずっと一緒に居られるとは限らないじゃない。その人は幸せになれないの?」


 君は大きな瞳を少し濡らしていた。

 僕は抱きしめてあげたいという気持ちが湧き上がってきた。



 その時、前から車がこちらに向かってきた。

 どこかおかしい。

 反射的に君を道路脇に押した。

 車は僕の方に突っ込んできた。このままじゃ当たる。僕は怖くて体を丸めた。

 車の音が近づいてくる。ブレーキの音が響く。

 君が僕のもとに駆け寄ってきた。

 泣いている。

 僕は今すぐに立ち上がって話しかけたいと思った。

 でも体が動かない。

 誰かが救急車を呼ぶ声が聞こえた。

 大丈夫だよと君に伝えた。

 遠くから聞こえるサイレンの音が君の不安の音のような気がして落ち着かなかった

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