十一章 「ずっと」

 僕の怪我は大したことはなく、一ヶ月ほどで退院することができた。車はただの脇見運転だったそうだ。

 しかし、当たりどころが悪ければ、どうなっていたかはわからない。

 僕は少し怖くなった。平穏の生活はいつ脅かされるかわからない。

 でも、それ以上に君は怖かったんだろうなあと胸が苦しくなった。あの時話していたことと事故はあまりにもタイミングが悪すぎる。一層不安が強くなったのではないかと思えた。

君は毎日お見舞いに来てくれた。

 そんなに心配しなくていいし君のせいでもないと言ってもずっと来てくれた。

 でも、きっと不安な様子を出さないようにしているのだと思う。

 君の笑顔がいつもとは違って見えた。



 僕は君がお見舞いに来た時に、前に聞かれたことに答えた。


「もし、一番愛すべき人が死んだら幸せじゃないのかと前に聞いていたね」


「うん」


「僕は君より先に死なないから、大丈夫だよ」


「信じてもいいの?」


 君は少し震えていた。


「約束するよ。ずっと君のそばにいる」


「ありがとう。なら私はどんな時でも理央くんを待っているわ」


 僕は君の手をぎゅっと握りしめた。君もゆっくりと握り返してくれた。それが全てを語っているようだった。



 君とドライブにいった。

 君がここ最近ずっと暗い気持ちで過ごしてきたから、気分転換させてあげたいと思ったのだ。

 アップテンポの曲を流しながら、車は進み出した。


「ここ最近色々なことがあったわ。一気にありすぎて疲れちゃった」


 君は体を伸ばしながら話し始めた。リラックスしているようだ。


「そうだね。僕の怪我も心配させちゃったし。申し訳ないね」


「まあ、無事だったからいいのよ。もう痛みはない?大丈夫??」


「うん、本当に大丈夫だよ」


「よかった。楽しいこともあったわよね。映画では理央くんはびっくりするぐらい泣いてたし」


「それは恥ずかしいからあんまり言わないで。仕方ないじゃん、感情移入しちゃったんだから」


「そこまで素直なことが本当に尊敬するわ。人っていつの間にか素直じゃなくなるらしいわよ」


「じゃあ、僕は文明に取り残された人なんだね」


「そう、とびっきりレアな人間よ」


 僕たちは二人で笑いあった。

 こんなに時間がゆっくり流れることがあるんだと安心できた。

 君といるともっと幸せになりたいと思えた。


「今は幸せ?」 


「うん、幸せよ。胸を張って言えるわ」


「ならよかったよ。僕も幸せだよ」


「本当に?あなたの気持ちをしっかり聞いたことはなかったわ。めんどくさいとか思ってないの?」


「思ってないよ。さくらさんといると優しい気持ちになれる。これって魔法みたいだよね。辛いことがあっても、優しい気持ちになれる」


「魔法か」


「そう、そう思うと素敵じゃない?」


「素敵よ。そういう考え方好きよ。あっ、お礼がしたいんだった。本当にありがとう、私を救い出してくれてありがとう。あなたがいたから今の私があなたの隣で笑えていられるわ」


「お礼なんていいよ。僕がしたくてしたんだから」


「そんなこと言わないで。何かさせてよ。何かしてほしいことない?」


「じゃあ、一つだけ」


「なになに?」


「君から愛してると言われたい。君は思ってくれてるだろうけど、あまり言葉にしないから言われたい」


「理央くんのことを、愛しているわ。本当よ」


「あっ、ありがとう」


「頼んでおいて、照れるのは反則でしょ。私だって恥ずかしかったのよ」


「だって、本当に言ってくれるとは思ってなかったんだもん」


「私もあまり言葉にしなくてごめんね。今後は思いを言葉にするようにするわ」


「僕もさくらさんのことを愛しているよ」


 その後僕たちは、他愛のない話をずっとしていた。それからまた明日ねと約束して家に帰った。

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